ありがとうございました。

春秋 頼

第1話 返礼エピソード

この空の下のどこかにいる貴方に助けられました。


私は一度は悪魔になろうかと、本当に迷った。


最高の悪意を実行し、己を悪魔にしようかと。


実行していれば、


間違いなく極悪非道な行いをした名前を世に残したであろう。


私がそれを実行に移さなかったのは、ほんの些細な事だった。


従妹のまだ幼い子が、私に小さな手を広げてきた。


私は当たり前のように、その小さな掌に手を当てた。


私はその時、手が震えた。そして無垢な心に触れた。


今でも、その些細な事は覚えている。


そしてその感触は、しっかりと私の掌に焼き付いている。


私は病院に通っているが、薬も手術もどんな薬でも治らない奇病に


かかっている。


この前、院長と些細な話をした。院長はイギリスに友人がいるらしく


気持ちから忘れかける頃になると行くらしい。


私もまだガキの頃行った。そして私は言った。


「あの空は日本では見れませんよね」想わず笑みが生まれた。


「そうだよね。日本では絶対に見る事ができないよね」


院長も笑顔で応えた。


久々に出た、小さな自然な笑顔だった。


私はその時思った。


心の中の信念を掲げた軍が、闇の軍勢を蹴散らした。


私を助けたのは、院長でも無く、カウンセラーでもない人が


私を再び立ち上がらせてくれた。


また私は非日常な日常に戻れるだろう。


多くの人が体験できない事を体験するのは運命だと


遥か遠い前から私は言われ続けてきた。


これからが楽しみになれるよう、ただ只管ひたすらに前向きに


前向きに行こう。





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ありがとうございました。 春秋 頼 @rokuro5611

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