14 - 僕が君を好きっていう気持ちを上回ってこないとダメだからね





 手を繋ぐようになったのはとても大きな進歩で、デートに行くとよく繋ぐようになった。今時同性のカップルなんてそこら中にいるので誰も気にもしない。


「でも、何で手を繋ぐんだ?」

「さあ?でも俺はシャロンと触れ合えているのは嬉しい」

「そういうものか…」

「シャロンが嬉しくないならしなくてもいいんだが?」

「ううん、嫌じゃないからこのままでいいよ」


 買い物をしたり、家で相変わらずウィゼルドが作ってくれるごはんを食べたりして買ってきたアイスを食べる為に冷蔵庫に向かう。


「そういえば、このソファどうしたんだ?今まで無かったのに」

「ああ、ウィゼルド来る時のためにね…って買ったんだけれど…僕が寝転んじゃって…ソファってやつは人をダメにするよ…」


 早速ウィゼルドが座っているが、深く腰掛けて座り心地が良さそう。


「うむ、なかなかいいな」

「買って少し後悔している…休日ここから動かなくなってしまってね…」


 アイスをローテーブルに置いて僕も隣に腰掛ける。


「村にはこういうの無かったから、町の人達はいい物と一緒に生活してきたんだなぁ」

「そうだな、孤児院でもあったけれどくたびれたソファばかりでこんなに上等な物になんか座れなかったな」


 アイスを食べながらソファ話をして、その内家具の話になり、気付けばどっちも食べ終わっていた。


「お湯沸かしたし珈琲入れようかな」

「その前に…」


 そう言ったウィゼルドに肩を抱き寄せられ、ぴったりとくっつく。


「ウィゼルド…?」

「シャロンはあれやこれやが分かっていなかったから、早いとは思ったけれど…」

「あれやこれ…」


 一瞬だが、僕は人生で初めてキスというものをした。時間差で頭から火が出るんじゃないかってくらい顔が熱くなった。


「ちょ、えええ…その、マジか…」


 冷静になれ…エ・シャロン・シャシャ!落ち着くんだ…どんな戦場でだって落ち着いて色々判断して仕事をこなして来ただろう。落ち着け…落ち着く…


「落ち着けるわけがない!!」

「嫌だったか?ならもうしない」

「あ、その、別に嫌とか…そんな事はなくて…えっと…嫌じゃあないけれどだな…」

「シャロン、じゃあもう1度…」

「ま、待て…それはその…心の準備っているのがだな…」


 逃げていたのに腰を引き寄せられてまた唇を奪われた。こんな、呆気なくセカンドキスまで持ってかれた…。けれど…嫌ではない…本当。


「これは…」

「どうした…?勝手にしといて後悔か?」

「なんという幸せなんだ…と、思ってな…」


 恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにはにかんでいる顔を見て、慌てていた僕もなんだか落ち着いてきた。


「俺は明日死んでしまうのではないだろうか?」

「なんでだい?」

「今凄く幸せな気持ちなんだ」

「折角僕たちは恋人になったのに死んでしまうのかい?」

「いや、意地でも生き抜いて必ずシャロンの側にいる」


 そう言いながら僕の胸に顔を埋めながら抱きついてくるウィゼルドの背に腕を回す。何かこうしていると子供みたいで可愛いよな…いや、大型犬か。


「ちなみにあれこれとはセックスの事だ」

「ぶっ!!」


 吹き出した。そ、それはあのあれ…子作り!!

