想定外への対処
分断された横並び、襲撃を受けたのは疎らの様子、それでも連携崩れて混乱に落ち入っていた。
「フォーメーションが崩れて後ろに抜けられてる。壁際では怪我人も出てる。マニュアルに従い撤退に入れ。気をつけろ。ゴブリンどもは槍を持ってた」
必要最小限伝えて返事を待たずに次へ、先へ、中央へ。
時折会敵、槍持ちもやはりいたが所詮はゴブリン、奇襲無くして負ける要素などなかった。
それでどこまで来たか、不意に鼻に刺さる血の匂いに足が止まる。
先は木々の間を抜けた向こう、そろそろ中央、聞こえてくるのは喧騒よりもうめき声が大きい。
問題発生の、おそらくは発生源、一度だけ呼吸を整え踏み入る。
……大惨事だった。
生きてるのか死んでるのか、血溜まりに倒れるツナギ姿が無数、それらを庇いゴブリンと対処してるのが同数ほど、ここまでなら、まだ惨事とは言えない。
そうさせてるのは、この中で一番目立つ肉の塊のせいだった。
「ぐぉおおおおおおおお!!!」
大きく、野太く、嫌らしい雄叫びを上げるのは、ゴブリンはもちろん、俺らよりも頭二つは大きいだろう、緑色の化け物だった。
ホブゴブリン、あまり詳しくはないがゴブリンの亜種、というよりも突然変異体だった。
俺個人が信じる学説は相変異、イナゴなどが食糧不足や個体群密度の変化により外見と習性が変化するうというものだ。
その学説によれば、本来の姿がホブゴブリンで、それが過酷な環境から害虫のような安く多くの生存戦略に移行した、らしい。
こんな大きな生き物でそんな変化が、とも思うが、その上で信じさせる理由の一つに、性能差があった。
骨格からして巨大、その上に肥大した筋肉を乗せ、知能も向上して正しく育てれば人語を操れるという。
もしもの話、ゴブリンが全てホブゴブリンであったなら、彼らは単独種で国を作れるだろうと言われるほど優秀、そうならないのは滅多に産まれないからと、産まれたとしても他のゴブリンが嫉妬に狂って殺してしまうから、らしかった。
だから、ゴブリンだけの環境でここまで成長できたのは奇跡と言える。
それが現れたとなれば惨事は必然、しかもそれが複数となれば大惨事確定だった。
「ぐごごごごご!」
「げへ! げへ! へげげ!」
見える限り、確認できるホブゴブリンは三体、人語も操れる知能があると聞いてるがゴブリン環境に育った幸運から頭は良くないようだった。
だが体は立派なもの、加えて武器は奪い取っただろうロングソード、スピア、バトルアックスと強力だった。
この三匹、内の二匹がまだ戦えるツナギを襲い、残る一匹があれこれゴブリンどもに指示を飛ばしている風に見えた。
群れを統率する知能、しかし幸いにも有数な個体は去った後か、ここにいるゴブリンには届かず、フォーメーションを突破して撹乱することも、傷つき倒れているツナギたちを襲ったり人質に取ったりせず、欠伸したりハナクソほじったり使えもしない武器を奪い合ったりしていた。
間抜けなゴブリンは、逆を言えばそれだけリラックスしているということ、それだけホブゴブリンに依存しているとの証拠だった。
その中で、俺はホブゴブリンの一匹と目が合った。
「ぐご! ぐごご!」
手のスピア振り回し、俺へまっすぐ突っ込んで来る。
俺の手にはラチェット、ショートソードとそう変わらない刃渡りは、スピアの間合いには不利、かと言って重量あるため機動戦にも持ち込めない。
形勢不利、本能は逃げろと言っている。だが本望に従わないから人なのだ。
「来い!」
通じぬとわかっていても思わず出た声に、ホブゴブリンは応えるようにそのスピアを振り下ろした。
バガン!
俺は、喰いしばるように笑っていた。
スピアの長所は長い間合いからの突き、だというのにこのホブゴブリンは、叩きつけてきた。
無知だから教えてもらってないからとの言い訳もできるが、いやできない。最初に襲ってきたゴブリンは突いてきた。ゴブリン以下の知性などあり得ない。
それでも威力は強力だが、お陰で助かった。
「ぐぐ?」
自分でやっといて短くなったスピアを不思議そうに見つめるホブゴブリン、刃を立て迎え撃つラチェットに細い柄を叩きつけるという常識、理解できないあたりがゴブリンから脱しきれていなかった。
そして敵を前に棒立ちは、もはや自殺志願者だった。
ザシュ!
ラチェットの一切り、狙いは左太もも内側、可能な限り筋線維にそって走らせる。
ブシュ!
出血、首や手首同様、ここにも太い動脈が走っている。切断すれば心臓より低い分、派手に流れ出る。
これに慌てて手を当て塞ごうとするホブゴブリン、だがその表紙に自分の血で転倒、もがいてる内に出血性ショックで震え始めた。
まず一匹、仕留めた所に二匹目ロングソード突っ込んで来る。
「ぐぉぉぐぉおぐぉお!」
叫びながら左右ブンブンロングソード、戦術も戦法も何もない駄々っ子攻撃、俺は苦笑しながら地べたの汚い血を蹴った。
ビシャ!
血の目潰し、これをホブゴブリン右手を上げて顔を庇い防いで見せた。
姑息な手と笑うように、腕を退かして現れたホブゴブリンの表情は笑っていた。
だが、その影に紛れて放ったラチェットまでは対処できなかった。
ブシャ!
喉に刺さるラチェット、出血、素人でもわかる致命傷、ゴブリンどもに投擲を見せたのは宜しくないが、それ以上にホブゴブリンの非業な死を見せつけることができた。
「ぼごごご!」
最初に叫んだのはどいつか、ゴブリンどもはやっと逃げ出した。
「げげへ!」
これに手を伸ばし止めようとする最後のホブゴブリン、だがゴブリンどもに忠誠心も先を考える頭もなく、形勢は逆転した。
呆然とする背中に、トドメの一斬り叩き込めば、ホブゴブリン鏖殺は完了だった。
ゴブリンパーク 負け犬アベンジャー @myoumu
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