第2話
・・・・・
「ようやく目が覚めたな、リース。
まったく、幼児期の睡眠不足は身体の成長だけじゃなく、精神の成長も阻害するんだ。
子供は良く寝て、良く食べてよく遊ぶそれが基本だぞ」
「あっ・・ジョージ?」
「あっちのクマちゃんは君のお蔭で動き難くなったんで、こっちの・・ジョージくんに体を移させてもらったよ・・・・・グアッ!」
顔を近づけ過ぎたのか、いきなり首を絞めて来た。
「悪魔め、今度は私のジョージに! 殺してやる!絶対殺してやるから!」
リースは馬乗りになり、鬼のような形相で首を絞めてきた。
(寝て起きた瞬間に、可愛いクマちゃんの首をためらい無く絞めるとは!!
悪い夢でも見たのか?よっぽど追い詰められていらんだな)
かわいそうに、だがその悪夢は今日までだから。
「グッ・・いいかい、よく聞くんだ。
君がいくら自分の人形を壊しても、その悪夢からは逃れられないよ。
だから僕のを落ち着いて聞くんだ」
オレはまた別のクマちゃんの身体に乗り移るだけだよ。
「ギィイィィ!」
嫌な叫び声を上げ、リースはクマちゃんの首を絞めたまま視線を動かす。
そして見つけたのは、危ないから端によけて置いた鉄のハサミだった。
「殺す殺す殺す殺す殺す」ハサミを振り上げ、可愛いクマちゃんを見下ろした。
(仕方ない)
素早くクマの縫いぐるみジョージから抜け出し、ベットの脇に座らされた小さいクマの縫いぐるみに移動。
「ね?、だから意味が無いんだって」
小さいクマからパッチワークの手作りクマに移動して手を振った。
彼女が破壊したクマの縫いぐるみジャンは一体。
そしてベッドの周りに置かれた縫いぐるみ総勢5体だ。
オレは素早く移動して、手を振り・立ち上がり・寝そべって姿勢を変えて見せた。
「グルルルル・・どこ!どの子がお前の本体なのよ!」
首を左右に振り、獣のような唸りと野獣のような眼光でオレを探す。
「だから、違うんだって。聞いてよ!
僕は味方だよ、君を助ける為に来たんだ」
「悪魔の言葉は信じない!消えろ!サタン!」
・・・・寝起き状態で興奮状態で話が通じてないのか、、、どうしようか。
「そうだ、撲が君の味方だって事を証明してあげるよ。
そうだね・・さしあたって、一つ願いを言ってみて。
撲でも叶えられそうな願いなら叶えてあげるよ」
円滑な交渉には手土産が必要、あいにくこの身体では出来ることも限られているが、霊体なら人間の身体で出来ない事だって何か出来るかも知れない。
「消えて、私の前から消えてよ!今すぐに!」
爪をベットに突き刺し、キリキリと悲鳴を上げるシーツ。
「それは出来ない、だって君を助ける為に撲はいるんだ。他に願いは無い?」
「・・・じゃぁ、そこを動かないで!」
「それはお安い御用だよ」
元のクマ・ジョージに戻ったオレはクマの頭でうなずき、ピタっと足を延ばして可愛く座って見せた。
「神よ滅ぼしたまえ!
イ~~~ェメン!」躊躇い無くハサミを振り下ろす!
「なんと?!」身体を転がし、ハサミを避けた!
「酷いじゃないか、願いを聞いたのに攻撃するなんて」
ハサミがベットに突き刺さり、シーツに穴が開いているじゃないか。
「チッ!外したか!動かないでって言ったでしょう!」
「そりゃ、動くでしょう!
これ以上無意味なクマ破壊は止めるんだ!
いいかい、何度も言うけど撲は君の味方だ。
たとえ君がこの家の全ての人形を破壊しても、僕は君を救うって決めたんだ!・・・そうだ、今度こそ一つ、本当の願いを言ってみてよ、
それで撲が叶える事が出来たら撲を信じて欲しいんだ」
攻撃する為じゃなくて、リースが本当に困ってる事を解決すれば信じてくれるよね。
「私知ってるのよ!悪魔は願い事を叶えて魂を奪うんでしょう!
自分は味方だなんて言葉は嘘に決まってる、信じないわ」
(なんというか、頑なだなぁ。。この時代の十字信者って、みんなこうなの・・
ああそうか、時期的に魔女とか火炙りとか、ギロチンの時代・・はもう少し後だから)
「いいから試しに一つ言ってみてよ、魂なんか絶対獲らないから。
それに叶えられる願いかどうかも解らないんだ、ダメもとで行ってみてよ」
「・・主の聖名において約束できる?」
「ああ、神様に誓って撲は君の魂を奪わない」
君の知る神様じゃないだろうけどね。。。
これで信じてくれるかな?
「解ったわ、悪魔は嘘つきだけど神様には敵わないもの、、、」
(この悪霊をどうすればこの屋敷から追い出せるのか・・それは・・!)
「この屋敷にいる悪霊を退治して追い払って見せてよ、そうすれば信じてあげてもいいわ」
こう言ってやれば、この悪魔は自分から出て行くに違いない。
彼女の幼い脳は素早く正解を導きだしたのだ。
「・・・悪霊?・・ああ、それはちょっと時間がかかるかな?
う~~ん、そうだ!