 流石に僕だってそれくらいの知識はある!人生で必要はないものだと思っていたが最低限の知識は入っている。なんならお産助手くらいなら出来る!いや関係ないか。


「で、でもほら、男同士…だし…そんな」

「出来る」

「ですよね…」


 ちゃんと知っているっぽい…。知識としては勿論ある。人生で必要ない…以下略。

 しかしそうなるとどちらかが受け入れないといけなくなるわけで…って今から何を考えているんだ、すぐにするわけでも無しに…。


「ウィゼルド、それはまだ僕の気持ちが追い付かないから結構待って貰う事になりそうだ」

「勿論だ…無理強いはしないから安心しろ」


 そういう所優しいよね…いや、キスはされたけれど不意打ちで。

 優しいところとか…好きだなって素直に思えるようになってきた僕は成長してきたと思う。


 春も過ぎていけば徐々に暑さも増していくわけで…皆夏用の服に変わってきている。シャルフは制服があるから皆同じだけれど。ルブル組は別として。


「外は暑くなってきたから室内本当ありがたい…」

「室内温度少し涼しくするとくっついていられるものね」

「そうだね」


 バカップルがいつも通りイチャイチャしながら作業したりしてるのはもうとっくに慣れている。


「2人も別にくっついていても何も言わないからいいよ」

「うん、気持ちだけで十分です…くっつかないぞ、ウィゼルド」


 本当に。暑苦しいからやめて頂きたい。

 僕は去年から試行錯誤していた新アイテムを研究施設で発表する為の資料作りの為にアイテムを作っている所だ。


「しかし、その紙のやつ画期的でいいわね」

「うん、破れば発動するっていう仕組みにするのに結構かかったけれどね」

「流石シャロンね…天才なんじゃないかしら」

「天才かもしれないね」


 最近はこればかりやっていたから全然ウィゼルドに構ってなかったんだよね。だから多分寂しかったんだろうね、どこに行くにも今日は着いてくるからさ。


「ところであれやこれやはクリアしていったのかね?」

「もう、いい加減…そういう事聞くのやめとこう?」

「だって…バロンドシャルフが色っぽくなったって最近よくガルが見ているわよ、ファン増えたのよ…お付き合い出来ないかしらって相談されるのよ、シャロンが」

「こっちでもそうだ、シャロンの色気が上がっただのってシャルフも騒いでいたな」

「愛し愛されるとほら、キレイになるって言うじゃない?それかしらって思って」

「そこはもう、ご想像にお任せします!で通していくことにしたから」


 一応これでも僕達が付き合っているというのは周りには話していないんだ。だからガルはよくウィゼルド狙ったりしているから本当に僕に趣味や好みの話を聞いてくる。


「いい加減公表したら?」

「まだやめておくよ…っていうか別に言わなくたっていいよ、職場でイチャつくのはよくないからねー」

「俺は、どこでもシャロンとくっついていたけれどな」

「ほほう…鈍感で全然好きとかっていうのを知らなかった男が言うようになったなぁ」

「愛しいは募っていくんだな」

「わかる、毎日キーラ見ても可愛いし愛しいって思えるもん」

「んもう、ナージャったら!嬉しいこと言ってくれるのね…私もよ、ナージャ!」


 このバカップルは本当に永遠に続くんだと思えるようになってきた。


「シャロンは分かってきたか?愛しいって気持ち」

「…じゃなかったら今も付き合ってないよ」

「ほう?」

「へぇ…」

「あのシャロンが…素直ね!」


 どのシャロンだよ!前から素直…だったと思うけれどな。


「日常の何気ない行動とか言動とかで胸の辺りが何か温かくなるようなそんな感じがそうなんだろうなって…違うかな?」

「感じ方は人それぞれだけれど間違いないと思うわよ」

「昔家族に感じていたのとはまた違ってなんだかいいね、こういうの…」


 あんなに人が苦手だって言っていたのに、よくここまでウィゼルドを好きって思えるようになったなと褒めたい、勿論自分を。


「恋愛は邪魔って言っていたのはどこいったんだ?」

「そうだね、相手によるんだなって思ったから邪魔な感情じゃなかったね。驚いたよ本当」


 正直言うと、まあ最近なんだけれどねそういうの感じられるようになったの。身体の繋がりとか…いや、その前からだな。じゃなかったらそんな事しないもんね。

 ウィゼルドが僕の事を本当に大切にしてくれて1番に思ってくれていて…愛してくれているというのをしっかりと確認する機会があったからだと思う。


 ウィゼルドの弟の親であるシャルフが1度ここに寄ってくれたんだ。中央に行く前に。

 ユベール・グランツさんはとても優しいけれど修業は厳しかったと聞いていた。会ってみたらとても明るくて「ああ、この人がウィゼルドの親で間違いない」って思わせるような人だった。

 そんな人にしっかりと堂々と僕たちがお付き合いをしているというのを言ったんだ。勿論同性カップルは少なくはないけれど、偏見だってある場合もある。それで言わなくてもいいと前もって釘を刺しておいたんだけれどさ…


『俺の恋人なんだ。凄く大事な人だからベルさんにすぐに紹介しに連れて行きたかったんだけれど、なかなか一緒に休めなくて行けなかったんだ』


 そう、ユベールさんに言ってくれた時に凄く堂々としていて…まっすぐ僕を想ってくれているという気持ちがこもっていて…正直凄く心臓が速くなってこう、胸の辺りがキュウってなった。凄く、涙が出そうなくらいに感情が揺さぶられたの初めてだった。

 それに対してユベールさんは凄く嬉しそうな顔をしてウィゼルドを撫でながら『おめでとう』と言っていたんだよね。

 結局は他人だからなのかと思ったけれど、多分違う。本当に心の底からのお祝いだたった。なんでもひねくれた目で見ていた僕だったけれどあの時のユベールさん凄く眩しかった。

 うちの息子をよろしくなって言ってくれた時に凄く照れくさかったんだけれどね。


「ユベールさんに認めてもらえたんだからね、僕も大切にしてあげないとね」

「すごいわよね、親公認の仲じゃない」


 ああ、確かに。


「これからも僕に愛しいって気持ち教えてもらわないといけないな」

「自信はあるんだが…空回るかもしれないからな」

「そういうクソ真面目に失敗したりするところも可愛いとか思うけれどな」

「わかる、好きだとなんでも可愛く見えるのよねー」

「そうそう、そういうの愛しいなって思える」

「え、それ愛しいって感情なら…僕多分会って結構早い内からウィゼルド可愛かったよ」

「なんだ、じゃあもっと前から俺の事が好きだったんだな?」

「あ…」


 訂正しようと思ったけれどそうかもしれないなとちょっと思ってしまった。


「ウィゼルド」

「ん?」

「ずっと僕の事を好きでいてよね」

「勿論だ」

「僕がウィゼルドを好きっていう気持ちを上回ってこないとダメだからね」

「そこは負ける気がしないな」

「ならいい」


 あー暑い暑いっていいながら内輪で扇ぎだす2人。小っ恥ずかしい事してしまったと思いアイテム作りに戻った。


 まだまだ『愛しい』という気持ちがわかってないからこれからも末永く付き合ってもらえると嬉しいなというのは…流石に2人になってから言おう。




最後まで読んで頂きありがとうございました!

この後の話もまだ続きを書きたいと思いますので、またお付き合い頂けたら幸いです!


気に入って頂けたらブクマ、レビュー★★★、感想諸々頂けたら嬉しいです!

よろしくおねがいします!!

Twitter等もやっておりますのでたまに落書き流したり(予定


彼らの約15年後のイチャイチャっぷりはShallf内でちょこちょこ出てくるので合わせてそちらも!


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鈍感と鋭いの2人が“愛しい”という気持ちを知っていくけれどなかなか辿り着かないものだ。 鯛飯好 @chouhan_kou

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