でびっとわーど

煩悩満開様

第一章 四弘誓願

1-1 SHANTI

■■■■年■■月■■日――■■山



 三人の男が荒れ果てた山で輪を作りながら、手を重ね合わせて何かに祈っていた。

 輪の中央部には黒と白の装飾がなされた分厚い本が開かれていた。そこには灰色の線で紡がれた緻密な魔法陣が描かれていた。


 しかし、その行為には一点の神秘もなかった。


 何故なら、必死に祈りを捧げる彼らの顔には、人間特有の浅ましい欲が貼り付けられていたからだ。もし、ここに敬神の徒。もしくは、深淵の探究者が『何か』に祈りや尊信の意を、挑戦の志しを示そうとしているのならば話は異なっていた。


 彼らは良くも悪くも人間らしかった。欲望を夢という形に陥れる、幼子のような純粋さを被った、老熟された悪意を持っていた。

 故に、幼き頃の儚い夢を叶えるという大義名分を得て、『ソレ』を呼び覚ます。それが人類、ひいては星の終焉に結び付くとは思わず。否、本来はそのような用法で使用される一品ではなかったのだが……人が悪かったとしか言えないかった。


 時は過ぎ去り、彼らは呼吸を合わせて、『ソレ』に贈る祝詞のりとを発した。本来、『ソレ』を呼び出してはいけない。それでも彼らは己が欲の為に言祝ことほぐ。


『黙示の鐘は鳴る。疾うに止める事は出来ず、我ら、其の日其の時まで恐れ慄く』


『神は見限り、庇護の手蔓は途絶え、下界へと堕つ』


『白の騎士、赤の騎士、黒の騎士、青の騎士が主より下される命に答え、生まれ落ちた奇跡を摘む。殉教者は復讐を望みて、道半ばにて枯れ行く。主隠れた星は破滅を享受す。地は割れ、天は崩れた。しかして、我らの祈りは未だ衰えず』


『終末の其の日、喇叭ラッパが鳴る。I、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ。権能を以て、世界を終局へと導き、誘う』


『背徳の女王は生存圏を堕とし、叛逆の天使は悪魔の王へと変貌す。赤き龍は殺戮に酔い、獣は原始の海神ワダツミより舞い戻る。悪徳は満ち、烙印を科す。天は崩れ、世界は絶滅の一途を辿る』


『七つの災いは世に歯向かう。血を血で洗い、善悪さえも無の空に還し、終わらぬ絶望へと災禍を奮う。地は消え、海も消え、空も消える。世界の終わりは近い』


『背徳の女王は討ち取られ、繁栄せし冒涜の都は陥没す。嘆き、積もりしは、杯から溢れたり』


『来るべき其の日、何もなきこの大地にて、回帰せし主は悪魔の王、原初の獣、偽りなる者どもを混ぜ、世界を救い、壊す』


『矛盾せし、主は今も尚、この星の行く末を天より巨視する』


『聖典は記した』


『外典は記す』


『我らは誓う。裁定されるべき日は、未だ彼方に在り、と』


絶巓悪魔召喚システム:バシレイア――【黙示録の主レコーダー】ヨハネ』


 此の地にて、黙示録を記したモノへと欲望の三重奏が捧げられた。


 そして、終焉へのカウントダウンが始まった日である。


*****

2027年4月13日――旧弘前市市街



「うわぁ……うわぁ〜」


 黒い質感のある、女性にしては短い髪を一房に纏めた見るからに陽気さが感じられる少女が荘厳な校舎の前に立ち尽くして居た。

 彼女の名は因來いなき律巴おとは。今年から高校一年生になる十五歳だ。


 そんな彼女が呆然と立ち尽くすその前には『国立言霊こくりつことだま戦線学園せんせんがくえん』と豪華に書かれた学校銘板があった。

 美しい明治時代を彷彿とさせる赤煉瓦の校舎。広大な面積を誇る入り口や中庭。素人目でもわかってしまう整えられた庭木。

 そんな庶民には手が届かないであろう光景に律巴は恐れ慄いていた。まるで、人に怯える子ウサギのように、高級レストランで肩身を狭くさせている一般人のように。


 しかし、律巴は神聖さ溢れるその地に足を踏み入れなければならないのだ。

 彼女は選ばれた寵児、108人のうちの一人。『言霊使い』だからだ。



 時は遡り、去年の夏。


 律巴がそれなりに活躍していた部活を引退し、少しばかり苦手な勉強をしなければいけなかった頃、彼女達は国指導の下、とある検査を受けるという義務があった。それが『言霊適ことだまてき性検査せいけんさ』である。


