第34話 嘆願とパーティメンバーと
ソフィアさんの治療が無事に終わり、今は穏やかな顔つきで眠っている。
ついでにエレンも寄り添うように隣で眠っているようだ。様々なことが一気に起こったことで、疲れているんだろう。
今はエヴィさんを含む皆で食事を取っている。一仕事やり終え満足気な表情のユリアナさんとメアリーに改めて今回のあらましと感謝を伝えた。
頭を下げる。
「突然のことにも関わらず、本当にありがとうございました」
「少し驚きましたけれど、頼ってくれて嬉しいわ。」
「そこで、折り入ってお願いがあるんです。
二人は僕が少し強引に連れてきましたが、このままスラムで暮らし続けても、きっと暗い未来が続くと思います。どうか二人をこの屋敷に従者として置くことは叶いませんか。
体調が良くなればきっとよく働いてくれると思います。給金だって僕の冒険者としての活動でお支払いしますので。」
「そうね、いいでしょう。貴方が決心したことですもの。個人的にもあの二人の境遇に同情しますし、仕事を覚えればメアリーの負担も減りますので私も賛成です。給金については追々詰めていきましょうか。」
ただし・・・少し沈黙の後、僕の目を見つめて問いかけてきた。
「今後もあのような境遇の人達を見つけると、皆同じように手を差し伸べるというのでしょうか。残念ながらこの世界には事実としてあのような境遇を持つ人達は多く存在しているのです。
善意を持って他者を救うということはとても良いことですが、物事全てが美しく解決するわけではないものです。
中には貴方の良心に付け込んで、傷付けてくることもあるかもしれません。
・・・私、いや私達は貴方が心配なのです。貴方が彼女らを守り、救おうとした気持ちと同じように、私達はカイちゃん、貴方を守りたい。どうかそのことを心に。片隅でもいいので留め置いてください。」
悲痛な表情をしたユリアナさんの言葉に、自らの浅慮を恥じた。あの時正しいと思った行動に後悔はないが、少し思い上がっていた所もあったのではないか?思い当たる節がある為に申し訳ない気持ちとなる。
「ご心配をお掛けしてすいません。」
また頭を下げた。
「お二人の気持ち、大変嬉しく思います。そうですね、きっとあの二人のような境遇に身を置く人達は多くいるのでしょう。
きっと助けることが出来ると、僕は少し思い上がってしまったのかもしれません。お二人、いやエヴィさんの三人の助けがなければ全てが空回りしていたかと思います。自分の無鉄砲なところを恥じている次第です。
ですが、起こした行動に後悔はしていないのです。もう一度、いや何度だって同じ状況になれば今日と同じ行動をしていたかと思います。全てを救い出せると過信している訳ではありませんが、それでも僕の手が届く範囲は守りたいと思うのです。」
少し考えていた着飾った言葉よりも本音の部分をユリアナさんにぶつけた。ユリアナさんが言ったように、この世界には悪意を持った人物も当然のようにいるのだろう。
剣と魔法の絵に描いたような理想のファンタジー世界だが、当然のように犯罪者だっているし差別もある。前の世界では負のイメージが付き纏っていた奴隷制度だってある。
悪人の全てを打ち払う力がある訳でもなく、差別や奴隷制度撤廃などを掲げるつもりもない。まあ、産まれた時の身分や人種によって差別がある事実には嫌悪する感情があるが。
僕は・・・この世界にやってきた意義を見付けたい。そんな気持ちが沸々と宿ってきている。
皆川海とカイ・ローゼンダールとの狭間で、自分は何者なのか?と繰り返し自問していた最初の頃から少し前向きになれている。
「すいません、答えになっていないですね……」苦笑いでユリアナさんとメアリーさんを見つめると、二人は温かく僕を見つめ返してくれた。
「ふふ。回答としては十分ですよ」
「これからも忙しくなりそうですね」と横のメアリーさんと微笑んで話しかけ、「そうですね」とメアリーさんも答えている。
「さあ、我々も今日は休みましょうか。エヴィさんも今日はこの家でゆっくりと休んでいってくださいね」
エレンさんは返事の代わりにコクんと頭を下げた。ん?よく見ると食べかすが口の周りに付いている。あとで指摘しよう。
さて、女性陣が先にお風呂に入るようで、僕は自分の部屋でしばしくつろぐことにした。
トラブルがあったが、ようやく自分の部屋に帰ってきた。ああ、落ち着く。
ソファーに倒れ込むようにゴロンと横になった。
しばらく横になっているとついウトウトして、目を閉じてしまう。
どれほどか時間が経っただろうか。
・・・―――ねえ。
呼ばれた僕は、ぼんやりとした目を擦りながら声をかけて来た人物を見上げる。
「え、エヴィさん!」
つい予想外の人物に驚いた。普段はまるで要塞のような完全防備の無骨な姿からは想像がつかない美少女が目の前にいる。
髪はトーン暗めのアッシュグレージュ。スモーキーな色味がボブウルフの髪型に合っている。寒色系のカラーはクールな印象を抱かせる。
お風呂上りの髪はまだ完全に乾いていないようで、少し湿り気を帯びている。今はパステル調の寝間着のみを肌に纏っていて、その無防備な姿につい心が動く。
ちなみに、背は175㎝程度はある僕よりも随分と低い。
「…あ、パジャマ、似合ってますね」
そう反射的に言った僕を褒めて欲しい。女性の服装や化粧について褒めるのは紳士なら常識だろう。
「……そう」
無機質な表情は僕のメンタルを直接攻撃する。…まあ、打てど響かぬ時もある……。
「それで、いかがしましたか?」
自分の頬がやや引き攣っている気もするが、何とか笑顔を維持したまま彼女に要件を尋ねる。
「………貴方は弱い。力も防御も貧弱。」
続けて語る。
「その割に正義感が強く自信過剰でいつ死ぬかわからない。
……このままではモンスターか悪人に殺されてしまうのがオチ」
言葉の暴力で僕は沈んだ。ああ、自覚はあったさ。
カイ君の身体はポテンシャルが高い。が、それは魔法の適性がだ。基礎的な身体能力は一般的な冒険者の平均よりも劣るかもしれない。肉体の訓練は一朝一夕では鍛える事は難しいだろう。
「だから、私とパーティを組もう。」
はい?
ポカンと口を開けたままの自分は、それはそれはたいそう情けのない顔であったという。
僕は自分を見付ける―他人の人生に成り代わった僕。新たな人生を歩む。 メリーさん。 @merrysan0717
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