1-3 SVAHA

2027年4月13日――国立言霊戦線学園『検査棟』



「はいッ、暗い話は終了!こっからは、英雄ちゃんこと君が気になっているだろう言霊について説明していこう!!」

「唐突ですね」

「こーゆーのは勢いで、だぜ。言っちゃえば、私に敬語使わなくていいんだよ?へいい、プリーズ」

「な、何故なにゆえ?」

「何故?何故なぜそんな単語が出てきたのか理解出来ないけど、その調子だぜ!」


 何者よりも明るく振る舞う秋猴に毒気が抜けたのか、律巴の険しかった顔が本来の溌剌はつらつな顔つきへと戻っていた。

 律巴の変化にそれでいいと承諾するかのように、秋猴は大きくうなずいていた。


「んじゃー、先ずは『言霊』についてだね」

「うっす」

「言霊はねー、ぶっちゃけるとそこまでわかっていないのだよー」

「は?」


 律巴の表情筋が固まった。だが、それもそうだろう。説明する気満々の研究者が目前に存在していて、口を開いた瞬間によく分からない、などとほざくのだ。殴る許可は全会一致で取れるだろう。

 しかし、律巴は踏ん張った。少し、いや、大分腹が立っていた。が、彼女の平和第一、笑顔最高の精神が手を出させなかった。

 それが良かったのか、悪かったのかは分からない。が、秋猴は一回、お灸をすえた方が良いと彼女の同僚達は言っているので、やはり殴っておいた方が良かったのかもしれない。いや、そうなのだろう。


「先ず、私自身が言霊方面の研究者じゃないからねー。詳しくは後日って訳でよろし?」

「……納得したくないけど、頑張って納得するよ。っていうより、秋猴さんは何の研究をしているんですか?」

「私かい?あー、……私は君達の敵である『悪魔』についてだね。ま、私的には保険医って面の方が濃いけどねー。そっちの話も後日だ。

 私が分かる範囲で言霊について説明していくゾ♪」

「……おなしゃす!」


 何か後ろめたい事があるのか、はたまた、猫の如く気分が変容したのか。秋猴は一瞬、藍の瞳を伏せる。しかし、すぐに持ち前の陽気さで空気の流れを戻した。

 目敏い律巴は刹那の変化に気付いていたが、触れる事なく、元気に返事を返した。彼女の出来る精一杯の気遣いだった。

 秋猴もまた、彼女の優しさが理解出来た。だからこそ、それを享受し、無視した。それもまた、一つの懇篤こんとくの形だった。


 そして、秋猴は哲人然という雰囲気で静かに語り出した。


「言霊——言葉に宿る力。現代に残る、数少ない神秘の残骸。人類と深く結びついた文明のとも。人智を超えた、叡智の結晶。

 何時、何処で、何故。と、未だ不明箇所が多い言霊だが、分かっている事は複数ある。ここまでいいか、未来の英雄?」

「はい」


 雰囲気を唐突に変貌させた秋猴に驚く律巴だったが、真剣みに感化されたのか、即答する。二面性のある人物なのかもしれない、と予想を立てながら、続く言葉に耳を傾ける。


「いい返事だ。一つ目として、言霊に確固たる自我はない。しかし、決められた意味を持った言葉が世界に漂い、己と親和する人間と適合する、という仕組みがある事を私達は突き止めている」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「フフッ、難しいだろうな。実際、そこまで大事な箇所ではないし、未だに不透明な領域だ。君はそこまで気にする必要はない。……だが、もし君が知恵を欲するのならば、また聞きに来ると言い」

「分かったよ。なんか得られたら、わたしに教えて欲しいな」

「ああ、了解した。……それで、ここからが君にとって生命線となるものだ。己の魂に刻み、最期まで忘れるなよ」


 一番強く込められた言葉に律巴は強く頷いた。

 秋猴は話を意気揚々と、風流警抜ふうりゅうけいばつ的に話を続ける。


「言霊は七つの分類がされている。

 撃退・殲滅・破壊といった攻撃的な意味を持つ言霊の種別『攻撃型言霊』。

 防衛・守護・守備といった防御的な意味を持つ言霊の種別『防御型言霊』。

 治癒・強化・無効といった補助的な意味を持つ言霊の種別『補助型言霊』。

 制作・増設・誕生といった創造的な意味を持つ言霊の種別『創造型言霊』。

 効果を一点に極めた、特殊的な意味が込められた上位言霊の種別『特殊型言霊』。

 効果を複数に広めた、万能的な意味を込められた上位言霊の種別『万能型言霊』。

 そして、これまでの言霊の特性を一切持たない、強力な言霊。種別は今の所、『不明型言霊』と定義している。

 ここまでは理解できているな?」

「はい」

「ならいい、続けるぞ。

 これら七つの言霊はそれぞれ好む人柄というのがある事が分かっている。『攻撃型言霊』なら、熱血漢や加虐嗜好な人物、勇気ある者、力を求める人などだ」

「自我がないのに?」

「ああ、そうだなぁ。私的な意見として、言霊というのは一種のシステムではないかと思っている。超越者、神のたぐいの様に、未来へ歩む若き芽に加護を贈る救いを齎すか如く、にな。善き人を、必要な人間を選択し、打ち克つ為の力として、言霊があるのではないだろうか?」


