1-2 SVAPNA
■■■■年■■月■■日――或る
世界には幾千、幾万、広大無辺に分岐点が存在する。
全ての事象の内、限られた一つを選択したが故に、今の世界が存在する。だが、もし違う選択をしていたら、如何なるだろうと考えた事はないだろうか?
もし今日の朝、牛乳を飲み忘れたら今日という一日はどう変貌するだろうか?もし学生の時勉強を真面目にしていたとしたら、人生はどうなっていただろうか?もし自分が生まれていなかったら、どんな世界になっていたのだろうか?
これらは所詮IFであり、虚構で空想に過ぎない。だが、もしIFを選択出来たら、
因果というモノが此の世には存在している。
因果、原因と結果を指し示す言葉だが、IFを選択出来たら、因果の否定に繋がるのではないだろうか?
原因から生み出された選択肢からは本来一つしか選び取る事が出来ない。しかし、IFを選定出来た場合、生得の理は歪み、複数の解を容認出来るようになる。
則ち、因果という一つずつの原『因』と結『果』が一つの『因』と複数の『果』という在り得ざる
そのような星への反逆は認められていない。だが、
しかしながら、其の感情、其の行為は仏教では煩悩として嫌忌されている。
それでもなお、凡ゆる人々はその煩悩を抱えて生きている。仏教徒も然り。もし、もし、もし……過去の消却、未来への期待、不変の常識への厭悪。其れらが結び付いて人は生存している。人は成長している。人は未来へと漕ぐ。
ならば、煩悩と云うモノは存外、悪しき感情ではないのだろうか?
仏教が説く『悟り』とは『無』であり、最も人間性から離れた概念である。それ故、その神仏の領域を目指して日々琢磨しているのだろうが……余からしてみれば、勿体無いとしか言いようがない。
腐れるかもしれない。堕落するかもしれない。破滅へと突き進むだけかもしれない。ならば、停滞を、虚無を選ぶ……というのは些か消極的ではないだろうか?
欲望の分だけ人は曲がっていく。が、成長もする。嫉妬が羨望へと化し、憎悪が愛へと変貌する。傲慢により失敗し、それを糧にまた強大に返り咲く。強欲により、発展と衰退、そして、革命が起こる。
だからこそ、人は美しい。容姿などではなく、其の在り方、其の生き方。歪であれども、正確でなくとも、一人だけの生を向き合い、謳歌する。失敗と成長を繰り返し、日々を積み重ねる。
だから、
――生きるのだ。苦しみも楽しみも全て御許の物だ。御許には全てを使う権利がある。だから、
これは『■■■を束ねる■■の■■の欠片が一つ』の
疑問を持ち、正しいかを裁定する。怒りを以て、正義を為す。愛を抱き、世界に示す。誇りを掲げて、翳りを掌握する。愚痴を吐き、清きに至る。羨望にて、理想を得る。強欲を従えて、現実を統べる。悪意を使い、自由をす。慢心をし、平穏を謡う。
御許よ、煩悩を完全悪だと履き違えるのではないぞ。煩悩は飽くなき欲、永劫に渡る進化の種子、母なる原罪の脈動、開かれた始原の濁流。其の感情を正しく総べた時、人は『人』として上へと転ずる。
『御許が世界を救う英雄足り得るか如何か、其の命が灰と化す其の時まで、見定めさせて貰おう』。
何時かまた逢おうぞ、
*****
2027年4月13日――国立言霊戦線学園『検査棟』
幾つものの使用されていないベットが置かれるの中に一人、むくりと起き上がる女子生徒がいた。それはそれは緩慢で、無警戒だった。
本来持っていた艶やかな黒髪は陽光が揺らめいているが如き、唐紅に鮮やかに変色していた。
寝起きのよう……実際その通りなのだが、目をはためかせながら、ぼーっとしていた。しかし、茶色の瞳も髪と同じように変色し、鈍く輝く至極色に
(あれ?ここどこ?っていうか、なんでベッドにいるんだろう?)
