⑧
握った羊皮紙をしかし手放さない悪魔さん。
「あれだよ? 血文字だよ? 痛いよ?」
「針持って来ます。母さんの裁縫道具の中にあったはず」
「本気なのかい!?」
「ええ、本気です」
あわあわと震える悪魔さん。
羊皮紙をどこかへ隠してしまう。
「やっぱりやめだやめ! 君と契約するだなんてメリットがないよ!」
「どうして?」
「こうして一方的に心臓を握って君を呪っている方が性に合っているんだよ」
「え、俺、呪われてたんですか?」
コホン、と咳払いする悪魔さん。
「正確には祟りだね。君が不用意に古文書に触れるから」
「なるほど」
「やけにあっさり納得するね」
「まあなんだかんだ慣れてきました」
悪魔さんは不服そうにしている。
「そういう反応は嫌いだな」
「そうですか」
「君には新鮮な反応を期待しているんだよ?」
「新鮮ねぇ。あ、牛乳飲みます?」
「のむー」
どこまでもマイペースな人、いや悪魔だ。
コップ一杯の牛乳を飲み干すと。ぷはーと息を吐く。
「そういえば、なんで悪魔さんには角とか羽根とか生えてるんです? 威嚇用?」
「君を食べるためだよ!」
「あはは絵本の読み過ぎですよ」
「むう、本当に君はわたしの扱いに慣れてしまったんだね」
「これでもかれこれ一年くらい付き合ってますから」
「つ、つき!?」
「そういう意味じゃなくて」
溜め息をちょっとついて。
僕はコーヒーをいれる。
「そういや最初に会った時はそれはもう驚きましたけど」
「懐かしいね、あの君の驚き様ったら、それはもう新鮮だったよ」
――過去、一年前の祖父ちゃんの蔵での出来事を思い出す。
「なんかお宝鑑定に出せそうなものとかないのかな」
そんな邪な事を考えていた僕は古い本を見つける。
「なんだこれ? 何語だ?」
読めない文字。それに触れると。
「やっと出れたーーー!!」
「うわぁ!?」
頭には角が生えて、背中には黒いコウモリの翼が生えた少しだけきわどい恰好をした女の人が現れた。虚空から突然に。
「あの頑固爺、こんな古臭い文書にわたしを封印して。もう死んでるだろうけど天界から地獄に引きずり降ろしてやる……!」
「あ、あ、あ? え? なにこれ、CG? 浮いて? へ?」
「ん? 君は……ははーん、あの爺の子孫だな? 末代まで祟ってやるってのもありか」
「たたたたた?!」
「あはは! 面白いね君! 私の名前はエリカ=ロングスコード=エルファ=リード=ラインソード! 気軽に悪魔さんと呼んでくれたまへ」
「いや、長い名前の意味……」
それが悪魔さんとのファーストコンタクトだった。
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