掌編小説・『ハンバーガー』

夢美瑠瑠

掌編小説・『ハンバーガー』

(これは、今日の「ハンバーガーの日」にアメブロに投稿したものです)


 掌編小説・『ハンバーガー』


 (星新一風に)


 中年のサラリーマンのエヌ氏は、軽い昼食の後で、ふと思いついて会社のあるビルの一階にあるハンバーガーショップに立ち寄ってみることにした。

 以前からある平凡な「ダクドナルド」で、そういう店にはほとんど興味がないのだが、立て看板にいろいろとメニューが並べられている後に、「スマイル 50円から」とあったのが妙に気にかかったのだ。

 

 「スマイル? 50円から? これはいったいどういう意味だろう… 0円というジョークならわかるが?」

 そう独り言ちて、百聞は一見に如かず、と回転ドアに身を投じてみることにしたのだ。

 …


 「いらっしゃいませ!ダクドナルドへようこそ!ご注文は何になさいますか?」

 全部で5人いる女子高生くらいの元気な女の子たちが一斉に声を張り上げた。

 50円から有料のはずの笑顔も惜しみなく振りまいてくれている。

 エヌ氏はカウンターに近づいて、「ビッグダックとダックシェイク」と無難な注文をした。

 女の子の一人が大声で復唱して、すぐ注文の品が出てきた。

 店を去り際、エヌ氏は「ところでね、メニューに”スマイル 50円から”とあるけどね、あれはいったいどういう意味?お金を出すと特別なスマイルとかを見せてくれるんですか?」そう尋ねてみた。

 女の子たちはいっせいにゲラゲラ笑った。

 「?」

 「あのね、あれは店長の洒落なのよ。店長はむすっとしていて、すごいぶっきらぼうで、「わらわん店長」っていって有名なのよ。名前は稲垣っていうんだけどね、ラグビーの稲垣選手にそっくり。肖像権侵害して?ごめんなさいね。その店長が人寄せのためにひと肌脱いだってわけ」

 「ふうん。じゃあ、その店長さんの笑顔をちょっと見せてもらおうかな?」

 若干気味は悪かったが、エヌ氏は100円硬貨を出して、勇を鼓して言った。

 …

 「テンチョウ~スマイル100円お願いします~」


 ぬっと店長が顔を出して、ひげ面を歪めて、にまーと笑った。

 何とも面妖で、ちょいどジンギスカンというモンゴルの英雄を連想?させた。


 きっと貴重なものなんだろうな、エヌ氏は無理やり自分を納得させて、スマホにその笑顔を記念に収めて、複雑な気分で「ダクドナルド」を出た。


 仕事に戻る道すがら、これは頑固者の店長のせめてもの資本主義社会への抵抗なのかもしれない…エヌ氏はそうつぶやいた。



<了>

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