最終回...願いの形

 大量の血を流す傷口を抑え、止血を試みるも当然血は当然止まらず、ドバドバと垂れ流しの状態。地面に流れる血に温かさを覚え、同時に寒気に襲われる。

 背後からの銃声、予想外の状況から整理するに、俺は背後から撃たれた。

 意識が薄らぐ頭を地面に叩き付け、何とか意識を保つが、想像以上の激痛にもう一度、嘔吐しそうだ。



「未来!」

「どうしたの?今の音はなに!?」

「この場には、願い少女とお前だけだ」



 恐らく眼が見えなくなった未来には、この危機的状況が分からない。

 暗闇の背後を確認すると、見覚えのある顔がそこにはあった。電車で願い少女を探していた尋ね人。

 ショットガンを携えた男が、何処から凶器を入手したかは正直の所、分からない。

 でも......これだけは分かる。計画されていた、全て初めから。



 コレは予想だが、俺が駅で貰ったキーホルダーに、恐らく盗聴器と発信機を取り付け、未来が衰えた状態兼、体力を極限まで削り、油断をした俺と未来が二人になる状況が此奴のベストタイミング。全て、計画通り。

 奴も願い少女が願いを無条件で叶えてくれるとは思わなかった。数に限度、色々と予想を立てて、この状況を意図的に作り出した。



「そんな銃、金がかかったろ」

「金なら腐る程、あってな。でも、末期癌は治せない!」

「なるほど、な。俺と同じって訳だ」

「有名バンドのボーカルが、まさかの行動だった。病室のオレはショックを受けたんだぜ?あんたのアルバムDisappearance dramaの失踪の歌詞の"才能を削り切った後で、幸福は迎える"は俺の心の支えだった」

「何の話だ?行動?」



 訳がわかない。此奴は俺に、何を伝えようとしているんだ?

 いや、違和感があった。この世界には、ありとあらゆる既視感と疑問、記憶にさへ、俺はきっと欠如していたんだ。

 触れたはずのない、楽器を手足の様に使う事が出来た。

 ____ハハッ!。

 ここで、ようやく、俺は俺の存在を完全に思い出し、腹を抱えて笑った。



「ハハハハハ」

「オレも貴方を目指し、ようやく並び立てると思ったのに、あんたは__だ!逃げるなよ、このままライは死ぬしかない」

「そうかな?そうかも、そうかもなぁー!!!」

「この願い叶う世界で、オレは願いを叶える!!」

「そうだ。この世界は挑戦する者だけが、行き着く......トライワールド!」



 走馬灯が頭中を流れ、妙に思考が回る。全力で死を回避しようとフル回転で回った思考は当然のことながら起死回生の案は出ず、他の事を考えていた。

 過去にも百回以上、シュミレーションを繰り返し、あらゆる想定を丁寧に整理して行く。



 未来は何を得て、何を喪ったのか。俺には分かる?本当は知っている?

 そう、"おレ"は知っている。

 今、確かな事は"オれ"が未来を守らなくちゃいけない、そうだろ?この決断は明日の"オレ"には、託す事が出来ない。

 大丈夫、親父の願いが付いてる。オレは、愛されて生まれてきたんだ。



「っ!本当の、あの世に送ってやる!!」

「出来ねぇよ!」



 引き金に指を駆ける瞬間、前蹴りで銃口をズラし、痛みに耐えながら拳を男の顔に叩き込み、渾身の蹴りを腹に入れる。

 即座に未来を抱え、抜かるんだ地面を駆ける。

 ズルッと草木に脚を滑らせ、ゴロゴロと地面を転がり、小さな穴に落ちる。穴はオレと未来がギリギリ入れるほどの大きさで、未来は外に出れてもオレは動く事さへ出来ないだろう。