と、記憶が混濁し、思考が意味不明となっている律巴。
そんな困惑状態の彼女の背後から近付く一つの影があった。
「おーっす!未来の英雄ちゃん!御機嫌如何かな??」
「うわぁああ!!」
「いい反応だ。クヒヒ、クヘッヘヘッヘ」
ソレは律巴の肩を全力で叩き、耳元で不愉快としか断言する事が出来ない大声で叫ぶ。余りにも唐突な出来事に律巴は驚き、悲鳴を上げる。
その様子に愉快愉快と、軽薄な笑みと純粋に気持ち悪い笑声を轟かせる白衣の女性。
律巴は恐る恐る振り返ると、悪戯好きな長身の女性の美貌に呆気に取られた。
日本人離れした顔の造形。恐らく、東ヨーロッパか西アジア、それも限りなくヨーロッパに近い国の顔だ、と律巴は予想を立てた。
しかし、そんな憶測さえも、無価値に化す程の端麗で魔性の均整を白衣の女は持っていた。一筋の月光の如き、光り輝く金色の長髪。静寂に揺らめく湖面のような藍の切れ目の瞳。
人種などは些細な問題。己こそが、絶対美だと言わんばかりの存在感だった。
「おー、呆けているな。そりゃあ、そうだよなー。お……私だもんな!」
そして、人類の頂上たる美を穢す、残念な口調がそこにあった。
だが、近所のお姉さんと言った雰囲気が
律巴は数十秒、固まっていたが、やっとの事で通常運転に思考を変更させた。
一つ、深く、沈むように深呼吸し、目の前の女性に問いかける。
「すみません、水ください。喉が渇きました」
それよりも、生理的欲求が強かった律巴ちゃんでした。
*****
「いやー、名前とか状況とか聞くと思ったら、水かー。あははは、予想付かないなー。……水、美味しい?」
「はい、美味しいです!」
「そうかー、ならOK!ジャンジャン飲むといいよ。水は生命の源だからね、大切なんだぞー」
白衣の女性の名は
それに律巴も自身言えないが、苗字も名前もどことなくキラキラネーム臭が漂い、何とも言えない顔をしてしまった。しかし、輝く愛とは何とも似合っているとも、しみじみ感じていた。
(……水、美味しいな。っと、それよりも、何故わたしがここに寝ていたのかを秋猴さんに聞かないと。情報は宝って言うしね)
「秋猴さん、どうしてわたしはここに居るんですか?記憶が曖昧でして」
「おー、ようやく本題だな。いやー、もしかして聞かれないんじゃないか、とビクビクしていた所だよ。うん」
秋猴はオーバーリアクションと共に、長ったらしい前置きを言う。そういう性格なんだな、と律巴は理解した。
しかし、良い意味で感情豊かな秋猴に対して、嫌悪などは抱かず、純然たる親愛の念を感じていた。秋猴の朗らかなムードのお陰だろう。
そして、女優の様に、道化の様に、修道女の様に、姉の様に語り出した。
「つい先程、うーん、五時間ぐらい前かな?き……君達に宿る言霊の特定の為に検査を行っていたんだよ」
「――……あぁ」
(そうだった。入学式で説明があったなー、そんな事)
秋猴の一言で律巴は朧げな記憶の数々を海より余さず拾い上げた。
しかし、律巴はまだ何かが足りないと思っている。何か大事な、深遠に結び付く、したが、していない何かを――。
「英雄ちゃん?大丈夫かい?」
「――――……はッ!」
(はー、まただ。どうしても、一度思考を沈めると戻れなくなってしまう)
思索の大洋に難破した律巴を救ったのは太陽の如き秋猴だった。
律巴は感謝の意を、お辞儀として示し、かつ、言葉にしながら、一つの疑問を発する。
「すみません、ありがとうございます。……それで、英雄ちゃんって何でしょうか?」
そう秋猴は律巴の事をずっと『英雄ちゃん』と呼んでいた。
律巴にとって、英雄とは何かを成し遂げた人物の事を指す言葉だと思っているので、?マークが付くのは当然だった。
