回想終わり。

「そんなこともあったねぇ」

「懐かしいですね」

「たった一年で順応するなんてすごいよ君は」

「そうですかね? 悪魔さん良い人ですし」

「悪魔を捕まえて良い人とは……豪胆というかなんというか……」

「捕まえているのは悪魔さんの方でしょ」

 僕はコーヒーを一口飲んでソファでくつろぐ。

「君はよくそんな苦いものが飲めるね」

「これも慣れですよ慣れ」

「……慣れ、か」

「悪魔さん?」

「それは良い事かい? 悪い事かい?」

「良い事だと……思いますけど?」

「慣れは時に人を狂気に落とすよ。かつての魔女裁判がそうであったように」

「魔女裁判……」

 悪魔さんが人差し指を立てる。

「それは一つの例に過ぎない。だけどね? 人はある一定の状況に慣れ過ぎるとそれが当たり前だと思ってしまうんだ」

「……」

「君は今『わたしという悪魔がいる』という状況に慣れきってしまっている。どころか、自分から身を捧げようとしている。それは愚かな事だ」

「誰かを好きになるって愚かな事ですか?」

「ッ! 君はいつからそんな口説き方を覚えたのかな!?」

「悪魔さんに教えてもらったようなもんです」

「ああ言えばこう言う……」

「これも悪魔さん直伝です」

「そんなもの教えた覚えはなーい!」

 ぷんすか怒る悪魔さんに僕は微笑する。

「調子、戻ってきたみたいですね」

「む」

「いつもの悪魔さんです」

「そうかな、君にからかわれている気がするんだが」

「気のせいですよ、シュークリームもう一ついります?」

「もらうー」

 僕はソファを立つと冷蔵庫へ向かった。

 ふよふよと浮いてついてくる悪魔さん。

 冷蔵庫を開けると。

 そこにはメッセージカードが刺さったシュークリームが入っていた。

「なんだいこれ?」

「読んでみてください、悪魔さん」

「えっと『i love you』……って!?」

「やっぱりサプライズにしてみました」

 顔を真っ赤にする悪魔さん。

 僕も恥ずかしくなって鼻の頭をかく。

「ずっと出会って一ヶ月を過ぎた辺りからですかね、悪魔さんで頭の中がいっぱいでした。大好きです。悪魔さん」

「君は……本当にバカな子だ……」

「えっ、あれ? 泣いてます? 嘘、は、ハンカチ!?」

「いいよ別に」

「で、でも」

「大丈夫だってば」

 悪魔さんはちょこんと床に座る。

 僕もつられて正座する。

「これからも末永くよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 悪魔さんに頭を下げれこっちも即行で下げ返す。

 そんな互いの所作を見て。

 二人、笑い合った。

 

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悪魔さんはかく語りき 亜未田久志 @abky-6102

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