第2話
二人が見つからないままもうじき一か月になろうとしていた時だった飯島さんに話しかけられたのは。
「里奈ちゃん」
飯島さんはかなり深刻な顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「あなたどう思う?北村さんの事、浩がいなくなったのって本当にあの人のせいだと思う?」
飯島さん、やっぱり佐藤さんと付き合っていたんだな。
「わかりません。でも、幽霊や未来が見えるっていうのは本当にあるかもしれないとして、霊能力とやらで大人の男性を二人もあとかたもなく消してしまうなんてそんな事、できるんでしょうか?」
「そうだよね。でも、あの二人がいなくなる前、北村さんを疑う言動をとっていたのは事実だから。あなたあの人の隣の席でしょ?この一か月あの人どんな様子だった?」
「そうですね……」
北村さんの様子を思い出す。普通に仕事していたっけな。そのまま飯島さんに伝える。
「あんまり変わらなかったです。あ、奈々ちゃんは相変わらず色々相談していたみたいですけど」
「奈々ちゃんね。あの子にきいてみようかな」
「佐藤さん、全然連絡取れないんですか?」
「取れないの。部屋にも戻ってきていないし、実家にも連絡がないみたい」
好きな人と一か月も連絡とらないなんて辛いのだろうな。何とかしたいっていう飯島さんに気持ちがよくわかる。
「明日、一緒に奈々ちゃんに何か聞いてみますか?」
「うん、そうだね。私、あの人を見つけたい」
奈々ちゃんに聞いてみて何かわかるとは思えないけれど、何もしないでいるよりはましなのかも入れないと私はおもった。
翌日、二人でさっそく奈々ちゃんをつかまえた。
「奈々ちゃん、あなた北村さんに色々相談しているみたいだけど、どうなの?」
「どうなのって何ですか?」
「だから、彼女の言っていることってあたっているの?」
奈々ちゃんはキラキラした目で私たち二人を見つめてきた。
「すっごく当たっていますよ!あの人は本当にすごいです!」
すっかり心酔してしまっているようだった。当たっていたという内容も、彼氏とのちょっとした喧嘩や家族の病気など多岐にわたっていた。
「北村さん、その何か言っていた?主任や佐藤さんの事」
それとなく飯島さんが聞く。
「別に何も言っていないですよ。でも、当たり前なんじゃないですか?」
「当たり前って?」
「主任も佐藤さんも梨花(りか)さんを信じないから悪いんですよ!ああなって当たり前です!」
彼女、梨花さんって呼んでいるのか。そこまで親しくなっているなんて知らなかった。そして、同時にゾッともした。
人が二人行方不明になっているのにそれを当たり前と思ってしまうなんて。
「梨花さんを信じれば悩みもなくなるし、いいこといっぱいあるんですよ。それを信じないで疑うようなこという人たちが悪いんです!」
飯島さんも絶句している。奈々ちゃんて、こんなこと言う子だったっけ?
「それなら、あの人に相談すれば浩はかえってくるっていうの?」
半分、怒りのようなものが混じっているように見える。
「おはようございます」
そんなタイミングで北村さんが出社して来た。最悪のタイミングかもしれない。
「あなた……、ねぇ、あなたを信じればいいの⁉あなたを信じていいことがあるってことは、私があなたを信じれば、浩をかえしてくれるんでしょ!? かえして、いくらでもあなたを信じるから浩を私にかえしてよ!」
周りの人の注目をまったく気にする様子もなく飯島さんは北村さんにすがりついた。
北村さんは少し驚いた顔で飯島さんを見つめてから、ゆっくりと笑った。
「本当?本当にあなたは私を信じてくれるのですか?金輪際疑ったりしない?」
「疑わない、何も文句も言わない。だから……」
「わかりました。佐藤浩さんは、近いうちにあなたももとへもどるでしょう」
「本当に!?」
「はい」
この異様なやり取り、周りの人たちも怖かったのか見てみないふりをしている。私も怖い。
私は体調が悪くなったといって、半分は本当だったがその日は休ませてもらった。
他にも何人か飯島さんも含めて、早退した人たちがいたようだ。
あの人、本当に怖い。早く移動して欲しい。
残っている有給使ってしまおう。それくらい北村さんと顔を合わせるのがこわかった。
佐藤さんが帰ってきたと飯島さんから連絡があったのはそれから二日後のことだった。飯島さんの部屋の前にぼんやりとたっていたらしい。
病院にいって検査してもらったが、悪いところはなかったらしい。ただ、この一か月どこで何をしていたのか全く覚えていないのだとか。
本当に佐藤さんがなにも覚えていないのか、それとも何も言いたくなくて忘れているふりをしているのか、それはわからなかったが、何にしてもよかったと思う。
2人はしばらく仕事を休むという。
私も休みたいけど、迷惑をかけるわけにもいかないし、あの人が移動するまで信じているふりしてやり過ごすしかないのだろうか?それも見透かされてしまうのか?
一体、彼女は何者なのだろう。消えたままの主任はどうなっているのか。
北村さんに対する恐怖と疑問は増すばかりだった。
それでも一週間ほど会社を休んで出社した時、北村さんはいなくなっていた。てっきり、移動したのだと思っていたらどうやら会社を辞めたらしい。正直言ってホッとした。あの人と社内でうっかり顔を合わせてしまうのも嫌だから。奈々ちゃんはガッカリしていたみたいだけど。
飯島さんと佐藤さんは相変わらず休んでいる。噂では二人も会社を辞めて、実家が海の近くの飯島さんのほうの地元に帰るのではないかと言われている。佐藤さん、海が好きなんだそうだ。
それでいいんじゃないかと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます