Outro

「あとは汁物、スープを残すのみじゃ。勇者よ、このままではぬしに勝ちの目はないぞ」


「えー、若竹煮もササチーも結構いい出来だったと思うけど」


「ピンクのワカメとチーズの脱走が致命的じゃ。そもそも、ぬしは勝とうとしておらぬじゃろ。われを逃がしてどうするつもりじゃ?」


「バレたか。そりゃ魔王ちゃんとは長い付き合いだし、このまま処刑されちゃうのは忍びないよ。講和の使者を捕らえるなんて、人族にとっても歴史の汚点になるしね」


「ならば始めから、ぬしが人族を平定すればよかった話じゃろ。戦でもぬしは手を抜いておったが、そんなことをするくらいならの。ぬしが力ずくで王になればよいのじゃ」


「そりゃあ……ボクは魔王ちゃんみたいに国を背負うなんて柄じゃないから」


「ぬしが何かする度に、肉が動物になったりどんぶりが光ったり、ピンクのワカメがウネったり、塔が光って死人が蘇ったりしたの?」


「訳がわかんないよね」


「われも何言ってるかちょっとわからんのじゃ! ぬし、魔力の放出が癖になっておるじゃろ? 魔力を込めた食事など並の人間には毒じゃ。いつか人を殺すぞ」


「いやぁ、それほどでも」


「褒めとらんわ! まぁわれはあの程度平気じゃがの。ぬしの魔力と適性は人族の範疇を超えておるのじゃ」


「うん、じゃあ誤魔化すの終わり。確かにボクはもう、呼吸一つするだけでも魔力が動いちゃう。勇者の因果律はボクを成長させ続けるんだ」


「魔力が動くということは、それに応じた奇跡が起きるということじゃな。ぬしのそれは特大じゃ」


「うん。人族の士気が変な方向にキマってるのも、そのせいだよ」


「やはりな。われは勇者の力に応じて強くなる、魔王の因果律を持つゆえ。しかし、それでは勇者というよりも傾国の妖、九尾の狐のようではないか」


「もうボクに付いてこられる仲間もいない。どの国もボクをあてにしながら、怖がってる。親は嫁のもらい手がないボクを憎んでる。ほんとはこっちから縁を切ったんだ。これ、魔族誕生の歴史を思い出さない?」


「なるほど傾国どころか、次代の魔王はぬしであったか……まさしく人の世の終末じゃ」


「そういうこと。それで気付いたんだけど、魔王ちゃんとボクが魔族側にいれば、魔族と人族の戦争は止まるよね?」


「それはまぁ、人間に勝ち目無いからのぅ」


「魔族の動向が気になって人間同士も戦争どころじゃない。けど強大すぎる魔族に人間は手出しできないよね」


「二大勢力がにらみ合う世界を望むか、勇者よ」


「さっき世界の半分をくれたから。ボクがもらった分は人間が好きにすればいいよ」


「ぬしかわれが死ねば、あるいは人族にまた勇者が生まれれば再び戦争であろう」


「魔王ちゃんて人族にも結構人気あるし、配信見てた人なら魔族領に移住したがるかも。魔族と人族が戦う理由なんて、そのうち無くならないかな」


「そんなことをして、ぬしになんの得がある? 裏切り者と指差されるのじゃ」


「魔王ちゃんのそういう、人を品定めしているようで実は心配してくれてるところ。敵同士の頃から好きだったよ」


「ぬ、ぬしは敵ながらあっぱれな奴と思うておったからのぅ!」


「ボクね、勇者を引退したら居酒屋でも開こうと思ってるんだ。魔族ならボクの料理でも大丈夫だよね。ダメでも魔王ちゃんが食べてくれるよね?」


「われ、とんでもない者を魔族に引き入れようとしておるやもしれぬ……じゃが、そうまで言われては仕方ない。われも魔族領に戻り、世界に平和をもたらしてくれるわ!」


「ほら、ようやく迎えが来たよ。魔王軍の王都侵攻だ」


「なんじゃと!? なぜこの場所がわかったのじゃ?」


「さっき塔が光ったからじゃないかな。作ったお料理はお弁当箱に詰めて――お酒とくだものも少し持って行こうか」


「あれはこのためじゃったか、おのれ勇者! これを待っておったなっ? あ、チーズも持ってゆくぞ」


「結界は壊れてるし、ボクを人質にして脱出するといいよ。ほら早く合流して撤収しよう、無駄死にダメ、絶対」


「おのれ勇者め。この戦争が終わったら、貴様を魔王にしてくれるわ!」




(完)

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魔王と勇者の終末クッキング 筋肉痛隊長 @muscularpain

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