第8話

不気味な雰囲気を漂わせた扉に少し圧倒されながらも、ゆっくりと開けていった。


中は薄暗く、何もいないように見えた。


「どこにもいないな」


そう呟きながら慎重に部屋の奥に進むと、壁に明かりが灯り、部屋の中心に赤く光る魔法陣が現れた。


〈マスター、気をつけてください。凄まじいほどの魔力が感じられます!〉


魔法陣から紫炎の渦が吹き上がり、炎が晴れた場所には、首のない漆黒の鎧が立っていた。


「あれも魔物なのか?魔力を感じないが」


〈魔物です。おそらくアンデッド系かと〉


「鑑定を…」


しようかと言いかけたとき、いきなり鎧から魔力が溢れてきた。


やっぱり魔物だったか。


そう思っていると、鎧の手から紫炎が渦を巻きながら吹き上がり、紫炎が消えると一振りの剣が握られていた。そして、その剣を頭の上で構えた。


ゾクッ!


〈マスター、避けて!〉


その声が聞こえるよりも数瞬速く、回避していた。その瞬間、鎧が剣を振り下ろした。


ドカーーン!


凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、なんとか立ち上がってさっきいた場所を確認した。


「……嘘だろ」


思わずそんな声が漏れた。さっきまで立っていたところは、鎧がいる場所から決して近くにいないにもかかわらず、幅40センチくらいの裂け目が扉がある壁まで届いていた。


今までの敵とは明らかに格の違う敵だった。


「ナビ、鑑定結果は?」


〈鑑定結果です〉


デュラハン LV.2014


HP 2165983/2165983

MP 152680/152680


筋力:4155780

耐久:7650730

俊敏:1108540

器用:382450

知力:287100

幸運:42


エクストラスキル

[暗黒剣lLV.45][封印LV.35]


スキル

[体術LV.32][闇魔法LV.30][火魔法LV.21][縮地][無詠唱][気配察知LV.24]



……………攻撃通るのか?


「“ホーリーレイン”!」


ズドドドドッ!


英雄級の光魔法を放った。浄化の性質を持った光の雨がデュラハンに降り注ぐ。




ちなみに魔法の位階は、初級、中級、

上級、超級、帝級、英雄級、精霊級、神話級、創世級の順に高くなっていく。


閑話休題



「ダメージ通っててくれ」


魔法が止み、砂煙が視界を覆う。


〈マスター!〉


シュッ! …ッ!


砂煙から何かが飛び出してくる。


あまりにも速く、対応が遅れる。デュラハンだと気づいた時は眼前までに迫っていた。


ドスン! ドカーン!


避けることもできず、腹を剣で貫かれ、そのまま壁に衝突した。


「がはっ!」


そして、デュラハンは剣を横に振り払った。飛ばされた俺は、痛みをこらえながら立ち上がり、強化スキルを全て発動し、追撃に備えた。

しかし、油断せずに構えていたにもかかわらず、デュラハンの動きを捉えられない。直感によりデュラハンの攻撃にかろうじて剣を滑り込ませ防ぐが、ステータスに差がありすぎて衝撃を殺せず吹き飛ばされる。


クソ!強すぎる!


相手は全然力を出してるようには見えない。


並列思考で手がかりを探す。


(ナビ、何か弱点ないか!?)


〈デュラハンの魔法の弱点属性は、上から、光、雷、火の順に効きます〉


光魔法のかなり強い魔法を撃ったにも関わらず、ほとんど効いてるように見えない。


あれだけ耐久力が高いと今の俺では精霊級、神話級の魔法を撃っても、出力が低過ぎて倒すには至らないだろう。


何か、何か策はないか?


打開策が何も思いつかないまま、しばらく攻防が続いたが、やがてデュラハンが痺れを切らし、ギアを上げてきた。


ズバッ!


