最終話 一週間後
文化祭から1週間が経った。
私達生徒会は、オンライン打ち上げをしていた。自分たちの家で、お菓子やジュースを自分で用意して、Zoomに集まるのだ。
私はジュースの缶を持ったまま、iPadの前に座った。
「えー、文化祭が終わって1週間経ちましたが、国枝先生から、感染報告はなかったとお知らせが来ました。見事、感染対策成功です!!」
『『おおーー!』』
「ということで、無事にすべてを終わらせることができました。今この瞬間をもって、本当に文化祭終了です! では……かんぱーい!」
『『かんぱーい!』』
カメラの前に缶を突き出してから、私はジュースを飲んだ。うん、おいしい。
「あっという間の1日だったよね、あの文化祭」
『理音はそうかもね』
燈は笑った。他の三人も笑う。
『り、理音会長はずっと忙しそうでしたからね』
『俺達はそれなりに企画も回れて楽しかった』
『一番張り切ってた理音会長が、一番参加できなかったんじゃないですか?』
「え、そうなの? そんなぁ」
私が大げさにがっかりすると、みんな笑った。
「……他のみんなは、どうだったのかな」
『みんな?』
「学校のみんなだよ。ちゃんと、楽しめたのかなって」
この文化祭は、私が私のためにやったようなものだ。でも、みんなが楽しめてこそのお祭りだ。
ずっと走り回っていた私は、その確認ができていなかった。参加していた人達の様子を、ちゃんと見れていなかったのだ。
みんな、どうだったんだろう。
『理音、実はそのことについて、今日この場で教えようと思ってたことがあるんだ』
「え、なに?」
『みんなから、メッセージが届いてる」
「メッセージ?」
『ちょっと待ってね』
燈は自分のiPadを操作した。燈のiPadの画面が、私達のiPadに表示される。
「これって、署名フォーム?」
『うん。僕らが最初にやった、署名集めに使ったフォーム。実はこれ、ずっと放置してたんだ。昨日それに気付いて開いたらさ……なんと、何十件も新しい投稿があったんだ』
「え? なんで?」
燈の画面が動く。フォームへの投稿が古いものから順に表示される。一番古いのは、クラスと名前が入っただけの、ただの署名だ。
『ほら、このフォーム、クラスと名前だけじゃなくて、メッセージも入れられるようにしてたでしょ? だから、みんながそれを使って、文化祭の感想を送ってくれたんだよ』
「えっ」
画面に、最近の投稿が表示された。日時は、文化祭の日の夜だ。
『生徒会長、どうもありがとう! めちゃくちゃ楽しかった!』
『初めて学校の生徒の前で演劇ができて、すごく嬉しかったです。生徒会の皆さん、ありがとうございました』
『いつかみんなの前で弦楽四重奏をやりたいと思っていたんです。その夢がかなって、本当に嬉しかったです!』
『文化祭、とても楽しかったです。1年のときも2年のときも全然行事がなくて、このまま何もなく卒業しちゃうのかと思ってました。でも、最後の最後にこんなに素敵なイベントができて、とても嬉しかったです。ありがとうございました』
『最高の文化祭だった! さすが俺達のビューティ眼鏡美少女生徒会長!』
そんなメッセージが、何十件も続いていた。長いのも、短いのもあった。そのどれもが、嬉しさに、喜びに満ちていた。
みんな、楽しんでくれたんだ。私は、みんなを楽しませられたんだ。
お祭りを、作れたんだ……。
『……理音?』
燈が、心配そうに聞いた。
私は、気がつくと泣いていた。
『理音、泣いてるの?』
「だって……だって、これは、私のわがままだった。私が、私がやりたくて、やったことだったんだよ。それが、こんなに……」
知らなかった。人に喜ばれるのが、こんなに嬉しいことだなんて。人を楽しませるのが、こんなに素敵なことだったなんて。
こんなの、一度知ったら、もう戻れない。
「ねえ、みんな。またやろうね。学校の行事は、まだまだたくさんある。体育祭も、遠足も、修学旅行も。私は、全部やりたい。コロナは怖いけど、対策方法はわかってる。だから、やろう! 私達のカーニバルを!」
リオたちのカーニバル! 黄黒真直 @kiguro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます