㐧32話 久しぶり

武上が走らせる白色の自動車は、なんの変哲もない公衆トイレに到着した。


「あ、トイレ休憩ですか?」


「いいえ、ここが目的地です。」


「え?」


スタスタとやけに早い歩みで武上はトイレに入り、前から数えて3番目の個室のドアに手を当てた。


「あのオッサン何やってんだ……?」


奇怪な行動に飯島も思わず困惑した直後、ドアの表面に細い光の線が現れ無数かつ規則的に広がる。


その線は表面いっぱいに広がった後、ドアは分解した。

個室かと思われた空間には奥が見えないほどの暗闇。


「……まさか、ここが入口ですか?」



俺の質問に対して、武上は例によってアルカイックスマイルで返す。


そして口角をさらに上げ、こう言った。



「ようこそ、レギオン技術部へ。」




————


寂れた男子トイレとは打って変わり、技術部内部は大量の研究者と、これまた大量の実験用機材。近未来的な雰囲気を纏った巨大な実験室。それが”技術部”だった。


「それではシミュレーション装置のある部屋までご案内します。」


「こんなに広い上に複雑な構造してるんですね……。」


「ええ、ですから地図アプリが手放せません。あ、眼鏡にインストールしてるから手放しようがないか。ハハハ!」


意味のわからないジョークをスルーしながら、俺たちはまるで迷路のような通路を進む。


異獣討伐のための叡智が詰まったこの技術部だが……目に映る機器のどれもが見たこともない。


シザースの時なんて通常の銃火器を使用していたぐらいなのに。

彼への使用は想定されていなかったのか?


「——ましたよ。」

想定していないならば何故、あんなにも死傷者を出した?


そもそもどうしてあのような強さを——


「向井さん?」


「あっはい?」


「着きましたよ。シミュレーションルームとでもいいましょうか。」


「すみません、考え事してて。」


「謝ることはないですよ。考えることはいいことですから。」


いまいちよくわからない返事をした後、武上はドアを開ける。


その先にはなんと、

「悠亜と、華帆!?」

久しく会っていない友達がいたのだ。


「将徒!将徒だーっ!」


白い髪を振りながら、悠亜は俺に向かって飛びついた。

「おあっ!? 危ないだろ悠亜!?」


「えっへへへ……だって久しぶりじゃない!」


……ゲームじゃ味わえない感触を必死に、且つ冷静に受け止める。ほんと柔らかいな、何がとは言わないが。


というかなんか人懐っこくなってるな。


「悠亜も夏帆もテスターに選ばれたのか」


「ああ、そうだ。悠亜はすごいぞ。私より真力の使い方がうまいんだ。」


華帆は何故か俺の近くに座り直して、悠亜を誉めた。


何故?



「……統摩はどうしてるんだ?」


「わからないわ……特別学習とか言ってすぐどっか行くし」


「え、そうなのか」


おかしい。悠亜が未だに抱きついていることも十分おかしいが、それ以上に東雲もおかしい。あいつそんな塞ぎ込んでるのか? 一体どこで何してるんだ……?


「……なあ、そろそろ離れてくんないかな」


「向井、お前らそんな関係だったのか……!?」


「考えとくわ♡」


「ええ……」


「おい……? 俺もいるんだけど?」


————Side 東雲統摩 


殺風景の部屋に、東雲統摩は武上と名乗る男と向かい合っていた。

部屋にあるのは人数分の椅子と、張り詰めた空気だけ。


「会えて嬉しいです、東雲さん」


「……何が目的なんですか。言っときますけど、オレの能力は大したもんじゃないですよ。むしろクズです。」


「クズなのは使い方だけですよ。よく言うでしょう、馬鹿とハサミは使い様って。」


「あなたの能力はハサミなんですよ、それも超強力な。でも使い方を知らなければ、ただのガラクタに過ぎない。」


ニヤニヤと武上は表情を崩さない。


「ここは一つ、私たちのハサミになってくれませんか? レギオン技術部、いや……」





「私たちの”ガラリア“のハサミに、ね……。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

RPGの友人キャラに転生したので好き勝手やろうとしたら何かがおかしい 上本利猿 @ArthurFleck

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