バッドビート

 ポーカーは運と実力が1:1のゲームだと言われている。それと、1つ言えることがある。時間をかければかけるほど実力差が出るゲームでもあるということだ。

 ならば、俺がとるべき戦略は速攻だ。運と度胸で勝負するのが俺のスタイルだ。それに実力でユリアとは勝負にならない。


 俺はどんな手が来てもレイズした。掛け金を吊り上げる。まあ、良いカモだ。普通なら。しかし、対面の奴が場をかき乱した。

 ブラフをかます。掛け金を吊り上げて場を乱す。酒を煽る。隣の人間を口説く。場外戦術まで駆使してかき乱されたこの勝負は、全員が暴走しだした。

「オールイン。」

 隣の男がプリフロップから飛ばしてきた。最初の賭けで全額かけてきやがった。そこまで良い手なのか?エースのワンペアが手札でできているのかもしれない。

「オールイン。」

 そこにユリアが被せてきた。チェックでもよかったのだ。この男よりユリアはチップを持っている。ならばその同額でも変わらないはずだが、彼女が作った場の雰囲気がそれを許さなかったのかもしれない。策士策に溺れるというやつか。

 俺は当然のように降りた。付き合ってられなかった。俺だけが命掛けなのかもしれないが、最後の一線で慎重になってしまう。それが逆にここまでうまく運べた要因かもしれない。

「スリーカード。」

「フルハウス。」

 男は負けた。場の流れは完全にユリアのものになっていた。

 何か流れを変える必要がある。大きく場を乱すアクションを起こさなければ、ユリアにまたやられてしまうだろう。

「早くコールするなり降りるなりしろよ。ウスノロが。」

 俺は強めにつぶやいた。単純な挑発だ。しかし、この程度では乗ってこなかった。

「レイズ。」

「リレイズ。」

 俺は間髪入れずに奴が賭けた金額の倍の値段で賭けた。

「ウッドバーグの若頭のくせに器が小さいな。そんなんじゃ女も満足に抱けねえだろ。」

「少し、黙れよ。ビーツが!」

 拳銃を抜いた。狙い通り。


 BANG!!!


 隣の男がディーラーに拳銃で撃たれた。まだチップは残っていたのにもったいないな、と他人事のように思った。残されたのは俺とユリアの二人。これで勝負は単純になった。俺好みの展開だ。ここで勝負を決めたい。

「男の勝負は単純だ。勇気を出して賭けに出る。それとも、許しを請うて勝負を降りるか。その二つしかない。」

 勝負はリバー。最終盤。俺の手札はスペードのエースとハートの6。開かれたコミュニティカードはハートのエース、スペードの5、クローバーのジャック、スペードのキング、ダイヤの4。

 賭けをするのには悪くない手だが、勝負に出るには心もとない。いまさら引くつもりはない。あとは、流れにまかせるか。

「相変わらず馬鹿な持論だね。オールイン。楽しもうよ。」

 まった く、厄介な相手だ。少しは動揺してくれないと死んだこいつも浮かばれない。

「俺は、エースのワンペアだ。」

「わたしはスペードの3。そして……」

 ユリアはそう言って手札を明かした。

 ポーカーが好きな奴はろくでなしだ。満面の笑みのユリアの瞳に映った俺の顔も笑っていた。だから、ギャンブルはやめられねえ。

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バッドビート あきかん @Gomibako

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