律巴は未だ、何の功績も持たない一般人。夢を持っていても、ソレは酷く自己中心的で自己完結した独り善がりなモノ。到底、万人から敬愛される善の象徴とは言えない、と心層最深部に根付いていた。
しかし、秋猴は健気な自己暗示を嘲笑うように、自分の考えを少女に放つ。
「別に今のき……君に対して、英雄と言っている訳ではないよ」
「じゃあ、どうして?」
「はいはい、そうかっかしなーい。人生、
んで、英雄の理由だっけ?簡単だよ。『ある』からだよ」
「ある?」
「うん、『ある』だ。為すだけの力が在る。為すだけの意思が或る。為すだけの資格が有る。為すだけの運がある。様々な『ある』が君に詰まっているからね。
大人の私が君の様な未来ある子に目を向けるのは普通じゃないかな?」
「根拠はあるんですか?」
「ん?ないけど。直観だよ、直観。
っていうか、理由とか根拠とか必要じゃなくない?そういうのを破壊していくのが
君さー、深く考え過ぎ。馬鹿っぽい顔なのに……年若い体にソレは毒だぜ?と言っても―、君を深刻にさせているのは私達のせいでもあるんだけどねー」
秋猴はらしくない、遠くを見据える、
憂国の眼差しに射抜かれた律巴は先の言葉を
(考え過ぎる、そうだね。わたしは深く考え過ぎるんだろうね。でも、今すぐ変えるのは難しいよ)
「別に今すぐ変えろ、とは言わんよ。徐々にでいいんだ。君達は迷える仔羊。一人立ちするまで導くのが、
篤信深き聖母の様に、全てを愛する破綻者の様に、甘く甘く甘く囁き、蕩けて蕩けて蕩けて叫ぶ。矛盾に満ちた存在に律巴は安心感を得た。
青森の地に来てから、不安に満ちていた彼女の暗雲を
*****
同日――国立言霊戦線学園【鍛錬場】《五時間半前》
「――就きましては、あなた方はこの偉大なる日本国を守護するという大役を帯びます。家族の為、友の為、人の為、国の為、星の為、あなた方は、私達は共に戦わなければなりません。
国立言霊戦線学園六期生として、言霊使いとして、日本国民として、防人として、誇りを以て、生きる事を切に願っています」
パチパチと拍手が巻き起こる。
その様子を満足げに頷き、学園長
そして、その男が壇上へと昇る。
威風堂々、絶対的存在、
その名を、日本国元首
――――沈黙。
否、沈黙なぞ生ぬるい。『無』音、無情な程に音がない状態に包まれた。プレッシャーではない。威圧に与した訳ではない。本能からそうするべきだ、と理解したが故の行動だった。
超越者の言葉ならば、一言たりとも聞き逃さない、と遺伝子全てが表明している様な錯覚に陥りながら、その場に居た人類種は彼の御方に全神経を集中させていた。
何秒経った?何分経った?何時間経った?何日経った?何年経った?
そして、ソレは口を
「――――……諸君、ワタクシは期待している。
――――……諸君、ワタクシは期待しているのだ。
――――……諸君、ワタクシは期待を抱いているのだ。
今度こそ、今度こそ、悪逆を尽くす侵略者共に
奴らは恐山を本拠地とし、周辺に十の国を建てた。本来、彼の地は我々の所有物である。しかし、奴らは生きとし生けるもの全てを強奪し、破壊し、凌辱した。犯されべからずの神聖な生命を奴らは悦楽の名の下に貶めたッ!
このような事があっていいのか」
『否、否、否!!!』
「そうだ、あってはならない!我々は取り返さなければならない!今の停滞の現状を打破し、過去の栄光を未来の王冠に変えるのだ!!
先代言霊使い達は十の国王の内の一つ『七ノ王』を滅した。残る国王は確認が取れている中で七体。今度こそ、我々は勝利の盃を掲げるのだ!