「があっ!」


どんどんついていけなくなり、脇腹を深く切られる。


くそ、このままだと回復が追いつかなくて死ぬ。なのに、何も思いつかない。


その時、デュラハンの剣が黒いオーラを纏った。そして、今までとは比較にならない速度で向かってきた。


ダメだ、防げないッ! 


ズバンッ!


「ぐあっ!」


速度についていけず、背後から袈裟斬りに切られた。


〈マスター!〉


(…どうした)


〈先の攻撃でスキル[全状態異常無効]が封印されました!〉


ここに来てさらに追い討ちがかけられる。デュラハンが何か魔法を放ってきた。


「くっ!…なんだこれ!」


デュラハンが魔法放ったのと同時に視界が歪み、頭がクラクラしてくる。


〈マスター、デュラハンの闇属性の状態異常魔法です。状態回復魔法を発動します〉


(頼む……ナビ、今の魔力でアレをやるにはどのくらいもつ)


〈恐らく、10秒くらいです。マスター、それはあまりにも危険です〉


(これしかない。失敗しても死ぬし、やらなくても死ぬ。成功しても倒せるとは限らないが他に方法がない。……やるしかない!)


「“タイムストップ”」


ユニークスキルの[時空間魔法]で一定領域内の時間を止めた。しかし、魔力消費量がすごく多く、時間を止めている間は干渉出来ないというデメリットもある。


付与魔法を使い、剣に[集束]の特性を付与する。


〈残り8秒です〉


剣に向かって光神級魔法〈デストラクション・シュヴェルツェ〉を発動する。剣に付与された[集束]の効果で、本来広範囲にわたって放たれる、殲滅の光が集束していく。


〈残り5秒です〉


ありったけの魔力を注ぎ込んだ魔法は、圧倒的な魔力の渦となり、徐々に集束していく。しかし、付与魔法のLVが低いせいで、神級魔法のあまりの凄まじさに集束するのに時間がかかる。


〈残り3秒〉


そこで、[魔力支配]で魔力のコントロールをして集束の手助けをする。そのおかげでなんとか間に合った。


〈1秒〉


「行くぞ、デュラハン!」


停止していた時間が動き出したのと同時に剣を振るう。


「くらえぇぇぇぇ!」


デュラハンは突然のことに反応が遅れた。


キーーーーン!


そんな澄んだ音が聞こえた後、辺り一面がまばゆい光に飲み込まれていく。


「ハァ、ハァ、ハァ…どう…だ?」


剣を振り下ろした後、光に飲まれる直前に[創造]で超高密度の魔法耐性の高い分厚いシェルターを創った。なんとかギリギリ防げたが、ステータスの差があまりに開いた格上との戦闘に魔力の枯渇で、ほとんど気力だけで立っていた。


〈マスター、デュラハンは恐らく…〉


ナビがそういうのを聞きながら、シェルターを解き外の状況を確認すると、そこには、隕石が落下した後のようなクレーターが出来ており、その中心に瀕死の状態で倒れていた。


「あの攻撃を受けても生きてるなんて凄いな」


〈デュラハンは、マスターが攻撃する直前防御魔法を発動したのでしょう〉


俺はフラフラになりながらゆっくりデュラハンに近づいていき、そばにたどり着くと、


「安らかに眠れ」


そう言って剣を振り下ろした。デュラハンは、抵抗することなく斬られ、徐々に消えていく。


我も…まだまだ…未熟よの


そう言って完全に消えた。後には、魔石が落ちていた。


『レベルアップしました。一定の条件を満たしたので、職業[覇王]を獲得しました』


そんな声が聞こえたが、疲労により気にすることができなかった。


〈マスター、階層主を倒した後の部屋は、セーフティポイントになるのでしばらく睡眠を取っても大丈夫です〉


「そう…か、じゃあしばら…く…や…すむ…ゎ」



◇◇◆◆



「くぁ〜、ナビ、どのくらい寝てた?」


〈丸一日ほど寝てました〉


「丸一日!…だいぶ寝てたな、それくらい敵が強かったってことか」


あれだけステータスの差があってよく勝てたな。


「まぁいいか、それより腹ごしらえをしよう。その後はステータスを確認して、ここから脱出するか」


(ん〜、ブラックハウンドの肉でシチューでも作るか。足りない材料や調味料はできればあまり使いたくないが、創造で出すか)


