第10話
「よし、あとちょっとで街道に出れるぞ」
〈やっとですね、マスター!〉
「…誰かさんのうっかりのせいでなぁ」
この世界に来てまだ2週間も経ってないのに、散々な目にあったテルは、何回目かの遠い目をしながらそんな会話をしていた。
「ん?なんだこの反応は?」
〈おそらく盗賊でしょう。誰かを襲ってる最中でしょうか。どうします?〉
「…少し様子を見てみるか」
そう判断し、反応があった場所まで移動し、気づかれない様に[隠密者]を発動しながら近づく。その際、まだ約5kmくらいある距離をわずか数秒とかからず駆け抜けた。十分、人外の領域に片足どころか全身どっぷり浸かっていた。
あれはナビが言った通り、盗賊だな。しかもかなりの人数だ。
そこには、百人以上の盗賊と思われる人間たちと、この盗賊たちに囲まれている少女がいた。少女は誰かを抱えながら泣いて怯えている様に見えた。
あの抱えられてる子は、[探索者]での反応でなんとなく察していたが、実際に見て、あの傷では恐らく亡くなっているだろう。
それにしてもあの盗賊たち、なんか違和感あるな?
〈盗賊にしては装備が良すぎますね。なんとなくですが統率が取れている様な気もしす〉
(この世界の盗賊ってみんなあんななのか?)
〈いえ、マスターがイメージしてる盗賊とそう変わりません。おそらくですが、背後に糸を引いている者がいるかと〉
よく見ると、騎士みたいな格好をしてるやつが何人かいた。
想像以上にブラックな世界に来てしまったようだな。
そう考えながら盗賊の声に耳をすますと、
「へっへっへ、これでもうお前を守る奴はいなくなったな。大人しく付いてきてもらおうか」
「誰が付いていくものですか!“凍てつく氷の礫よ!我が敵を”…キャ!」
そう言って少女は魔法の詠唱をし始めたが、盗賊の頭と思われる男に蹴飛ばされた。
「魔法なんて撃たせるかよ」
「大人しくしねぇっていうんなら、こうするぜっ!」
そう言って男は持っていた剣で、足元に横たわる人を切りつけた。
「いや!やめて!お願い、大人しくするから…それ以上傷つけないで」
「最初からそうしてりゃ良かったんだよ」
そう言って男は、蹴飛ばした少女に近づいていき手を伸ばした。
〈マスター〉
「ああ、わかってる」
自分でもびっくりするくらい低い声が出た。
そして、手を伸ばそうしてる男に一瞬で近づき、死なない程度に思いっきり殴った。男は近くの仲間の盗賊たちを巻き込み吹っ飛んでいった。
「「「「「……は?」」」」」
「悪いな、邪魔させてもらうよ」
表情は笑顔だが、目が笑っておらず、明らかに殺意を込めてそう言った。
「あなたは、いったい…?」
テルは、その問いかけに振り返り少し微笑んで、
「あとは任せろ」
そう言って、未だ呆然としてる盗賊たちに目を向けた。
「はッ、…あいついきなり現れた?」
「隊長が吹っ飛ばされたぞ!」
「何もんだテメェ!」
我に帰った盗賊たちは、そう言いながら剣を向けてきた。その問いかけには答えず、少し観察していた。
隊長……ねぇ。
「そんなことはどうでもいい!!とりあえずこの邪魔者を殺すぞ。これを見られたんだから生かしておけねぇしな」
「幸い、1人な上に最下級魔法師だ。この人数相手にノコノコの出てくるとはバカだな!」
最下級魔法師?
彼らの言葉に、内心首を傾げていると女の子が叫ぶ。
「どなたかはわかりませんが、逃げてください!この人数じゃ勝てません!」
その言葉に、助けてとは言わないんだ、なんて言葉が浮かんだが、今はとりあえず無視した。
「いててて、何が起こった?」
どうやら隊長さんが起きてきたらしい。
傷がない?
死なない程度とはいえ、無傷とはいかないはず。
もしかして回復魔法を使えるやつでもいたか?
「やぁ、隊長さん。君たちの邪魔をさせてもらうよ」
「んだと?…はん!最下級のくせにこの人数相手に勝てるって思ってんのか?頭イカれてんのか」
そう周りの奴らと一緒に嘲笑してきた。
犯罪者に言われるのは納得いかない。
というか、勝算があるから出てきたとは思わないのか?
「どうやったか知らねぇが、さっきのはまぐれだろうが、よくもやってくれたなぁ。死ねや!」
叫びながら隊長は向かってきた。
「だめ!逃げて!」
“ファイアーアロー”
テルの上に現れた蒼い炎の矢を見て盗賊たちは、嘲笑したが直後にその顔がひきつった。その数がおかしかった。矢の数は、ゆうに100を超えていた。
そして、そのうちの一本を盗賊たちの後方に向かって放った。
ドガーン!
全員が振り返り、後方見て絶句した。
およそ初級魔法の威力をあまりにも逸脱した魔法に、盗賊たち全員の顔が恐怖に染まっていった。
そして、
「頼む!命だけは!」
「いやだ!死にたくねぇ!」
「助けてくれ!金ならやるから」
「そういった人たちをお前らは助けたか?」
その問いかけに詰まった盗賊に、情けをかける気など起こるはずもなく、命乞いをしてくる盗賊たちに、魔法を全弾放った。
一人残った気絶してる隊長さんは、縄を創り、縛って空間魔法で開いた空間にポイした。
殲滅完了。さてと…
「大丈夫かい?」
「え?…あ!助けていただきありがとうございました。私は、メーア王国公爵家令嬢、アリステラ・ノア・レイルリットと申します。アリスと呼んでください。それで…あなたは一体何者なんですか?」
肩より少し長い透き通るような金髪に髪と同じ金色の瞳、少し幼さが残るが端正な顔立ちをしている。
「俺の名前は、テル・ウィスタリア、テルって呼んでくれ。えっと山奥に住んでいたんだけど、最近旅に出たんだけど数週間くらい森で迷子になってたんだ」
「旅人…ですか?」
苦しい創作エピソードを誤魔化すように、話題を変える。
「そう。言いたくなかったら言わなくていいんだけど、君はどうして襲われていたんだい?」
「…理由はわかりません。学園からの帰り道でいきなり襲われて、途中までは護衛の皆さんがなんとか頑張ってくれてたんですが、何人か倒れたあたりで護衛のほとんどが裏切りました。残った人たちが私とミッシェルを逃がしてくれて、森の中を逃げてたんですが追いつかれて私を庇ったミッシェルが腕をきら…れて…グスッ…なんとか戦ってくれてたんですが……うぁ、ああ…ミッシェルぅ!」
「すまない、辛いことを言わせた。…そこに倒れている子が、ミッシェル?」
「…グスッ…はい、ミッシェルは小さい頃がらいづも一緒にいで…ぐれで…しん…ゆうだったん…です」
「…そうか」
この世界は、命が軽い。こういうことはたまにある。だから、力を使うべきではないとわかっている。
でも……
『転移してくる前の俺に似ている』
そう思ってしまったのだ。
この少女の悲しみを取り除いてあげたいと思ってしまった。
だからテルは、
「少し、離れててくれるかい?」
「何を…するつもりなんですか?」
「彼女を生き返らす。それとこれは誰にも言ってはダメだ。それを守ってくれ。いいね?」
「………わかりました」
「生き返らす」というテルの言葉に何かを言いかけるが、少しして出た言葉は、祈るような気持ちがこもった了承の言葉だった。
そう言ってアリステラが離れるのを確認して、魔法を発動する。
「…“リザレクション”」
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