第3話

北村さんがいなくなって部署は以前の雰囲気に戻った。私も落ち着いて仕事ができている。

 佐藤さんと飯島さんが退職のあいさつに来たのは、さらに数日がたってからだった。


「里奈ちゃん、話があるんだけど帰りに会えない?」

一通り挨拶が終わったあと飯島さんが言った。

「いいですよ」

「それじゃ、いつも歓迎会とかやるお店で。待ってるから」

「わかりました」

 話ってやっぱり、行方不明になっていた間の事かな? それとも北村さんの事? その両方?その日の仕事をさっさと終わらせると約束のお店にむかった。

 「ごめんね、人数減っちゃって忙しいのに。 早く帰って休みたいでしょ?」

 「大丈夫です。 何の話か気になりますし」

「うん、私たち休んでいた間、北村さんの事調べていたの」

「何か分かったんですか?」

「俺、監禁されていたんだよね」

「えぇー!?」

いきなりの告白に大声を出してしまった。幸い店内は客が多くてあまり注目されずに済んだ。

「バカ!いきなりそんなこと言ったら誰だってびっくりするでしょうが!」

「あ、ゴメンゴメン」

「な、なんですか監禁って?誰に?」

「北村梨花の信者」

「信者? あの人宗教か何かやってたんですか?」

信者なんて言葉、出てくるなんて思わなかった。ただ、ちょっと霊感が強い人だと思っていたのに。

「宗教とか大げさのものではないみたい。なんか彼女のことを信じ切っている取り巻きの集団って感じかな?」

「それで、北村梨花を信じるように言われていた。 暴力とかはなかったけどね。こわかったよ」

それはそうだろう。佐藤さん、大変な思いしていたのだな。

「それ警察にいわなくてもいいですか?」

監禁されていたのなら、完全に刑事事件とかいうのではないのだろか?

「浩が解放された時に脅されたの。 このことは誰にも言うなって。私も浩も気持ち悪くてね。警察には言っていない」

「でも気になるから彼女の事、ちょっと調べてみたんだ。 彼女の学生時代の同級生とかにね」

「それでどうだったんですか?」

「なかなか話してくれる人見つからなくてね。でも、彼女の中学の同級生が一人 話してくれてね」

 話してくれる人がいなかったってやっぱりみんな怖いのかな?

「北村さん、やっぱりというか学校ではあんまり目立たなかったらしい。それがある日突然、幽霊が見えるっていいだしてね、最初はクラスメートも半信半疑だったようだけど。北村さん、その頃よく信じて、私を信じてって言っていたそうだ」

なにかちょっと必死さをかんじるな。

 「でも、彼女の言うことがことごとく当たって。 それでみんな信じるようになっていったらしい。 ほかのクラスや違う学年の人も北村さんに相談するようになっていったって」

「北村さん学校の今でいうスクールカースト上位の人たちに囲まれてご満悦だったようで。 でも、北村さんの予言が当たるとその上位の人たちがどんどん信者みたいになって、 彼女を信じない同級生をいじめたりしていたって」

 「その人たちが今も中心になって彼女を崇めているみたい。きっと主任もその信者たちに監禁されているのだと思うわ」

 怖いな。私も信じなかったら彼女の信者に監禁されたのだろうか。主任大丈夫かな。


「私たち田舎に帰るから彼女とは縁が切れると思う。 里奈ちゃんも気をつけて。 落ち着いたら連絡するわ」

 「はい、待ってます」


二人とはそれで別れた。


北村さんとその信者が逮捕されたと聞いたのは、さらに数か月がたったころだった。

主任の家族が警察にとどけたのと、彼女たちが一人暮らしの資産家にとりいって財産を奪おうとしていたとのことだった。主任もだいぶやつれていたけれども保護されて、病院で治療中なのだそうだ。


 それにしても北村さん、その能力で自分の未来を見られなかったのだろうか。

 それともよく聞くように、金もうけをたくらんだから能力がきえてしまったのだろうか?真相は分からない。

 でも、信者がいたとしても変なことせずに占い師として生きていけばそれなりに稼げて有名になれたのではないか、もったいないないなぁと私は思う。


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信じて 保科早里 @kuronekosakiri

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