 検査について説明するには、先ずは、『言霊使い』について説明しなければいけない。

 『言霊』と呼ばれる言葉に宿った力を使役する人々の事を『言霊使い』という。

 では、何故彼らが国が欲しているかと言うと、『悪魔』の討伐の要となれるからである。

 『悪魔』は7年前に青森県の下北半島、恐山の山頂で突如現れた巨大な悪趣味な鳥居から現れた。ソレらは強靭な肉体と摩訶不思議な力を使い、下北半島を蹂躙した。

 しかし、とあるお婆ちゃんがこの危機を打破した。そのお婆ちゃんはなんと、恐山に住む最後のイタコであり、『言霊使い』だったのだ。イタコは言霊の力で結界を張り、『悪魔』を青森の地から出られないようにしたのだ。


 『言霊使い』は全ての人間が成れる訳ではないという。必要なのが、『言霊』に好かれているという事。

 好かれる条件が『言霊』との波長が近く、年幼い事だという。年幼いと言っても、十七歳までは許容出来るらしく、大人になるまでと言った方が正しい。

 

 政府は、イタコの力と知恵を借り、悪魔事件の一年後に『言霊適性検査』を完成させた。対象者は全国の中学三年生。何故かと言うと、十七では一年間しか国防出来ず、十二や十三では早過ぎて、使い物にならないと政府が判断した為である。


 機密情報である為か、どういう検査をするのかは伝えられていない。実際、受けた中三の生徒は寝ている間に終わっていたと言っている。律巴自身もそうだった。

 律巴はそのニュースを見た時、意味わからない検査を子供たちにするなって言う人たちが出るな〜と内心思っていたが、全くそういう問題は出て来なかった。


 それは政府に対する国民の絶対的安心感の現れであった。


 律巴はその検査で適性率100%を叩き出した。それは今までの六回の検査でトップだった81.5%を大きく上回った結果だった。

 その場で『言霊使い』になってくれないか、と検査官に言われてしまう程だった。律巴は『言霊使い』に選ばれる事は名誉な事だと思っていたし、彼女自身誰かの為に生きたいと密かに心に秘めていた。

 彼女は二つ返事で応じた。


 彼女の両親も泣いて喜んでいた。少し歪かもしれないが、彼女が生きているその時代においては正しい家族の在り方だった。


 そして、これより彼女は国より命じられて悪魔殲滅の為に、日本や世界の平和の為に学び舎へ行く。同級生、107人と共に。

 淡い決意を、儚い夢を、巨大な理想を、偉大な役目を胸に抱いて。


 時は戻り、学園前。


 彼女は顔を伏すと、小さく左手を上下にさせている。恐らく、『えいえいおー』とでもやっているのだろう。少し微笑ましい光景だった。

 しかし――


「おー!!」


 その大声で微笑ましさが痛々しさえへと変化した。更に、手を天高く突き上げ、ジャンプもしてしまっている。

 肉付きの良い頬に赤が染み渡る。見てわかるが、恥ずかしさに悶絶しているというのが今の現状だ。

 プラスアルファで座り込み、縮こまっている。何というか小動物的な可愛さがあった。……先の出来事に目を瞑れば。


 周りの生徒もクスクス笑ったり、嘲りの視線を浴びせている。


 それもスパイスとなり、律巴の恥辱心が更に増し、顔全体が茹蛸の様な赤に変色している。己の失態が故の悲劇だったが、その悲惨さには憐憫の念を感じずにはいられなかった。


 新学期大失敗黒歴史を作り上げた悲壮に暮れる少女の近くに一人の女子が近付いて来る。


「あんた、何してんの?」

「何って、ちょっとだけ恥ずかしい思いしちゃって、ね」

「さっきの声はあんたのだったのか」


 ――ぐぅ……。と、どこから出したのか分からない蛙の潰れた様な声を出す律巴。恐らくは、この子が居た所まで届いていたのか、と羞恥に駆られた為に出たものだったのだろう。

 そんな人間が発してはいけない音に少女は苦笑しながら、律巴が落ち着くまで待っていた。


「落ち着いたか?なら、立った方が良いぞ?」

「……ありがとう。よいしょっ、と」


 律巴は腹筋の力だけで、体を跳ね上がらせて起きる。柔軟な体と鍛え上げた実用的な筋肉を持つ律巴だからこそ出来た、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きだった。

