初恋は未来へ

かずぺあ

初恋は未来へ

人生で初めて異性から告白されたのは中学二年の時だった。まだまだ恋愛に疎かった俺は、返事を曖昧にし彼女と付き合うことはなかった。


正直かなり嬉しかったのだが、精神年齢の低かった俺は男友達とバカやったりするのが楽しいと思っていて、女なんか興味無いと強がっていた。しかも告白してくれた彼女はなかなか可愛いこで、そんな彼女を振ったことで俺はモテると勘違いしていた。


そんな彼女との再会は、久しぶりに地元の仲間が集まる成人式のはずだった。成人式に彼女の姿は無かったと聞いた。その一年後に彼女の葬式が行われた。


彼女は高校に入学した直後から病気になり、入退院を繰り返し闘病生活をしていたと聞いた。俺は信じられなかった。


「久しぶりだね!元気だった?」


成人式での再会はなかったが、俺は彼女の葬式の一週間前に会っていた。そのときの彼女は明るくはつらつとしていてとても病人には見えなかった。


「中学以来だな、俺は元気だよ」


中学の時の面影はあるが、大人っぽくなった彼女の雰囲気に俺は少し緊張していた。


「今日は急にごめんね、SNSで見つけちゃって勝手に連絡しちゃって、迷惑だったかな?」


「全然迷惑だなんて、思ってないよ、知らない人じゃないし」


俺は嘘をついていた。


「それなら良かった!ここのご飯美味しそうだね」


彼女は積極的に料理を注文し、俺のイメージとは裏腹にお酒も結構飲むみたいだ。


「お酒飲まないの?」


「あぁ、めちゃくちゃ弱くて」


俺はまた嘘をついていた。


終始機嫌の良い彼女は、中学の昔話や将来の話を楽しそうに話してくれた。俺は聞き手になり、彼女をとても眩しく感じた。


「私ばっかり話してごめんね」


「いや、聞いてておもしろいから大丈夫」


彼女は笑った。俺も笑った。自分自身に。


「今日はありがとう!色々話せて楽しかった」


「俺も楽しかったよ」


「じゃあ次会うときは…もう一度…」


彼女は何かをいいかけて言葉を飲み込んだように感じた。


「…また…美味しいご飯食べに行こうね!」


「あぁ、そうだな」


笑顔の彼女と別れたあと、俺は家に着くとどっと疲れと強烈な吐き気に襲われトイレで吐いた。


俺は元気じゃなかった。高校入学直後から原因不明の病気になっていた。色々な病院に行ったが原因はわからず、不安だらけの中で医者に出された薬を気休めに飲んで毎日綱渡りしているような感覚だった。

酒がめちゃめちゃ弱いとわかる以前に一滴も飲んだことも無いし、友達と外食に行くのだって今まで数えるほどしかない。

SNSだって家の中から理想の青春を演出していただけのこと。中学の同級生にバレないようにしていたはずだったのに。

俺は朦朧としながら眠りについた。


翌日の朝、俺はいつもと違う違和感に気づいた。毎朝感じていた怠惰感はなく、何かの病気かと思うぐらい体が軽く感じた。直ぐ様思い出した。これは元気という状態だ。

それから不思議なことに長年感じていた不調がなくなっていくのを日に日に感じていた。


体の調子が良くなると、気持ちもやる気がみなぎりなんでもできるような気になっていた。

今度は俺から彼女を誘ってみようと思っていた時に、今まで数回しかならなかったスマホが彼女の死を伝えた。


人の生や死はほんとに信じられない。俺はきっと普通の人よりも下の人生で、平均寿命よりもきっと生きられないのだと思っていた。

彼女は明るくて可愛いし、話も上手できらきらと将来を語っていて、きっとこういう人が充実した人生を送って行くんだろうと思っていた。


体と気持ちが充実してきたのに、彼女の葬式に向かっている自分が不思議でしょうがなかった。


「もしかして今井くん?」


「はい、そうです」


「今日は娘の為にありがとうね」


彼女のお母さんだった。俺はなんて言えばわからずにいた。


「これ、娘からなんだけど」


そう言うと手紙を渡された。そのあとは初めての葬式で焼香だとか訳もわからずに、形式ばった流れ作業のようで、現実ではないのではと思いながら淡々と別れをすませてしまった。


家に帰ると貰った手紙に目を通した。


「この手紙を読んでいるということは、もう私はこの世にいないでしょう。なーんてまさか自分がこんなこと書くなんてね笑

普通なら恥ずかしくて書けないことも、今なら書けそうだから手紙を書いてみました。いきなりだけど、中学二年の時に私が告白したの覚えてるかな?まぁ忘れたとは言わせないけどね!

見事に撃沈したのは良い想い出にしときます。初恋だったんだぞー笑

今ならなんでも書けちゃうな。覚えてるかな?小学校の頃に同じ班で社会科見学の発表会したじゃない?あのときみんなで作った発表の画用紙を私が家に忘れちゃってさ。みんなから責められてるなか、君が急遽再現しますっていって一人芝居始めたよね。みんな笑ってくれて発表会うまくいってさ。あの時が好きになったきっかけなんだ笑」


一枚目は文面から明るさが伝わってきた。文字は手書きで、力が入らないのか字が震えている。


「中学卒業してからもずっと気になってて…しつこい女でしょ笑 これじゃ駄目だと思ってたら病気になっちゃって、これがやっかいなやつみたいでさ。20歳まで生きられるかなんて状態になっちゃって。さすがに落ちたよね。なんで私なの。でもそんな時に君のSNSを見つけたんだよね!最初は気付かなかったんだけどアカウント名でもしかしてって。確信は無かったし、もし違ったら今度こそ…。病室の私に君のSNSが勇気をくれてるって思えてたからさ。」



ポツポツと文字が滲んでいる。


「それで、一時体調がほんとにやばくなっちゃって。これはもうメッセージ送っちゃおうと。そしたらやっぱり君でさ!不思議だよね!そうわかったら体調も良くなってきて、そのままのいきおいで外出許可貰って!しかも私のやりたいことなんでもしていいみたいだったからさ!だから、あの日のせいで私がいなくなったとか思わないでよね。あーなんか字を書くってこんなに疲れるんだね笑

ご飯美味しかったし、お酒は初めて飲んだけど意外と私いけるみたい。手紙書き終わったらまたSNSみよう。まだいっぱい話したいことあるから、また聞いてよね!」


字が段々と読みにくくなっていた。


「なんか書いてることよくわかんなくなっちゃったけど、読んでくれてありがとう。未来みらいくん」


俺は涙が落ちるまでの数秒で幼い日を思い出した。


未来みらいくん、私が画用紙忘れてごめんね、発表会成功させてくれてありがとう」


「俺と一緒じゃん」


「えっ?」


未来みきって名前、だから助けた」


「何それー笑」



俺も助けられたよ。スマホでSNSを開く。アカウントをもうひとつ作った。to theを足して。

tothefuture。未来へ。



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