第40話 五日目の夜

 黙っていてもよかったはずだ。


 実際、姉はそうする事を奨めてくれた。


 でも出来なかった。


 遊馬は恥ずかしい夢精を正直に告白したのだ。


 自分だけ黙っていたら卑怯者になってしまう。


『十五回!? 青葉ちゃん、本当に?』


 雫が驚くのは当然だ。


 一回や二回ならともかく、禁欲プレイ中に十五回だ。


 バカすぎる。


 でも、止められなかった。


 最初に一人でしたのが一回、その後姉とこってり数時間。


 その結果の十五回だ。


 男は勿論、女が相手でも姉は初めてだったらしい。


 初々しい反応に、青葉はめちゃくちゃ興奮した。


 大好きな憧れのお姉ちゃんを征服している! 最高に気持ちいい!


 最近雫にはやられっぱなしの青葉である。


 久々にSの喜びを思い出してものすごく満たされた。


 一方で、姉の攻めに予想外にいかされてしまった。


 テクニックこそ拙いが、それが逆に新鮮で気持ち良い。


 それに、エロ漫画家だけあって、姉の引き出しは豊富だった。


 必要なら躊躇なく道具を使い、あんな事やこんな事をされてしまった。


 大好きな実の姉とエッチな事をしているという背徳感もあって、青葉はめちゃくちゃ興奮して遊馬並の早漏になってしまった。


 漫画の締め切りがなければ一晩中やっていたかもしれない。


 あぁ!? あたしってばなんて事を!?


 ……でも、最高だった……。


 って、バカバカバカ!


 嬉しさと罪悪感と自己嫌悪でドロドロである。


『……実はその、昨日仕事手伝いに行ったら、お姉ちゃんに誘惑されちゃって……』


 姉と寝たのが数時間前。


 まだ余韻を引きずっていて、頭がぼんやりしていた。


 引かれるかなと思いつつ、もうどうにでもなれという気持ちで言ってしまった。


『え~!? いいな~! そんなのまさにエロ漫画じゃん!? どうだった?』


『……まぁ、良かったけど』


 雫に引かれなくて、青葉は心底ホッとした。


『いいないいな~! 私もエッチなお姉ちゃんが欲しいよ~! でも、それはそれとして青葉ちゃん浮気だよ? 私と付き合ってるのにお姉ちゃんとするなんて! どっちが良かったの?』


『え、ちょっと待って。お姉ちゃんは浮気じゃないじゃん』


 急に話の流れが変わって青葉は狼狽した。


 アレが浮気になるなんて、まったく思いもしなかった。


『お姉ちゃんだろうがお兄ちゃんだろうが浮気は浮気でしょ。怒らないけど、嫉妬しはするよ。しかも十五回もなんて! そんなに良かったんだ。ふ~ん』


『ご、ごめんてば!? お姉ちゃんは雫に似てるの!? それになんか、あたし達がモデルのエロ漫画描いてて、それでなんか興奮しちゃったって言うか……』


 寝取り女の自覚はあるが、浮気を責められる側になるとは思いもしない。


 青葉はすっかり困ってしまった。


『私がお姉ちゃんと似てるからなんだって言うの? それってなにか言い訳になる? むしろ余計に嫉妬するだけなんだけど。私をムラつかせたいなら上手くいってるよ? もう、今すぐ青葉ちゃんをメチャクチャにしたいもん』


「ひぃっ!?」


 これは結構マジで怒ってる。


 そう直感して青葉の肝が冷えた。


『ごめんなさい! 本当に、魔が差しただけっていうか……。あたしは雫一筋だから!?』


 姉と寝た後では虚しい言葉でしかない。


 けれど、青葉は奇妙な喜びを感じていた。


 ただのセフレのつもりだったが、雫はちゃんと嫉妬して怒ってくれたのだ。


 こんな風に言い訳を出来るのも、彼女になれたみたいにいい気分だ。


 問題は遊馬だ。


 こんな弱みを見せたら、ここぞとばかりに罵倒されるに決まっている。


 寝取り魔の癖に実の姉と浮気とかヤバすぎるだろ!


 なにが雫一筋だ! お前にはそんな事を言う資格はない!


 とか、そんな事を言われる気がする。


 実際、言われても仕方ない事をした。


 雫を争う恋のレースでは、一気に差をつけられた気分である。


 自業自得だから、言い訳のしようもない。


 ところがだ。


『……いや、悪いのは俺だ。そのカウントはなかった事にしてくれ』


『……はぁ?』


 またこれだ。


 この男は脳ミソの代わりにバファ〇ンの半分でも詰まっているんじゃないだろうか。


 訳が分からないのは青葉だけで、雫はなにか感づいたらしい。


『あ~。遊馬君、いけないんだ~』


『すまん……。まさか俺もここまで大事になるとは思わなくて……』


『ちょっと。勝手に納得しないで! どういう事?』


『伏見に負けたくなくて紅葉さんと取引したんだ。一時間パンイチでモデルをするから誘惑して貰えないかと……』


『……サイテー』


『だから謝ってるだろ!? 精々ちょっとムラつかせて一人でチョメチョメさせるだけだと思ってたんだ!? 本当にごめん! 悪かった! この通りだ!』


『……じゃあ、お姉ちゃんとのチョメチョメはナシで、あたしが一人でしちゃった一回だけにしてくれるなら許してあげるけど』


 遊馬にハメられたのは癪だが、不思議と腹は立たなかった。


 気持ちよかったが、お互いに火遊びのような感覚だった。


 ラブではなく、変態姉妹のちょっと異常な戯れといった所か。 


 なんにせよ、最高の体験だったのは間違いない。


 なんなら遊馬に感謝したいくらいだ。


『勿論だ! 雫がいいならだけど……』


『二人仲良くマイナス2ポイントって事にするならいいよ?』


『あぁ。それでいい。俺にも責任があるからな。伏見も、それで勘弁してくれるか?』


『あたしはいいけど……。マジさ、滝沢、お人好し過ぎ。いつか絶対痛い目見るから』


『でも、そこが遊馬君の良い所だよね。私、惚れ直しちゃった』


『いや、卑怯な手を使っただけだろ。どこに惚れ直す要素があったんだ?』


『馬鹿正直な所じゃない?』


『うん、正直なのが一番だよ!』


 そんなこんなで五日目の夜が終わった。

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彼女がNTRれたので三人で付き合う事になった。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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