第5話・ハンドクリームを作ろう(2)
軽く軽食を摘まみ無事腹ごしらえをした、私は早速ハンドクリームについての計画書を作成する。
使用用途や必要となりそうな薬草や草花、材料費、人件費や、容器案などについても記載しておく。
(こうすればきっと聡明で行動力のあるマクレガーさんなら、次回うちに来るまでにきっと何か動いてくれるはずだから)
ちょうど計画書とマクレガーさん宛の手紙を書き終えたところで、侍女のルーシーが部屋にやってくる。
「お嬢様、お茶をお淹れしました。休憩をなされてはいかがですか?」
私より3歳年上で人懐っこい侍女のルーシーの提案を、私は、にこやかに受け入れる。
もう、そんな時間だったのね。
集中していたら時間が経つのは早いわね。
「そうね。いただくわ」
元の世界では仕事で「企画書」を提出することもあった。
しかしそれは全てパソコンを利用した物だ。
パソコンやスマホが存在しないこの世界。
流石に全て手書きで「計画書」を書きあげるのは少々疲れた。
(この世界には企画案と言う考えが定着してないため「計画書」として説明する予定だ)
うーん。
パソコンやスマホがあると便利なんだけどなぁ。
流石に異世界の近代文明をこの世界で開発するのはダメな気がする。
そんなことをしてしまったら、
大変なことになってしまうのは目に見えている。
私が望むのはあくまでも
「平凡で安定した生活」と
「それを叶える為の穏やかに暮らせる程度のお金」だ。
決して贅沢や権力が欲しいわけではない。
(公爵令嬢という立場だけで充分な権力者なのだが、貴族社会がない民主主義で平和な国で育った彼女には特権階級や身分差という概念があまりなかったのである。
そもそも未成年の子供が新たな物を開発すること
自体がチートなことだと、この時の彼女にはわかっていなかった。
今日のおやつはスコーン。
この世界のおやつって粉物ばかりなのよねぇ……
しかも、御多分に漏れず、パサパサ系……
主食のパンは案の定硬いし……
パンって酵母菌が確か必要だったわよね?
発酵させてから焼いたような記憶が。
昔あっちの世界で作ったことがあるが、
第一次発酵、第二次発酵、と結構面倒で時間がかかった記憶が。
でも、あのフワフアのパンが
もしこの世界でも作れるとしたら?
はあぁ! なんて素敵なんでしょう!
ハンドクリームが完成したら
今度は新しいパン作りね!
あぁ、やることが沢山あり過ぎて忙しいわ!
困ったわ……
あ! こんなことをしている場合じゃないわ!
「計画書」と、お手紙をマクレガーさんに出してもらわないと!
お父様はまだ執務室にいらっしゃるかしら?
「ルーシー。おやつをありがとう」
「私はお父様に、このお手紙を届けて貰うようお願いしてくるから、あとはお願いね」
「お嬢様? お手紙なら、私が旦那様にお持ちしましょうか?」
「いいえ。これはとても大事な物だから私がお父様にお願いしてくるわ」
と、私が言うと
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
と、ルーシーは深々と頭を下げる。
私は、はやる気持ちを抑えながらも
足早に執務室に再び向かう。
パート主婦(元)は夫に浮気され捨てられましたが~転生して激甘王子様に溺愛されて幸せです。王太子妃になってもパートは続けたい~ 蒼良美月 @meyou15
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