 律巴は秋猴の見解に頭を唸らせた。余りにも情報量が多く、処理するのに時間が掛かっているのだろう。そんな様子に秋猴は苦笑している。学者然としていた態度も一変、陽気なお姉さんの秋猴と変わっていた。


「さて、難しい話はここでしゅうりょーだ。多分、英雄ちゃんが待ちに臨んだ言霊発表の時間だ!準備はいいかい?出来ているだろう?」

「……!!」


 未だ、正体が分からないモノが身に宿っているのは律巴には恐怖と言えたが、それよりも彼女は十五歳。まだ、ファンタジーな現象に憧れる年頃だ。不安交じりな期待を秋猴にぶつける。

 秋猴はまた苦笑いしつつも、律巴にとって、否、今期言霊使いにとっての楽しみであるコトを告げた。


「英雄ちゃんの言霊はなんと三つもあるぞ!流石は適性率100%は伊達じゃあないね!ほとんどの人は二つだから素晴らしい結果だぜ!

 そしてぇ~、君にぃ~宿ったぁ~、言霊はぁ~」










「補助型の『FEAPPEMフィアプエム』と同じく補助型の『BUGEUNXバゲアンクス』。そしてー、特殊型の『PHESRGTUペェスルグチュ』だよ」

「ふぃ……何!!??」


 言霊を言おうとした律巴の口を秋猴は防いだ。


「駄目だぞー、英雄ちゃん。喋ったら、効果が発動するんだから、慎重にね。あと、国から言われているから知っているだろうけど、対悪魔の時以外使っちゃダメだからね?」


 ああ、そう言えばそんな事言われたな、と気付いた律巴はもう一つ大きな違いに気付く事になった。


(あれ?髪の色が違う!?)


 今更であった。


*****

同日――第六言霊寮への帰り道



 検査終了後はそのまま寮に帰っていいと事前に連絡がされていた。寮は旧弘前市にあり、そこで六期『言霊使い』達は暮らし、学園に通っている。設備は最高品質なので、寮員全てから好評である。


 秋猴とその後も駄々喋りをし、何時の間にか天は赤く染まっていた。

 喋り過ぎたと少しばかりの後悔を滲ませながら、今日を振り返っていた。


(まさか、適性率が高い程、完全に言霊が体に定着するのに時間が掛かるとは思わないよ。だから、みんな早々に帰って、わたし一人しかあの部屋に居なかったんだ。

 でも、それにしても――)


 律巴は今の空模様と同じ、幻想的な赤に染まる、見慣れない髪を一撫でする。そして、大きく溜息を吐いた。


(流石に髪の毛の色が変わるなんて思わないよ!!しかも、瞳まで!!……いや、大学行ったら、髪とか染めるだろうけど、起きて気付いたら、色変わってるよ~ってのはなし中のなしでしょ!しかも、めっちゃ似合ってるし!!言霊さんありがとう(怒+泣))


 律巴は少々怒っていた。しかし、髪色と瞳の色が存外に似合っていたので、怒るに怒り切れない。そんなムズムズする嫌な心情だった。

 何とも得難い感情を振り切る為に律巴は今日得た情報を纏める事にした。


(一先ず、わたしが使用出来る言霊は三種。『FEAPPEMフィアプエム』、『BUGEUNXバゲアンクス』、『PHESRGTUペェスルグチュ』。

 能力については名称を知った瞬間におおよその効果については脳に叩き込まれている。少しばかり痛かったけど、許容範囲内。許せる!)


(補助型が二つで、特殊型一つ。補助型に適応しやすい人格は文字通りのサポート気質な人物や現実主義者、被支配者に狡猾な人物が多い、と。……バラバラだね。これ意味あるのかな?特殊型に関しては、天才肌とか努力家、頑固者が多いって言われたけど……秋猴さんを疑う訳ではないけど、少し怪しいな)


 学園や政府、言霊に対して、懐疑心を抱く律巴ではあったが、情報不足や頼るモノが少ない現在、どうこう出来る問題ではないと判断した。

 なので、先程と同様に今ある手札を確認する事しか出来なかった。


(『FEAPPEMフィアプエム』の効果は運命操作。それもプラスの方面にのみ調整出来る光弾を発生させれるもの。まぁ、調整と言うより暴走と表現した方が正しいのだろうけど。言霊の持つ意味は福来るふくきたる、と。

 で、次の『BUGEUNXバゲアンクス』は『FEAPPEMフィアプエム』の逆ベクトルの力。則ち、マイナスの側面に位置する運命を暴れさせる力。言霊の意味は禍来るわざわいきたるである、と。

 どちらも運命に干渉して、使用者の意図せぬ効果を齎す言霊。……外れじゃないかな?でも、それよりも遥かに格が違うのが、三つ目。

 『PHESRGTUペェスルグチュ』の能力、それは――因)


