第2話
その日、学校ではとある噂が広がっていた。
この学校のとある男子生徒に関する噂だ。
彼は自分の家から通学せず、この学校のとある女子生徒の家から通学したのだとか。
どういう事情なのかは誰も知らないので、憶測でしか語れない。
だけど事情なんてどうでもいい。
大切なことは、その男子生徒は、女子生徒と同じ家で一晩を過ごし、朝になって家を発ったということだ。
誰の目にも触れないような陰気な人物達のことならここまで話題にはならなかったのだろう。
しかしながら、今回に限っては男女ともに、この学校において有名且つ、異性の人気を集めて止まない二人だったのだ。
かくいう私も、その噂話を友達から聞かされて心がざわついている。
「空、大丈夫? 神代君って小学生からずっと一緒なんでしょ。」
「一緒だけど。別に付き合ってるとかじゃないし、神代君が誰と一緒にいても問題ないよ。」
「そうなの? 私知ってるんだよ? 空、いっつも神代君のこと目で追っかけてるの。 好きなんじゃないの?」
「誰がアイツのことなんか。」
そう、誰がアイツのことなんか。
もし、仮に。そう、これはあくまでもしもの話だけど。
もしも私が神代君のことを好きなんだとしたら、小学生から高校生までの十年間で告白の機会も沢山あったし、バスケ部エースだった私が臆するハズなんて無い。
きっとどこかのタイミングで告白してる。
そう。
だからこれは違うのだ。
どんなに胸が痛んでも。
どんなに心が泣き叫んでも。
この気持ちは決して恋なんかじゃない。
昔から知っている男の子が、私より進んでいることに敗北感を感じているだけなのだ。
「まあ、あくまでも噂だし。実際どういう事情があるかっていうところも、誰も知らないんだけどね。」
と、友達はこの話題に対してフォローを入れた。
「その噂って、今朝の話なんだよね。」
「そうそう。今朝、神代君が市野瀬先輩と一緒に家を出てきたって。」
そうなんだ。
じゃあ昨晩、神代君はあのまま先輩の家に帰ったのだろうか。
…神代君はあの時、たしかに泣いていた。
あの涙は、市野瀬先輩と何かがあって流した涙なのだろうか。
「聞かないで。」と、彼は言った。
今にして思えばアレは、明らかな拒絶の言葉。
自身の領域に立ち入られることを嫌った言葉だった。
神代君はその問題に関する真実を、誰かに話す日が来るのだろうか。
もし話す日が来るのなら、その相手は私だったらいいなと、私は思っていた。
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