第11話
「…“リザレクション”」
魔法名を唱えると、金色の光がミッシェルの体を包む。あまりの魔力量と神々しいこの光景に、アリステラは圧倒されていた。それもそのはずである。そもそも蘇生魔法は、神話級の魔法であり、人が発動することは不可能と言われる魔法なのだ。それ容易く発動できることに驚愕し、実際に見る伝説の魔法のあまりにも美しい幻想に心を奪われる。
よし、初めての魔法だったけど成功だ。それと、体の欠損も治さないと。
“再生”
(嘘、神話級の魔法のあとに欠損も直してるの?!一体どれだけの魔力を持っているの!?
あれだけの魔法を使えるような人が、ただの旅人なわけがない。本当に人間なのでしょうか?)
自業自得とはいえ、初対面の少女にまで人外と思われるテルであった。
そして、永遠にも感じられた時間が金色の光が落ち着いていくことによって、現実に引き戻されていく。
光が完全に落ち着いた時、ミッシェルの体は傷など全く見当たらず、生きていることを示すように呼吸により胸が上下する。少ししてミッシェルの目が開かれる。
「うっ……うう……あれ、私はいったい?」
「うぁ…わあああああ、ミッシェルゥーー!」
「きゃあ!?お嬢様?いったいどうされたのですか?…あれ?どうして、私は生きてるのですか?あの時確かに死を確信したはずなのに?」
「ひぐっ、ぐすっ、ミッシェルゥー!」
「もしかして、お嬢様も死んでしまわれたのですか!?」
「……ううん、そちらの方が私たちを助けてくれたんですよ」
ミッシェルと呼ばれた少女はこちらを向き、感謝してくれた。
「お嬢様を助けていただき、本当にありがとうございます。私は、ミッシェル・レビンと言います。ミッシェルと呼んでください」
桜色の髪を後ろでまとめ、青空のような蒼い瞳をしているアリスとはまた違った凛とした綺麗な子だった。
「いや、気にしなくていいよ。旅をしていて、たまたま助けることができただけだから。俺の名前は、テル・ウィスタリア。テルって呼んでくれ」
「あの、私が目覚めるまでにいったい何があったのでしょうか?それに、なぜ私は生きてるのでしょうか?」
「それはですね、テルさんがミッシェルに蘇生魔法をかけてくれたんですよ」
「……え?………あ、あのお嬢様、今何と?」
「蘇生魔法によりミッシェルは生き返ったのですよ」
「……蘇生魔法?確かそれって、神話級魔法じゃありませんでしたっけ?」
「そう、その蘇生魔法よ」
「え〜〜〜〜〜〜!」
「それは人が使えるはずのない、神の奇跡だと言われてる魔法じゃないんですか?!」
「そのことについて、こっちの子にも言ったけど他の人にこのことは話さないでくれ」
「……色々と理解が追いつかないのですが、あなたは私の命の恩人です。ミッシェル・レビンの名にかけて話さないと誓います」
「ありがとう。さて、それじゃあこれからのことについて話そうか」
「そうですね。ずっとこの場にいるわけにもいけませんし」
「君たちは確か、学園からメーア王国の王都への帰り道ということでいいんだよね?」
「はい、そうです」
「じゃあ、目的地は王都として、今日はもう陽が落ちるからここで野営しようか」
「そうですね。夜は魔物の行動も活発になって危険ですし」
「あ!でもお嬢様、私たちの荷物何もないのですがどうしましょう?」
「それなら気にしなくていいよ」
テルはそう言って、道の端に行き何もないところに向かって、空間魔法、次元魔法、創造魔法で部屋を創り、ドアを付けた。扉を開け、2人に向かって、
「どうぞ」と言った。
「「………」」
〈反応が無い、ただの屍のようだ〉
(うるさいよ)
絶句かぁ。迷宮や樹海が基準になってて麻痺してたけど、普通に考えたらこれはおかしいしな。あとで、一旦情報を整理しよう。
「ねぇ、ミッシェル。私の目がおかしいみたいなんだけど、何故か何も無いところにいきなり扉?が現れたわ」
「いえ、お嬢様。私にもそう見えております」
「夢…を見てるの?」
「夢じゃないよ。まぁ、あまり気にしないで。さぁ、入って、入って」
扉をくぐり中に入ると、中は4LDKで広々としていた。
「よし、2人はお風呂に入っておいで、その間にご飯作っとくよ」
「え、お風呂あるんですか!?やったぁ!もう汗と汚れでうんざりしてたんです!」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてお風呂お借りします」
恐る恐る中をのぞいていたはずが、風呂と聞いた途端、嘘のように警戒心が消え喜んでいる。
「うん、ゆっくりしておいで」
さて、何を作ろうか。あまり時間をかけられないし、簡単なものでいいか。
まず、玉ねぎをスライスして、ベーコンを食べやすい大きさに切る。このとき、同時にパスタも茹で始める。ちなみに、パスタは茹で時間より少し早めに上げると良い。
ちなみにベーコンの肉は、これも迷宮産で、グラトニーボアという猪の肉だ。樹海を彷徨ってる間に燻製にしていたのだ。
次に、中火でフライパンを熱し、オリーブオイルでニンニクを炒める。そこにベーコンを入れて炒める。さらに玉ねぎを追加して、さらに炒める。
そして、フライパンの火を弱火にして牛乳とチーズを小さくちぎって入れる。
チーズが溶けてきたら、茹でたパスタを入れて塩・コショウで味を調える。
火を止めて、溶いた卵を全体にかける。
あとはフライパンの余熱で混ぜて卵をなじませて完成。
〈もう、創造を使うの自重しなくなってきましたね。前はなるべく使いたくないと言っていたのに〉
(いや、できれば使いたくないが、食材がないし、買い物もできないから調達もできない。しょうがないって諦めてるんだよ。そもそもこの世界にあるか怪しいものもあるしな)
〈この世界にないようでしたら、ご自分で作られてはどうですか?〉
(ならまずは家だな)
〈浮浪者と変わらないですもんね〉
(その言い方やめろ!た!び!び!と!)