「おーい、律巴ぁ」

「ん?……木場ちゃん?」


 深みに嵌まろうとしていた律巴を引き出したのは、十メートル程離れた地点から片手を振りかざす木場 望だった。黄昏と言っていい時間帯ではあったが、遠目から見ても分かる姿形だったので、数瞬で解に辿り着いていた。ついでに、周囲が更地だったのも間違わなかった要因なのかもしれない。

 そんな光景に驚く律巴だったが、望の隣にひっそりと手を繋ぐ一人の少女が居る事に気付く。


 先ずは近寄らねば、と駆け足で彼女らの下へと行った。


「木場ちゃん……も、髪色とか変わったんだね」

「ああ、目が覚めてすぐに、な。あの時は驚いたな」

「――ぐッ」


 予想しない位置から爆撃を受けた律巴だったが、何とかこらえた。

 変な声を出した律巴に目をぎょろっとさせた望の髪は深緑の奥深しいヘアカラーとなり、聡明さ讃える青眼の煌めきがあった。ヤンキーと賢人の奇跡の共演がそこに存在していた。

 律巴は痛みに呻きながらも、素直に美しいと心の中で称賛しながら、望の隣に粛然とした態度で居座る背の低い少女に声を掛ける。


「それでー、君は誰かな?わたしは因來 律巴って言うんだけど」

「……ホモ・サピエンス」

「う、うん。そうだね、君は人だ。……あれ?何の話してんだっけ?」


 薄桃色の儚い髪色をした少女の深々とした翠の眼球が律巴を捉えている。外見は幼くも、意志ある光とズレた回答に律巴は気圧される。

 齟齬そごある言葉を呟く相方に溜息をつきながら、望は律巴の求む正しい解を答えた。


「コイツは幻中 心だ。ま、見ての通り、話しての通り、ゴーイング・マイウェイを地で行く女だ。ちょっとばかしコミュ障感がいなめないが、許してやってくれ」

「……頼むぞ、二人とも」

「(イラッ)こーゆーのはよぉ、テメェが普通はやんだよ。分かってんのか、心ォ!!」

「私に普通を説くな。……それに大体の事は望がやってくれる。それで十分だ」

「チッ、コイツめ」

「あはは、仲良いんだね」


 今のやり取りで彼女達の在り方というのが掴めた律巴だった。

 今も心のしたり顔にイラついた望が頬を餅の様に伸ばしている。しかし、全力という訳ではなく、相手を気遣った暖かいモノが籠った手つきである。

 律巴はその光景に憧憬を覚えながら、質問をする。


「もう夕方近いけど、二人は何してたの?」

「ん?ああ、夕食買いにモール行ってたんだよ」

「寮の食堂じゃないんだ」


 言霊使いはぶっちゃけてしまえば、戦争の道具の様なモノである。しかも、それが少年・少女兵となると、大人としての良心が削れる。

 その為に建てられたのが、何でも揃っているショッピングモールや無償で料理を出してくれる食堂付きの寮である。他にも、スポーツセンターや大型図書館、温泉などの各種サービスが学園を中心に弘前市に存在する。


「……今日は入学式。なら、祝宴を開くのは摂理である」

「せ、摂理。凄い大層な単語が出て来たね、幻中ちゃん」

「……フ」

「はぁ、普通を説くなとか言ってた奴が摂理なんか使うなよ。……あ、律巴も来るか?」


 心の矛盾ある会話に呆れながら、お祝い会に誘う望だったが、律巴は首を横に振った。


「ちょっと疲れてさ、今日は早めに寝ようかなぁ、って」

「そっか、残念だな」

「……ウナギゼリーがあるのに、来ないとは恥知らずだな」

「なんて劇物を買ってんの!?」


 律巴はイギリスの民が作った、料理を冒涜したモノを背負っているリュックサックから取り出した心に恐れおののいた。

 そして、祝賀会に行かなくて本当に良かったと本気で思った瞬間だった。



********************

△◆■◎年@▼月&$日――超メタ的異次元空間


因來「イギリスってマジでなんであんな狂気に満ちているんだろうな。流石は英国面だ(達観)」

木場「あー、スターゲイジー・パイとかマーマイト。パンジャンドラムにアウトワード作戦だったり、パラジェット・スカイカーやハギス……このぉ英国紳士に淑女め(褒め言葉)」

幻中「ウナギゼリーおいちー、ぴーす。あっ、神咫瑯もいる?」

東京「断固拒否する。誰がそんなモノ食するか。日本食でいい」


ガタガタッ


全員「なんだこの音!?」




秋猴「フハハハハハ、俺様とジャンピングタンク(爆弾マシマシver)が来たぜ!!」

因來「ふざけんなぁぁあああ!!!」

木場「阿保かテメェぇぇええ!!!」

幻中「やめろぉおおおおおお!!!」

東京「来るなぁぁあぁあああ!!!」

秋猴「じゃぁぁあぁんぷぅぅだぁああ!!」


ボガァァァアアァアァァァァンッ!!!!


??「爆発オチなんてサイテー!」

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でびっとわーど 煩悩満開様 @Az6d6AH6ka

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