第4話

 イプシルは、死を覚悟していた。ドラゴンを道ずりれにする気でいた。しかし、その時は来なかった。

「イータ、来たのか?」

 何が起こったのか、説明しよう。ドラゴンがイプシルを飲み込む少し前に、イータが空中に打ち上げたのだ。

「すみません、先生。でも、逃げる事は出来なかったんです」

「イータ.....」

 カロスは怒ろうとしたが、それはだめな気がした。実際、イータがいなかったら危なかった。

「ありがとう、そして終わり《テリオス》だ!」

 イプシルはそう言うと、地を蹴りドラゴンとの距離をつめる。そして、星技を発動した。

「この距離は外さない!スィファスキア!」

 イプシルが放った剣戟は、ゼロ距離でドラゴンの首に命中した。ドラゴンの首は切り落とされ、胴体と共に霧散した。

「イプシル様、先ほどの星技は.....」

「あぁ、前に放ったものよりも弱い。君のおかげだよ。君があいつを攻撃したのを見て、どれくらいの攻撃で倒せるのかが、わかったからね」

 イプシルは、イータを見てそう言った。

「君は、WTEIの生徒か卒業生かい?でも、君みたいな人は見た事ないんだけどなぁ」

「イータは、まだ中学生なんです」

 カロスの発言を聞いて、イプシルは驚いた。その反応は、当たり前だった。イプシルには、感じ取れていたからだ。ドラゴンを打ち上げた時、イータが星技を使っていたことに。

「それはすごいな。その年で、星技を使えるとは.....やはり、君もWTEIに入学したいのか?」

「はい!」

 イータは、間髪いれずにそう答えた。その速さに、イプシルは強い意思を感じ取った。

「なら、私が推薦しよう。君は今、中学生だから入るのは高等部だ。この年代で星技を扱えるものは、ほとんどいない。だから、試験は筆記しかないのだが、星技が使えるのなら、その必要はない。」

 WTEIには、未成人が入る高等部が存在する。ただ、星技を扱えるものはほぼいないため、座学が大半を占めている。だが、それでも倍率は高かった。

 星技を扱えるものは、特別クラスに入ることができる。特別クラスでは、座学の他に実技もある。しかし、その歳で星技を使えるものは少数なため、一般に入るものもおおかった。

「今日は、ありがとう。WTEIで君を待っているぞ」

 イプシルはそう言うと、一瞬のうちにして見えなくなってしまった。

 開けた森には、カロスとイータの二人だけが取り残されていた。少しの間、静寂が訪れる。

「イータ、WTEIに入れば今よりもっと厳しくなるぞ。それでも、いいのか?」

「はい!それが、私の目標でもありましたから」

 イータなら大丈夫だと、カロスはわかっていた。だから、もう何も言わない。イータの選んだ道を、応援するだけだ。

 二人が歩く林道には、キンセンカが咲いていた。イータの未来は明るい。誰もがそう信じていたのだった。

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