この部屋から一番近い階段の所の子を何とかするので、それで一応信じてくれない?
追々他の所の子も・・!ぐぇ!」踏まれた、凄い形相で踏まれました。
「あんたが原因じゃないの!?
このお家の幽霊騒動は全部アンタがやってるんでしょ!」
足がぐりぐりとクマボディにめり込む、痛くはないけど動けない。
(・・そうなのか?階段下のあの子とか、道具部屋のアイツとか、この屋敷は・・)
「怖がるだろうから言わないでいたけど、この屋敷じつは。。。」
「聞きたくない聞きたく無い聞きたくない、悪魔の言葉は全部嘘なんだから!」
耳をふさいでしまった、解らなくもないけど。
なんせ間取りがおかしいお屋敷だから。
「まぁまぁ、みんなそんな悪いやつばかりじゃないから。
それに貴族って裏じゃ色々!ムギュ!」
足の力が増し、クマボディが!綿が!ワタがでるから!
もう怖い事言わないから!
「とりあえず、階段の所の子を何とかするからさ。まあ見ててよ」
幼女の足から何とか抜け出したクマボディでベットから飛び降り、トコトコと扉の隙間を目指す。
彼女が寝てる間に、何とか誰かに縫いぐるみのジャンを直して貰おうと開けた扉だ。
(そういえばなんであのメイドさん、悲鳴を上げて逃げ出したんだろ?
可愛いクマちゃんが扉を開けて『こんにちわ』したんだぞ。
普通は喜んで『ああ、お友達がボロボロ。すぐに直してあげるから』とかになるんじゃないの?)この屋敷の人はよく解らない人が多い。
・・・・・・・・
「と言う訳で、先輩に突き飛ばされて階段で頭を打って死んでしまったメイドさんだよ?」
幽霊になった後も、夜な夜な階段を掃除してシクシク泣いていたのは彼女なんだ。
何とか説得して連れて来たオレ、偉いだろ?
「・・・・・」バタッ!
泡を吹いてひっくり返ってしまった、なにがいけなかったんだ?
「起きろ起きろ」ゆさゆさ「起きろ起きろ」ゆさゆさ
ハッ!「悪霊が増えてる夢を・・・みた・・の・・」
クマちゃんと半透明のメイドが自分を起こしていた。
縫いぐるみのジョージと、口元しか見えない目隠れ顔の幽霊が身体を押していた。
「ギャァァッァァァぁ!!お化けぇぇぇ!!!ムゴ!」
口の中に飛び込むクマちゃん、メイドの方は驚いてキョロキョロして!
驚いているのはこっちなんだから!
「いいから落ち着くんだ、君がお願いしたからなんとかしようとしたんだよ?。
これで階段の所の幽霊は・・まぁ」あと2人ほど。
踊り場の所にいるのと、階段の上からジッと見下ろしているヤツだけだよ。
(踊り場の所のは、強い月光が当たらない限り普通の人には見えないヤツだし。
段の上のヤツは幽霊というより・・別の奴だから)
「これで信じてくれたかい?」
「モグッ!モモッ!」
僕の頭を噛まないでよ、縫いぐるみなんて美味しくないだろ?
「口に飛び込んだのはアンタじゃないの!!
それにそっちのメイドも!なんでここに連れてくる必要があるのよ!!!」
怒ってるなぁ・・ぬいぐるみのクマとメイドさんだよ?怖くないよ?
「なんでって・・ねぇ?」「コクリッ」
オレが顔を向けるとメイド幽霊は頷いた。
「退治っていうか、見つからない所に避難すればそれでOKじゃないの?」
そもそもオレ、除霊の方法なんか知らないよ。
「私が見えてるのよ!はっきりとね!」
「あの階段の所にいたら皆怖がるからって、お願いしてきてもらったんだ。
彼女は夜・階段の汚れを教えてくれて、夜に他の人が転ばないように見てくれているんだよ?」
良い幽霊なんだ。
「だから!夜に出るから怖いのよ!
階段でシクシク声がしたら誰も使えないじゃない!」
「大丈夫だ、今は昼だから」
・・・・・・・「昼間に幽霊が出るなぁぁぁぁ!!!」
ハァハァハァハァハァ・・
「落ち着いた?どうだい、これで撲が君の味方だって解ってくれただろ?」
こんなに早く、依頼達成したんだからさ。
「解った、あんたが私の為に何かしたいってのは解ったわ。
それで一体なにが目的なの」
リースはベットの上で仁王立ちし、訝しむ顔で見下ろしている。
「それは・・・」
君の未来・王子に断罪され弟に裏切られ、色々な男から糾弾されて追放される。
そんな未来を変えに来た、と言っても今の幼い彼女には解らないだろうな。
「きみの力になるために撲がいるんだ。
きみは将来王子やその弟、貴族の男子達とお近づきになる。
そんな時に正しいアドバイスをしてあげるんだ」
行動するのは君だけどね。
「本当にぃぃぃぃ??嘘ついて酷い事になるんじゃないのぉぉぉぉ???」
疑い深い、最近の子供は本当に疑い深くなって。
「本当だよ、少なくとも撲のアドバイスは全部君のためだよ。
全て良かれと思ってする完全な善意さ、そして君にはぜひとも幸せになってもらいたいんだ」そのためにオレはここにいるんだよ。
転生していない! 葵卯一 @aoiuiti123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生していない!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます