第3話

あくまでも俺が知っている範囲で語る、市野瀬未来は


飛矢高校3年生。

顔つき、気品が感じられる大人びた顔つき。

髪型、黒髪ロングのストレート。

装飾品、身につけない。

家柄、裕福な家。

部活動、書道部。

成績、全国トップクラス。

運動能力、低すぎない程度で人並み。

友達関係、多すぎない程度。

親族関係、父母健在・祖父他界。

性格、少しおっとりしていて優しい。

評判、大変良い。

一人称、私。

好きな小説のジャンル、ダークファンタジー。

好きなアニメのジャンル、ダークファンタジー。

好きな人、存在不明。

嫌いな人、存在不明。

俺との関係、親同士が親しい。直接の絡みは少ない。

学校での俺との関係、一つ上の先輩。


市野瀬に感する俺が知りうる限りの情報。

神代 零にとって市野瀬 未来は、友達の友達程度の感覚でしかない赤の他人だった。

そんな彼女がいきなり家族になって、同じ屋根の下で過ごすことになるなんて夢にも思っていなかった。


「市野瀬さんはお父さんの親友でね。『いつか娘と零を会わせたい』ってよく言われるんだ。お父さんとお母さんにもしものことがあったら、市野瀬さんを頼りなさい。」

いつか父さんが言った言葉。

この時こそ、適当に聞き流していた言葉だったけれど、アレがあってから事態は急変した。


両親の乗った車と、走っていた大型バスが衝突したのだ。

なんでもバスの運転手が急性の心臓発作を起こしたらしい。


大型バスは暴走し、なんの罪もない二人の命を奪い去って行った。


「落ち着いて聞いてください。ご両親が事故に遭いました。命の方も極めて危険な状態です。」


そう俺に告げたのは、県警からの突然の電話だった。

まだバイト中だった俺は店長に緊急の旨を告げ、早退き。

急いで両親が搬送されたという病院に向かった。


そこからはとんとん拍子だった。


両親が搬送された病院の名前は『市野瀬病院』。

父が懇意にしている市野瀬さんが院長を務める総合病院だった。


「君のご両親は助からない。」

そう俺に告げたのは、市野瀬院長だった。

その言葉に対して、「そうですか」と答えた俺の声は、とんでもなく弱々しかった。


…声を出した俺自身もまた、その貧弱さに驚くほどに。


「零君。このままじゃ君は一人になってしまう。頼れるような親戚の方はいるのかい?」

「いいえ、俺の知る限りではいません。祖父母ももう他界してしまって…。」

「ではどうする?君さえ良ければ、私の方で君を引き取ろうと思うのだが。君のお父さんとの約束なんだ。もしもお父さんに何かあった場合には、零君をよろしく頼む。と、言われていたからね。」

「……。」

「返事のし辛い質問だったね。じゃあ、こうしよう。お父さんお母さんのことは私に任せて君は今夜早速、荷物をまとめる作業を進めてくれ。私の家に引っ越しだ。君と年の近い娘がいるが、すぐに慣れるだろう。初対面という訳でもないしね。君は一人になりたくなったらいつでも私の家を出ればいい。」

「……ありがとうございます。」

「明日の朝、君の家に引越し業者が行くようにしておくよ。」


院長に言われた通りに荷物をまとめなかった俺は、深夜に家を出て、街をぶらついていた。

どうしていいかも分からずに、ただなんとなく歩いていた。

そんな時だ。


「やっと見つけたよ、神代君。」


それは俺に向けられた声。

市野瀬未来の声だった。


「ずっと探してたんだからね。お父さんが、君の家に電話しても誰も出ないから見てきてくれって。それで君の家に行ったんだけど君はいないし…。もしかしたら、変な気でも起こしたんじゃないかって心配したんだから。」

「市野瀬さん、すみません。」

「そんな他人行儀にしなくていいよ。家族になるんでしょ? お姉ちゃんとか、未来ちゃんとか、未来とか。」

「……はい。」

「じゃあ、君の家行こうか。引っ越し作業、まだ終わってないでしょ。手伝ってあげる。」


というわけで。

俺は彼女に言われるまま家に戻り、引っ越しの準備を完了した。

気が急いて寝具一式もまとめてしまったので眠る場所を失ってしまった俺は、彼女の好意に甘えて家にお邪魔させてもらうことにしたのだ。


「お邪魔しますも何も。もう君の家でもあるんだよ。遠慮なくてしなくていいんだから。」

「ありがとう、市野瀬さん。」


俺の人生が大きく変わる、その1日目の出来事だった。

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影の国 蒼樹とも @aokib7605

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