相変わらずナビにイジられてると、お風呂から2人が出てきた。
「テルさん!なんですか、あのお風呂は!」
「お風呂に入った途端に聞こえてきた声やその声に従って取っ手を捻るとお湯が出てきたり、何かの入れ物に入ったドロっとした液体で髪を洗うと、今までにないくらいに髪がツヤツヤして驚きすぎて逆に疲れました」
「2人とも気に入ってもらえたようで良かったよ」
さっきからアリステラが興奮して喋っているが、ミッシェルも自分の髪を触りながら少しニヤケている。
お風呂の声は、事前にナビの声をインプットしておいた。おそらく、こちらと違うから戸惑うだろうと思ってつけておいた。
「さあ、ご飯できてるよ。食べようか」
「はい!」
「ありがとうございます」
2人の前に皿に盛り付けたカルボナーラを置いた。
「なんですかこの食べ物?見たことないです」
「私もないですね。でもすごくいい匂いがします」
「これはカルボナーラと言って、小麦粉を塩、卵を入れて練ったものを茹でた、パスタにチーズや牛乳などで作ったソースを絡めた料理だよ」
「そんな料理聞いたことありません。テルさんは、どこかの貴族の料理人だったんですか?」
「いや、旅人だって言ったじゃない。そんなことはいいから早く食べて。冷めちゃうよ」
「そうですね、いただきましょう」
「お嬢様。まず、私が毒味します」
あー、貴族だからそういうことも気にしないといけないのか。めんどくさそうだな。
「こら!テルさんは命の恩人なんだから毒を入れるなんて事しませんよ。いいから早く食べましょう」
「そうですね。申し訳ありません、テルさん」
「気にしなくていいよ。貴族は、そういうことに気をつけないといけないのは知ってるからね」
「ありがとうございます」
真面目でいい子だな。
◇◇◇
「美味しいー!カルボナーラと言いましたか、この食べ物。信じられないくらい美味しいです!!」
「確かに、今まで食べてきた料理とは、比べ物にならないくらい美味しいですね!」
「ありがとう。そんなに喜んでもらえると作ったかいがあるよ」
「他にも何か作れるんですか?」
「まあ大抵のものは作れると思うよ」
「本当ですか?!食べてみたいです!」
「機会があれば作るよ」
「やったぁ!」
そう言って喜んだあと、2人はカルボナーラを夢中になって食べていた。
◇◆◇
「ん〜!美味しかった!まさかこんなにも美味しいご飯が食べれるなんて思ってもいませんでした」
「私もこれほどのものを食せるとは思いませんでした」
「お粗末さま。よし、腹ごしらえも終わったし、明日の予定を決めようか」
「そうですね。では、改めて。テルさん、命を救ってくださり、心から感謝致します。その御礼に屋敷に来ていただきたいのです」
ん〜、これは多分断ることはできないか。
〈出来ません。貴族としての面子がありますので〉
だよなぁ、仕方ないか。
「わかったよ」
「ありがとうございます。それと、道中の護衛もしていただけませんか?」
「この森は、かなり危険度が高く、私だけではお嬢様を守ることができません」
「その分報酬を渡しますので」
「いいよ。俺も街に向かう途中だったし、護衛を引き受けるよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「とりあえず、明日に備えて今日はもう寝ようか」
「わかりました。おやすみなさい、テルさん」
「おやすみなさい、テルさん」
「おやすみ」
たった一つの願いを叶えるために ノアール @boukensha
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