第16話 修行世界3

 白い空間に行くと、そこにはおっさんは居なかった。

 部屋を移動するとリセットされるか、俺が死んだタイミングで消えるか、はたまた時間経過か。

 それは追々検証だな。


「じゃ、始めるか」


〈仮想敵:シアを召喚します〉


 俺が召喚したのはシアだ。鍛錬の『魔法を10回受ける』を達成するためである。

 ギフトを手に入れてから出会った魔法使いは彼女を除けば皆C級……そんな彼らの攻撃を10回受けるのは至難の業。

 おっさんと戦った時の経験を基に考えると、彼らも手加減無しで戦ってくるに違いない。

 幸い、この世界では死ぬことこそないが、10回もベッドとここを行き来するのは億劫なので冒険者になりたてであるシアを召喚することにしたというわけだ。


「――」


 シアは魔法を詠唱しているらしい。

 仮想敵はどうやら声を発さないらしく、無言の詠唱というなんとも不気味な様子が窺える。


 少しすると、3本の炎の矢が飛んできた。

 俺はそれを躱すことなく、受ける。


 一発はまともに喰らい、一発は掠る程度で喰らい、最後の一発は剣でガードする。


〈魔法を受ける 1/10〉


 カウントされたのは一つだけ。まあそんなもんか。

 矢は3本飛んできたが、詠唱された魔法は一つだけだった。

 仮にこれで3つカウントされるのであれば、例えば無数に雨を降らせるような魔法を発動された場合、その雨粒一つ一つがカウントされ即達成という簡単な達成方法が成立してしまうわけだしな。


 シアは再度詠唱を始めているが、俺はステータスを確認する。


 HP:613/646


 度重なるレベルアップやギフトの力によって、攻撃に対しての防御力が上がる『耐久』と、属性耐性も関係する『抵抗』も上昇しているため、普通に耐えることが出来た。


 俺は、追加で敵を召喚出来ないか試してみる。


〈仮想敵:シアを召喚します〉

〈仮想敵:シアを召喚します〉

〈召喚上限に達しているため、新たに仮想敵を召喚することはできません〉

〈召喚上限に達しているため、新たに仮想敵を召喚することはできません〉


 ほほう、面白いことが分かった。

 この仮想敵というやつ、本人を召喚しているわけではないからある意味当然なのかもしれないが、同一人物を複数召喚できるらしい。

 そして、召喚できる敵の数は最大で三体までだそうだ。同一人物が3人までという制限があるのかもと、試しにゴブリンを召喚してみようと思ったが失敗に終わった。


 今現在、現実世界で体験している大量のゴブリンを相手に戦う練習というのは出来ないということだな。


 そんなことをシアの攻撃を紙一重で喰らいながら考える。


 どうやら剣で防いでしまうとダメだが、掠っている程度なら大丈夫らしい。もろに喰らうのは正直嫌だったのでありがたい。

 異空間とはいっても、攻撃を喰らえば普通に痛いんだよな。

 おっさんと戦った時は痛みを感じる暇もなかったから大丈夫だったが。


 三人に増えたシアの攻撃を効果的に受け続けることによって、すぐに鍛錬は達成できた。


〈鍛錬:魔法を受ける10回が完了しました。報酬として抵抗1が与えられます〉

〈鍛錬:初級鍛錬を全て完了するが完了しました。報酬として初級スキルが与えられます〉


『スキル『身体強化』が手に入りました』


 そして、初級鍛錬を全て完了したことによって新たなスキルが手に入った。

 手に入ったスキルは『身体強化』というもの。

 これはどうやら、魔力を用いて自身の肉体を強化することができるらしい。


 強化度合いは魔力の操作技術や、消費したMP量によって変化するっぽい。

 実際どれくらい効果があるかは試してみてからのお楽しみだな。



「さて、と。このシア達はどうしようか」

 鍛錬が達成できたことで、仮想敵シアの役目は終わった。

 ステータス差による戦闘力の差が大きいので、純粋な戦闘の練習相手としては物足りないのだ。

 ちゃちゃっと倒してしまってもいいのだが、偽物とはいえ見た目が本物そっくりなシアを攻撃するのは気が引けたので、召喚解除の方法をシアで検証することにした。


 まず、ステータスに召喚解除の項目がある。試しに一人のシアを選択して解除してみると、目の前で魔法の詠唱をしていたシアが一人消えた。

 次に、部屋を移動してみる。扉越しに見ているが、シアはまだ居る。だが、部屋を超えてまで攻撃する意思はないようで、魔法の詠唱を止めた。


 扉を閉めてみる。すると、ステータスに表示されていた〈召喚中リスト〉が消え、再び扉を開けてみるとシアが居なくなっていた。


 なんとなく分かって来たな。


 そして俺は、〈同格以上の敵を倒す〉を達成するため、ゴブリン剣士を召喚して戦い始めた。




 ◇


「よし、行くぞ! 魔法使い組が休ませてくれた分しっかり働くぞ!」


 俺は修行世界から帰還し、ゴブリンとの戦いを再開していた。

 ギフトの説明通り、あっちに行ってから時間は経過しておらず、帰ってきてからも少し休憩してからの今だ。

 向こうの世界ではHPもMPも満タンだったのだが、帰ってくるとここに来る前の数値に戻されていたので、MPが無くなる毎にあちらの世界に行って回復して戻ってくる……というのは出来ないらしい。

 鍛錬を達成した分のステータスは上昇していたのでステータスの変化が反映されないというわけではなさそうなんだが。


 そして、あちらでは食欲が湧かなかったが、睡眠欲はあるらしく、ゴブリン剣士との戦いを終えて、興奮状態が冷めると急に眠くなったのであちらで少し眠ってきた。

 元々深夜に起こされて睡眠不足気味だったのもあって短いながらも深い眠りではあったと思う。


 修行世界に入れる残り時間を全て使いきってはおらず、12時間ほど残してはいる。

 これはもし、ゴブリン王やゴブリン将軍と出会ってしまった時に、仮想敵として召喚し奴らの能力を調査出来るようにだ。

 おっさんと同格かそれ以上と思われるこれらのゴブリンと出会って生き残れる気は全くしないので、そんなことをして意味があるのかは疑問ではあるが。何もしないよりはマシだと思っておこう。


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鍛錬によって無限にステータスが上がるギフトを手に入れたので、俺はこの力で最強を目指す くちばしの子 @beak

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