第9話
「いや、確かに街中にあるとまでは思ってなかったけどさぁ。探索者で周辺を探知しても森の終わりが全然見えない」
〈マスター、探知の限界の10km以内に森の端はおろか人の気配もありません〉
巨大な木々に囲まれて、日の光も届かないくらい鬱蒼としてるにもかかわらず、花と呼べるかわからないほど奇怪な植物が生えていて鹿を捕食していた。
闇雲に歩き回らないほうがいいな。上からでも見渡してみるか?
そんなふうに思案していると…
〈マスター〉
(わかってる)
ヒュン!
背後から何かが飛んできた。半身になって避けると、飛んできたのは矢だとわかった。飛んできた方向に風魔法のカマイタチを撃つ。
グギャ!…ドサッ
隠れてたのはゴブリンアーチャーだった。気配察知で探ると、周りを囲まれていた。
「グギャ!ギガ!ギョギギグキャ!」
「ギュギャ!ギュギャ!」
「ギガガガ、グギギャ!」
(ナビ、ゴブリンは何体いる?)
〈全部で19体です。その内5体ほどがアーチャーです。恐らく、本隊の斥候のようなものかと〉
(了解、ありがと)
そして、ゴブリン達が襲って来た。だが、
「あの場所のゴブリン達よりは遅いな」
焔は燃え移るからダメだ、だから“ライトニングアロー”。
黒雷の矢が光速でゴブリン達全員を撃ち抜く。撃ち抜かれたゴブリン達は、体の中から焼き尽くされ全身が黒焦げになる。そして灰になり、後には小さな魔石が残った。
「…あれ?色が違う。“鑑定”」
ゴブリンの魔石
ゴブリンの体内にある核。【常闇の樹海】に生息するゴブリンから獲れる。
「…とりあえず物騒な名前は一旦置いておいて、あの迷宮に居たゴブリンの魔石は黒く濁っていたよな?」
〈マスター、そのことも含めて報告が…〉
「ん?なんだ?」
〈あの迷宮に居た時はなぜか取得できなかったこの世界の情報が、先ほど取得可能となり、あの迷宮は【深淵の迷宮】と呼ばれる八大迷宮のひとつということがわかりました〉
〈そのうえ、まだ【煉獄の迷宮】【虚無の迷宮】の2つしか見つかっておらず、いずれも過去に大規模な攻略隊が組まれましたが、第1層のそれも初戦の魔物に全滅しかけ撤退した記録が残されており、今では迷宮に入るものはただの馬鹿か自殺志願者だけだそうです〉
〈また、先の攻略時に死に物狂いで仕留めた魔物から獲れた魔石が、赤く濁っていたとの記録も残っています〉
〈それと今いるこの森は、【常闇の樹海】と呼ばれ、冒険者ギルドのレートで表すと最低でもB+ランクの魔物であふれている森で、誰も近づかない危険な森だそうです〉
「…[叡智神]なんて言う割に、戦闘や鑑定の時しか情報をくれないから少しがっかりしてたんだけど、そういうことだったんだ」
〈失礼ですね。私だって頑張ってたんですよ〉
「悪かったよ、使えないスキルだと思って」
〈ディスって来ましたね。他のスキル巻き込んで爆発しますよ?〉
「ごめんなさい」
その場にテルしかいないのに一人で喋っていたり、いきなり頭を下げるという、傍から見たらやばい人の様な行動しているが、しっかり探索しながら森を抜けるために歩き続けるのだった。……上から見渡すということを忘れて。
◆ ◆ ◆ ◆
「ハァ、ハァ、ハァ…ハァ」
「大丈夫ですかお嬢様?」
「…ええ…ハァ…大丈、夫です」
【常闇の樹海】の街道付近をボロボロになって走る二人がいた。
「追っ手は今の所いないみたいですので、ここで少し休憩しましょう」
「わかったわ」
お嬢様と呼ばれた少女の名は、アリステラ・ノア・レイルリットという、【メーア王国】の四大公爵の一つであるレイルリット家の一人娘である。もう一人の少女は、ミッシェル・レビン。彼女は孤児であるが、レイルリット家の現当主に拾われ、同い年ということもあり、アリステラと一緒に育ち、護衛として育ってきた。
二人とも14歳で隣国の【リオルテス学園】の中等部に所属してる。春学期が終わり、帰省中に盗賊に襲われた。ただの盗賊ならば護衛に返り討ち、もしくは遭遇すらしなかったが、今回の盗賊はただの盗賊ではなかった。百人以上おり、装備が普通の盗賊が手に入れられる様なものではなかった。ボロボロの皮鎧の代わりにしっかり手入れされた軽装備に鋼の剣や盾を持ち、弓矢などで牽制しながら連携して攻撃してきた。
さらに最悪なことに、護衛の騎士のほとんどが裏切りを起こした。残った数人の護衛がなんとかアリステラとミッシェルを逃したが、圧倒的な人数差で押されすぐに追っ手が来た。
一か八かで【常闇の樹海】の中を進み、追っ手から見つからずに今に至る。
「まさか、護衛が裏切るなんて……」
「あの盗賊たちもただの盗賊とは思えないほど連携が取れてました。…まさか?」
「どうしましたミッシェル?」
「……いえ、なんでもありまーーッ!」
ミッシェルがそう言いかけてた時、アリステラの背後から剣が振りかぶるのが見えた。
ザシュッ!
「ミッ…シェル?」
◆◇◆◇
「くそ、全然森を抜けられない!」
あれから数日が経ち、テルは今だに樹海をさまよっていた。小型の恐竜の群れや、巨大な昆虫、追いかけてくる食人植物など、そのほかにもたくさんの魔物と戦闘したり逃げたりして、ろくに寝ることができないため精神の疲労がピークを迎えていた。
「ああ、ゆっくり休みたい。人どころか街道すら見つからないってどれだけ広いんだよこの森は」
〈まだこの世界で人と会話してませんもんね。……会話相手が自分のスキルとか、ぷくくー〉
「…うぜぇ」
「というか質問なんだが、[叡智神]の能力でこの世界の地図は入手できないのか?」
〈……ああ!〉
「忘れてたんかい!この数日間はなんだったんだよ」
〈まぁまぁ、失敗は誰にでもありますよマスター。気にしたらダメですよ〉
「なに、俺が失敗した風に言ってんだよ」
〈マスターが早く気づかないのが悪いんじゃないですか〉
「え?俺が悪いの?んなアホな」
〈自分の失敗をちゃんと認めないとダメですよ〉
「…もう訂正するのもめんどくさい。やっと見つけたし、街道にとっとと出よう」
こうして数日間さまよった挙句、簡単に街道を見つけられて、若干落ち込みながらも街道に向かうテルであった。
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