蔵の中、僕はへたり込み、悪魔さんは仁王立ちしていた。

「問おう」

「待ってください、その口上」

 なんとなく止めた。

「むう、これ一度は言ってみたかったのに」

「なにを言うつもりだったんですか」

「君が止めたんじゃないか、もう言ってあげないよ」

 やっぱりなんかヤバ気な事を言うつもりだったんだろう。

「まあいいわたしは公序良俗と著作権を守る悪魔さんだからね」

「なんだそれ……」

「今回は君の制止が正しかった事にしてあげよう」

 なんか褒められた……。

「ただーし!」

「うわっ」

「今から言う事はわたしが全て正しいとする!」

「は、はぁ……」

「はい、まずこれ見て」

 その手に握られたのは真っ赤な塊。

「なんですそれ?」

「いいからよく見て」

 脈打っている。

「生き物ですか? タコ?」

「違う違う、よーく見て」

「……」

 それは、心臓だった。

「うわぁ!?」

「あはは! ナイスリアクション! サイコーだね君!」

「それ……誰の……っていうかなんの……どうして動いて……」

「これはね」

 一呼吸置いて、妖艶な笑みを浮かべる悪魔さん。

「君の心臓だよ」

 僕は氷ついた。自分の胸に手を当ててその脈動を感じ取ろうとする。

 だが無い。

「あはは! 確認出来たかな? 正真正銘これが君の心臓だって!」

「どうして……僕は、生きて」

「死にたいのかい? なら握りつぶしてあげよう」

「待って!?」

「じょーだん。そんな事しないよ。こんなに面白いオモチャが手に入ったんだから」

「おもちゃって……」

 僕はただただ当惑するしかなかった。

「あなた……えっと、悪魔さんは……なにが望みなんですか……?」

「それに続く言葉は『どうしたら心臓を返してくれますか?』だね?」

「当たり前ですよ!」

「まーまーまー落ち着き玉へ青少年」

 へたり込む僕に視線を合わせてくる悪魔さん。

「これはわたしからのプレゼントだ。君はこれから一生、わたしに尽くしていくんだよ?」

「一生って」

「大丈夫、大丈夫、君以外にはわたしは見えないから」

「そういう問題じゃなくて……」

「君はこんなに美人なお姉さんが近くにいて不幸だなんて叫ぶつもりかい?」

「……自分で美人とか言わないでください」

「じゃあわたしはブサイクだろうか?」

 顔を間近に差し向けてくる悪魔さん。

 その顔を見つめているのが恥ずかしくなって目をそらした。

「……」

「顔は雄弁にものを語るね?」

「あーもー分かりましたよ! あなたは美人です!」

「よろしい、素直な子は好きだよ?」

 悪魔さんは不敵に微笑んでいた。

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