[無限収納]から出した鍋に、道中に狩ったスキアー鳥の鶏ガラを野菜と一緒に水で煮込む。こまめにアクを取り、煮込み終わったら、それを濾してブイヨンを作る。

〈以下略〉

ジャガイモとニンジン、ブロッコリーを一口サイズに切り、下茹でをする。

その間に、鍋にバターをひき、ブラックハウンドの肉と玉ねぎを軽く炒める。

下茹でしたジャガイモとニンジン、ブロッコリーを鍋に加えたら、一度火を止め、小麦粉を入れる。

水、牛乳、さっき作ったコンソメを加えて火を付ける。

焦げないように弱火で煮込み、塩、胡椒で味を整えたら完成。


〈一からコンソメを作り出したので、何時間もかける気なのかと思ったら、時空間魔法で時間短縮したおかげで、3分クッキング♪になりましたね、マスター〉


「…なんかどんどん人間じみてきてない?」


〈お気になさらず、マスター〉


「…そう、まぁいいか。いただきます」


スプーンで肉を掬い上げ、口に運ぶ。


煮込まれたことでほろほろになった肉の食感や噛むことで溢れる肉の甘みが、今までに無いから美味しく、一瞬動きが止まる。


「肉が美味しい。美味しすぎてシチューが物足りなさを感じる」


とはいえ、基本的な作り方しか知らないため、どのようにアレンジすればいいかわからない。


「この世界の魔物の肉ってあんなにうまいものなのか?前の世界の高級食材よりうまいぞ」


〈もしかしたらここの迷宮の魔物だけかもしれません〉


「そうか、道中に倒した魔物の肉が無限収納の中にまだたくさんあるからワクワクするな」


その後も食べ続け、作った分を一瞬で平らげた。


「よし!腹ごしらえも終わったし、ステータス確認するか。ナビ、新しいスキルとLVが上がったものだけを表示してくれ」


〈了解です。これが今回のステータスです〉


テル・ウィスタリア LV.1404


種族:天魔族

性別:男

職業:覇王 new

年齢:17


HP 1856890/1856890

MP ∞


筋力:6885470

耐久:2587970

俊敏:3102590

器用:91270

知力:error

幸運:690


エクストラスキル

[スキルレベル上昇 極]new [覇気]new


ユニークスキル

[剣神LV.69] up

[焔魔法LV.12] up

[魔力支配LV.54] up

[時空間魔法LV.42] up

[結界魔法LV.38] up

[付与魔法LV.21] up

[重力魔法LV.12] up

[支援魔法LV.11] up


スキル

[体術LV.51] up

[全属性魔法LV.18] up

[身体強化LV.58] up

[超再生LV.48] up

[超回復LV.32] up

[直感LV.59] up

[探索者LV.38] up

[隠密者LV.27] up

[全物理攻撃耐性LV.39] up

[全魔法耐性LV.19] up

[料理LV.28] up


称号

[覇王] new




「……………」


〈元からとはいえ、人外の領域へようこそ、マスター〉


「…やかましい」


もうツッコむのも疲れたし、スルーすることにしよう。


「それじゃあ脱出しようか」


〈やっとですね〉


「ほんとにな」


迷宮内での出来事が濃すぎて思わず遠い目になる。


そして転移魔法陣に乗ると魔法陣が起動し始めた。


「外はどうなってるかな?」


〈いざ、冒険に!〉


「…本当にどんどん人間くさくなるね」


魔法陣が起動し、光に包まれる。光にが消えて、目の前に広がっていたのはーー


「…………………」


不気味なほど暗く、鬱蒼とした森だった。


「なんでだよーーーー!」

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