因來 律巴、木場 望、
選ばれた諸君らの中でも、素晴らしい言霊適性数値を出した。だが、悲嘆するな。諸君、ワタクシが保証しよう。諸君らは優秀だ。逸材揃いだ。諸君らは強い。
努力しろ、さすれば道は拓く。進め、さすれば目標は近付く。征け、其処に勝利がる。
行くのだ、国立言霊戦線学園六期生諸君!!!
諸君らには出来る。我々が全身全霊を以てサポートする。諸君ら、案ずる事などない。
――――……ワタクシからは以上だ。精進せよ!」
『ハッ!』
大歓声、喝采の嵐。全てをあの男は掌握していった。感極まって涙ぐむ生徒も居れば、誇らしそうに胸を張る生徒も、手が赤くなっても辞めずに拍手をし続ける教師。
しかし、止まないはずの光景が止まった。
誰も拍手をしていない、誰も鼻を啜る音を立てない、誰も感情を見せない。
そんな完成された歪を作り出したのは、やはり、あの男。東京元首だった。
スーツからもわかる、筋肉質の引き締まった腕を天に突き上げ、空を握っている。それだけで、彼らは行動を支配下に置いた。
そして、彼は予想外の行動に出た。なんと頭を深々と下げたのだ。傲慢を傲慢だと言わせない空気を醸し出す男が、国を代表する男が、世界に於いても強大なあの男が、ただの高校生風情に頭を下げたのだ。
「すまなかった。本来であれば、諸君らには違う未来があったはずだ。平穏で、平和な世界があったはずなのだ。しかし、その機会を我々は奪ってしまった。
悪魔討伐と言えば、聞こえは良いが、是は戦争だ。出来るのならば、我々大人が対処したい!しかし、我々には奴らを簡単に殲滅する事が出来ない。
血と死、狂騒と破滅で満ちた
ただ、我々の出来る事全てを行い、諸君らの助けになる事を誓おう。
すまなかった。そして、生きてくれ」
パーフェクト・ワンと称された男の懺悔と祈り、鼓舞が響いていた。
********************
△◆■◎年@▼月&$日――超メタ的異次元空間
因來「思ったんだけど、キラキラネーム多くない?」
秋猴「あー、それなー。読めないよなー」
東京「全く以てその通りだ。そうだな、憲法改正するか?」
新沢「元首殿、おやめください。自分の首を絞める事になりますよ?」
東京「新沢、ワタクシの名がキラキラネームだと言いたいのだな?よーし、わかった、ギルティ」
因來「秋猴さんもなんか凄い名前だよね。在り得ない苗字とか、ね。あ、秋猴さんの輝愛は好きですよ?キラキラしているけど」
秋猴「英雄ちゃんはお……私の苗字にケチ付けるんだー、ふーん。因來も大概、アレだと思うがなー」
東京「そうだ、主人公だからってキラキラネームにするのはよくないぞ」
因來「あ?喧嘩売ってるよね???わたし、買っちゃいますよ?爆買いするけどぉ???」
秋猴「え、えー?英雄ちゃん、爆買いする程お金を持っていないでちゅよねー??ママンからお駄賃貰ってきたらどうでちゅかー???」
東京「フ、醜い女の争いが一つ。キラキラネームとはやはり、罪だな」
因&秋「あ??テメェが一番キラキラしてんだろうがー!!!」
~閉店ガラガラ~
新沢「えー、皆様お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。上司、保険医兼研究員、生徒にはきつく言っておきますので、ご寛仁の程よろしくです。では、次回もまた、お楽しみに」
~追記~
筆者「6500文字も書いて、全然進まなかった事深く反省していますわー、多分ですわー。三部構成だったのもあって、ちょっと進む余裕がなかったのですわー!三話目はちゃんと進むんで安心して下さいまし。
言霊についても次回は触れるので、脳みその容量オープンしておく事をお勧めしますわー!!」
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