戦場の天使

詩水

第1話

ふわり、と美しい白い羽を羽ばたかせてその人は音もなく地面に降り立った。

周りの誰もが彼女に注目する。

静かにゆっくりとあげた瞳は薄桃色を溶かし、純白のワンピースから伸びた足は細く白く。緩いウェーブのかかったはちみつ色の髪は風を受けてふわりと靡いていた。大きく空いた首元には真珠のネックレスに十字架が1つ。

見まごう事なき天使がそこにいた。


「なんて美しい…」


誰かが呟く。感情の乗らない静かな瞳で彼女が辺りを見渡せば、誰もが無意識に息を詰めた。


舞う土煙。鳴り止まないサイレン。瓦礫の山と、その下の亡骸。武器をとる男。逃げ惑う子供。子を逃がす女。あちこちに広がる、赤、赤、赤。

暗いその地を天使は一瞥した。


誰も何も発さない。できなかった。美しいその人が、何か変化をもたらしてくれる。期待と、不安と、焦りがないまぜになった空気が流れる。


不意に、天使は笑った。

からからと笑った。


なんて醜い。汚い人の子。

欲に負けて、何もかも失う。


天使は泣いた。

ぽろぽろと泣いた。


正さなくてはならない。もう何度目になるかわからないこの過ちを。それでも諦められず期待するのだ。

何度も何度も。

幾千年の時を超えてなお、間違いに気づかない哀れな仔羊。


それは、もしかすると自分のことかもしれないと、口元にもう一度笑みを滲ませて。


そして。


辺りを真っ白な光が包み込む。遅れて轟音が鳴り響く。突風が吹き荒れ、地面が揺れる。


あとに残ったものは、文明の亡骸と、横たわる静寂のみだった。

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戦場の天使 詩水 @neko_ni_naritai

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