 無駄の三冠王である律巴に親切に対応したのは茶色の煌々とした髪をサイドに結んだ、クール系バンドガールの様な背の高い少女だった。


 律巴はその美貌に呆けていたが、何か話さなければならないと、口を開いた。


「わたしの名前は因來 律巴っていうんだ。君の名前は?」

「あたしは木場きば のぞみ。よろしくな、律巴」

「木場ちゃん、ね。いい名前だね」

「あんがと。しかし、ぶり返すようで悪いが、律巴は何故あんな声を出したんだ?」


 律巴はギクッと途中で電池が切れたロボットの玩具のように止まりながら、恥ずかしそうに当時の心境を語った。


「いやー、リッチな建物に入る時って萎縮しちゃうじゃん。気合い入れなきゃ、って思って心の中で呟いていたら、ね」

「思わず『おー』と言ってしまった、と。……あんたアホだな」

「ぐ……否定出来ない所が悔しい!」

「ははっ、まあよろしくな、律巴」

「……よろしくね、木場ちゃん!」


 律巴と望は手を厚く握り合うと、ニッコリと微笑み合った。

 それはそれは美しい完成した空間だった。心無き人物でも領域へ入る事を躊躇する程に。

 ……しかし、それは世界など関係なく潰していく。学生の敵である定刻を告げる音が、園を引き裂いた。


『キンコンカンコン』

「「あっ」」


 校舎内外に鳴り響くお馴染みのチャイム音。周りには人っ子一人いない。

 そこから導かれる答えは……


「「遅刻だ!」」


 それも初日だ。それこそ新学期大失敗黒歴史になる。


 律巴と望は全力で走って、事前に知らされている教室【6A】に向かう。

 遅刻なのは変わらないが、先生がまだいない事に賭けて、走り続ける。


*****

同日――国立言霊戦線学園【6A】教室



「それで、言い訳は以上ですか?」

「「ぐっ」」

「先ず、遅刻はいけません。更に、初日の遅刻ですよ。社会人だったらクビものですよ。貴女達には国を守る『言霊使い』という意識が足りないようですね」

「「すみません!」」

「はぁ〜、明日からは時間に余裕を持って登校してください。じゃあ、席に座ってください」


 律巴たちは存分に怒られた後、窓側の前から二番目の席に座りに行った。

 『い』なきという五十音順で言えば先頭に入るであろう苗字は今回、二番目に早い名前となっていた。


 律巴は先生の話を右から左に聞き流しながら、教室風景を記憶に収める。

 習うにしては、ここは殺風景だと感じていた。掲示物がつけられた跡がない壁に棚の一つもない部屋、ロッカーに使用された形跡が感じられない黒板。

 形容しがたい不気味さに襲われながら、収集できる情報を頭に詰め込む。


「ねぇ、アンタ」

「ん?」


 不意に隣から声を掛けられた。しかも、小さくも張りのある力ある声に律巴は若干驚く。

 右を振り向くと、ちょっと身長の低いツインテールの女の子がいた。勝気な目、腕を組み、平らな胸を突き出している。幼児が背伸びをしているようで、律巴は抱きしめたくなったが、理性で止まる。

 彼女は可愛いものが好きなのだが、我慢強いのも特徴だ。


「初日から遅刻なんて中々やるわね」

「悪いことだけどね」

「ふん、当り前よ。しかし、貴女って」


 教壇の方から『バンッ』という痛々しい音が響く。

 律巴達は恐怖に震える子犬の如く前を向くと、鬼女のオーラを纏った先生が居た。鬼女のオーラを放っているのに、顔は満天の笑みを浮かべているという天邪鬼ワールド。

 律巴の危険センサーは最大級の反応を起こしている。『逃げろ、じゃないと殺されるぞ』と。

 しかし、残念ながらここには逃げる場所がない。観念しながら、すんませんと目で訴える。

 先生は私たちを見つめながら、無音で悠然に瞳で語った。律巴は明日を諦めた。


「えー、では次の時間の説明に入ります。鍛錬場にて、入学式を執り行います。学園長の話は勿論、日本国元首殿もお越し頂いているので、よく聞くように」


 日本国元首殿という単語が聞こえると、生徒一同(数人を除く)が目を輝かせ、嬉しさを全てで表現する。


 一方の律巴はこれから襲う罰(自分が全面的に悪い)に青くさせていた。


「では、5分休憩を取りますので、終わり次第廊下に出席番号順に並んでください。因來さんと小林さんは私の下に来てください。

 起立、礼。言霊に感謝を」

「「「言霊に感謝を」」」





 こってり絞られました☆――By 因來 律巴



********************

△◆■◎年@▼月&$日――超メタ的異次元空間


因來「さあさあ、始まりましたよ!『でびっとわーど』の時間です!」

木場「本当にふざけたタイトルだよな。もう少しなんかあっただろうに」

黒幕α「ふはははは!!!」

因來「んー、わたしは別にいいと思うけど?」

木場「そうか。ま、あたしはあたしという事か」

因來「そうそう」

黒幕β「くふふふふ!!!」

木場「……じゃあ、次回も頑張ろうか」

因來「ククッ、木場ちゃん。次回、君出番ないよ」

黒幕γ「ケハハハハ!!!」

木場「え。嘘だろ!あたし主要キャラじゃなかったのか!?」

黒幕∀「「「あはははは!!!」」」

木場「……律巴、少し締めてくるわ」

因來「いってらっしゃい♪

   じゃあ、次回もよろしく!!あと、一箇所だけ矛盾点あるけど仕様だよ★」


黒幕∀「「「ぎゃぁぁあぁぁぁああ!!!」」」

木場「ゴミは綺麗さっぱり流されろ!!」

因來「水責めだね、木場ちゃん」

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