「私も多分最後だと思う。何を望むの?君がここまで来たのは私の所為願いだもね。あの人に見付かる前に、言って」

「オレの願いは、悠花が、未来、この旅で出会った人達の末代まで幸せな世界で暮らせる様に、だ」

「ははは、君らしいな〜〜......もう。最後くらい、自分の願いを言っても、良いんだよ?」



 鼻声の未来の声が、小さな穴に響く。

 眼はオレももう見えず、三途の川に片足、いや......頭部以外、浸かっているかも知れない。ズブズブの関係だ。

 オレも、気っと最初は未来を利用して、自分の願いを、幸せになりたかった夢を、普通の人生を送りたかったと、願っていたかも知れない。

 ____そんなオレを、変えてくれた。それが、名を付けた"未来"だ。

 もう、オレはオレの人生を、満足したんだ。もしも、次の人生があるなら、もう一度、他の人の為に生きたい。



「............」

「分かったよ。最期の最後の旅まで、誰かの為だったね、君は。ありがとう、私の最期の願いが、人の為に役に立てる願いで、本当に......ありがとう」



 未来の周囲に金色の粒子が現れ、未来は金色に輝く粒子に包まれ何れる。

 何度も見てきた、そんな幻想的な光景に口を開けていると、オレにもその時が来てしまった。不思議と怖くはない。

 何故なら、予想が出来ている。自分の事ながら、無茶苦茶な___をしたんだ。

 俺達は終わりを迎え、再びやり直す。この物語を知る者は誰もいない。

 もう一人の、願い少女の願いのカタチの物語を。







 気が付けば俺は列車に揺られていた。"願い少女"と出会う前の、死に場所を探す旅路の初日の様な列車。

 左眼からあの時と同じ涙が流れ、全て夢だったんじゃないかと思い、背負ったショルダーバッグの紐を強く握りしめる。



「......願い少女?......未来?」

「ん?何言ってるの?____、_____、______。_____、__________、_____」

「何て、言ったんだ?もう一度、言ってくれ」

「ふぅむ。そろそろ新しくできる街に付くんじゃない?"未来"?」

「あっ......じゃあ旅を続けるか、楽しもうぜ温泉旅行」

「皆も待ってるしね」

「そうだな」



 止まった駅に、俺たちの長い長い二人を終え、ようやく悠花が幸せになれる駅にようやく、止まる事が出来た。

 叶えてやったぜ?そう、自分で彼奴に語りかける。

 いずれ。いつか。いつか、気っと再び俺たちは出会う事が出来る。ヒーローはもう少し、頑張らなきゃいけないが、お前の為なら頑張れる。



「行こうぜ!幸せの人生を噛み締めて、生きていこう!!」

「そうだね」



 将来、ヒーローは願いを......約束を叶えた。コレも、全て願い少女のおかげと言えるが、全てがそうではない。

 愛、そう小っ恥ずかしい言葉を胸に秘め、諦めない。壊れた運命に抗い続けた奴が、いた。

 ソイツに手を伸ばさなければ、この駅には到着出来なかったと、思う。

 人には人の物語がある。されば、彼奴は俺が知らない物語を体験して、壊れた運命に傷を付けた。



 全て、彼奴のおかげだった。ありがとう、と。感謝するよ。

 進む。感謝したい奴に、再開する為に。抱き締め、産まれて来た事を、二人で、俺が知らない、忘れてしまっているであろう縁の下の力持ち達の分まで喜び合う為に。



 かろんじていた愛に、救うわれた。

 愛は、歪めば呪いに転じてしまう程に、危うい感情だ。..................でも、呪いは過去には祝福の意味だったんだ。だから、御呪いおまじない程度に思って、頑張ばらせてくれた。

 諦めれば、そこで終わりだ。時には切り替えも大事だろう。でもさ、昔、突発に変わりたいと思ったなら、魂が叫んでいる。

 その思いは、何千、何百、何年掛かっても諦めてはならい思いだ。だから、未来は進み続けるんだ。



「コレが俺の"願いの形"だ」

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ネガイの形 稀魁紅魔 @BLACK495

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