クラッシャー姫子

#365日ショートショート 201

「聞いてください。あの娘が来てからこのオフィスはめちゃくちゃです！」

　女子社員の訴えを、人事部長は黙って聞いていた。

「あの娘…… 円野（つぶらの）姫子（ひめこ）さん、ひどいんですよ。小動物みたいな可愛らしい見た目ですけど、あれは獲物を狙う目です。妖艶で、ぎらぎらしていて。少しでも気にかけた男性社員に次々と手を出しています。みんな自分が被害者だと訴えていますけど」

「それで？」。部長はじぃっと女子社員の目を見つめた。「つまり辞めさせろというのか。知ってるだろう、このご時世、人を辞めさせるのは簡単じゃあない。ましてや素行が悪いくらいで……」

　どんっ、と女性社員が机に両手を叩きつける。「じゃあ、部長はこのオフィスがどうなってもいいんですね！このままでは全て壊されますよ！あの娘のせいで私たちの職場環境はめちゃくちゃです！」

　その時、奥の部屋から大きな物音が聞こえた。続いて誰かの悲鳴。

「ああ、最悪。まただわ」

「ええっ」、部長は眉間に皺を寄せた。

　バーーーーンッ！と扉が開くと、そこには血相を変えた円谷姫子が仁王立ちしていた。両腕にはゴルフクラブ。奥に見える部屋の中では、壁や机が破壊され、数人があざを作って倒れていた。