第102話 宝箱?

「ふふ~ん♪」


 鼻歌を口ずさみながら、マルギットが、豪奢な飾りが施された大きな宝箱に近づいていく。その足取りは軽快だが、足音が聞こえない。軽く見えるのは表面上だけで、彼女は本気だということだろう。


 僕をはじめ、ルイーゼも、イザベルも、リリーも、ラインハルトも、固唾を呑んでマルギットの様子を見ていた。ラインハルトは、すらりと大剣を抜き、既に臨戦態勢。僕もヘヴィークロスボウの狙いを宝箱に合わせる。


「どれどれー?」


 マルギットが、宝箱の前でしゃがむ。これから開錠に挑むのだ。僕の聞いたところ、この開錠しようとした時が、宝箱に擬態したミミックが襲ってくる可能性が一番高いらしい。


 僕は、緊張に震えそうになる右手の人差し指で、ヘヴィークロスボウのトリガーをゆっくりと引いていく。


 しかし、マルギットは腰に吊るしていたシーフツールで宝箱の開錠を始めるが、宝箱に変化はない。まさか、本当に宝箱なのだろうか?


 いや、その可能性はかなり低いはずだ。高レベルダンジョンの宝箱で、罠が無いというのは考えにくい。あの宝箱は、宝箱に擬態したミミックの可能性が高いのだ。


 いつ襲いかかってくるか分からないミミックを相手に、僕たちはぐっと攻撃する機会を窺っていた。


 部屋の中には、マルギットの操るシーフツールのカチャカチャという音が響くだけだ。


 もう、ミミックだと断定して、攻撃の指示を下すべきだろうか?


 そんな迷いも生じてきた時だった。ガチャリと重い音が小部屋の中に響いた。


 開いた? ミミックは?


「なんか、普通に開いちゃったんですけどー!」


 マルギットにも予想外だったのか、指示を仰ぐように僕を見た。


「ミミックじゃ……ない?」

「襲ってくる気配はありませんね。宝箱だったのでは?」


 さすがのラインハルトの言葉でも、僕はすぐに呑み込めなかった。


 宝箱? このミミックだらけのレベル7ダンジョン『万魔の巨城』で? しかも罠無し? どんな確立なんだよ。


「まさかそんなわけ……。マルギット、罠の気配はある?」

「ないよー! 全然ない!」


 もう一度確認しても、マルギットによると罠は無いと言う。まさか、本当に宝箱なのだろうか?


「やったわね! 中にお宝が入ってるんでしょう?」

「おた、から……!」

「お宝ー!」


 ミミックだと思ったら、急遽、普通の宝箱の可能性が出てきたことで、ルイーゼとリリー、マルギットが色めき立つ。


「まだ油断はできないよ!」

「クルトの言うとおりね。ひょっとしたら、マルギットのギフトでも発見できなようなトラップがある可能性もあるわ。気を付けなさい」


 イザベルの言葉に、皆の意識が張り詰めたようにピンッと張るのが分かった。


「では、どうしますか? 開けないという選択肢もあるような気もしますが?」

「そりゃ開けるっしょ! 宝箱を見て開けなきゃ冒険者じゃないって!」


 ラインハルトの慎重論をマルギットが蹴り飛ばす。たしかに、ここまできて諦めるのはもったいない気がした。


「今回は開けてみよう。でも、十分注意してね。罠の可能性もあるし、ミミックの可能性も捨てきれない」

「りょっ!」

「分かりました」


 僕の判断を支持するように、マルギットとラインハルトが声を上げてくれた。彼女たちは宝箱の前に陣取っている。一番危険な立ち位置だ。勇者になっているため、耐久力も上がっているだろうけど、そこに胡坐をかくことはできない。


「んじゃ、開けちゃうよん?」


 マルギットが、片手で宝箱の蓋を開けていく。まったく緊張していないように見えても、マルギットのもう片方の手は、腰の短剣を握っているのが見えた。


 ギィ……ッ!


 マルギットが慎重に、ゆっくりと宝箱の蓋を開けていく。まるで動物の断末魔のような高い音が、小部屋の中を木霊する。


 そして――――。


「開いちゃった……」


 マルギット自身も呆けたように呟くほど、何事もなく宝箱の蓋が開いた。罠が作動する気配もなく、この期に及んでも正体を現さないということは、ミミックではないのだろう。


「お宝ってこと!?」

「ルイーゼ落ち着いて。マルギット、中に何が入ってる?」

「んとねー……」


 好奇心からか、高揚感からか、ルイーゼが興奮したように声を上げる。僕はそれを制して、マルギットに宝箱の中身を尋ねた。


「なにこれ? 矢かな? それとー……」


 宝箱の中身を回収していくマルギット。どうやら本当に罠も無ければ、ミミックでもないらしい。すごい確率を引いたね。


「これで全部かなー」


 マルギットが全てのアイテムを宝箱から取り出すと、宝箱は空気に溶けるように消えていった。ダンジョンの宝箱に見られる現象だ。


「何事もなくてよかったですね。中身のアイテムも無事に回収できましたし、喜ぶべき事態でしょう」

「もー! ハルハルったら固いー! 宝物ゲットしたんだよ? もっと素直に喜ぼうよ!」


 マルギットが、ラインハルトに肘鉄砲している。でも、僕も心情としてはラインハルトに近い。皆、無事でよかった。宝箱かミミックか本当に分からなくて、こんな緊張を強いられるくらいなら、いっそミミックであってくれと思ったほどだ。


「それで? 回収したアイテムがそれね? これって宝具なのかしら?」



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