8. 新たな日々へ

 数ヶ月後。

 デビルシードの新商品は、空前絶後の大ヒットを記録した。

 オリビアに贈ったアクセサリをプロトタイプとした新商品である。

 妹がホクホクした顔で「売れ行きがヤバくてヤバイ」と、語彙力を喪失するほどに喜んでいた。


 生活も一変した。

 僕がデビルシード創業者であると、学園長が大々的に表彰したのだ。

 飛ぶ鳥を落とす勢いの天才発明家。その理論は魔術学会でも革命的だと評され、今なお議論され続けている。

 そんな情報が学園全体に知らされ――学園での僕に対する視線は一変した。



 ある日の放課後の教室にて。


「馬鹿にして悪かった! どうか俺にも魔道具を作ってくれ……!」

「カインさんのこと、実は格好良いと思ってました!」


 冴えないオタクと僕を蔑んでいたクラスメートたちは、驚くほど簡単に手のひらを返した。


「あれはオリビア専用の特別製。そう簡単には作れないよ」

「そこをなんとか――」

「ごめん。オリビアが待ってるから」


(さんざん「魔道具作りからは足を洗った方が良い」なんて馬鹿にしておいて、今さら作って欲しいなんて)


 魔道具だってただではないのだ。

 注文するのなら、きちんと正規の手順で手続きをして欲しい。

 そうしてクラスメートたちの元を去った僕は、久々にある人物と再会する。



「エリシア……」

「あ、あの――」

「どうしたの?」


 エリシアとは、すっかり疎遠になっていた。

 一時期は僕の後ろをこっそりと付けたりもしていたみたいだけど、最近はそんな様子もない。


「私にも魔道具を作って欲しいなって……」

「どうして今さら? 僕の作ったゴミなんて、バラして売ってたんでしょ?」


 エリシアにとって、僕の魔道具は欠片の価値もないはずだ。


「それは――私が間違ってたわ。それより……、カイン! 特別に、特別に――私と付き合うことを許可してやっても良いわ!」


(はぁ……?)

(今さら、何を言ってるんだろう?)


「物分りが悪いわね! あの日の告白をやり直すって言ってるのよ!」


 振られた当日は、本当に落ち込んだ。

 大好きな魔道具作りすらどうでも良くなるぐらいに悲しくなって――そこを慰めてくれたのが学園の聖女様だったのだ。

 学園の聖女様。今では唯一無二の相棒にして、最高の戦友。



「それは悪いけど……。僕はもうエリシアのことは、何とも思ってないんだ」


 共に魔道の道を極めんとするまっすぐな女の子で……、

 ――ああ、きっと僕は、彼女のことが好きなのだ。


 だからもうエリシアに対する恋愛感情は無かった。



「カイン、嘘でしょう? なんの冗談よ」

「ごめん。用があるから、もう行くよ――」

「待って。待ちなさいよ!」


 断られるなんて予想もしていなかったのだろう。

 なおもエリシアが言い募ってくるが、


「魔道具なら作るよ。幼馴染だからさ……、サービスはする」

「それじゃあ、私と――」

「ごめん。それは無理。僕とエリシアは幼馴染だけど――それ以上でも、それ以下でもない。――これまで仲良くしてくれてありがとね」


 ずっと騙されていたことに、思うところはあった。

 それでもエリシアのおかげで、楽しい日々を送れていたことも事実なのだ。

 不思議とスルリと出てきた感謝の言葉。


 ――それは決別の言葉であった。



「じゃあね、エリシア」

「待ちなさいよ! ――待って、よ……」


 弱々しいエリシアの声が聞こえてきたが、僕は聞こえないフリをした。



 この後は、オリビアと約束がある。

 これからの楽しい時間に思いを馳せ、僕は待ち合わせ場所に向かうのだった。




 デビルシードの新商品が大ヒットした後、なんと僕は学園から専用の研究室を与えられることになった。

 なんでもデビルシードの新商品の開発にお役立てくださいと――とんでもない特別待遇である。



「……ただの学生がこんな環境を貰っちゃって良いのかな?」

「何言ってるんですか。先輩なら当たり前ですよ!」


 放課後の研究室で、僕とオリビアはのんびり紅茶を飲みながら向き合っていた。

 研究室内には、まるでずっとそうしてきたかのような、ゆったりした空気が漂っている。


「その正体を大々的に発表した今、先輩を欲しがる学校は他にも多いんです。もし好条件をちらつかされて、転校でもされたら大損害ですから」

「そんな大げさな……」


 オリビアは、すっかり僕の研究室に入り浸っていた。



(学園の聖女様――)

(毎日のように一緒に居るけど、未だに信じられないや)


 エプロンドレスが似合っており、今日も最高に可愛いらしい。



「先輩、先輩! それより今日は何の実験をするんですか?」

「今日は興味深い論文が出てるんだ。それを読み込んで――試してみようかな。オリビアも手伝ってくれる?」

「もちろんです!」


 そんな可愛らしい少女は

 ――ともに魔道具の奥深さに飲み込まれた最高の同士なのだから。



 魔道具の真髄は、まだまだ解き明かせていない。

 今日も最高に楽しい時間が、僕たちを待っている。



===

>>あとがき<<

これで、この作品は完結となります。

思っていたより多くの方に読んでいただき、とても嬉しく思います。


「幼馴染ざまぁ書いてみたい・・・!」っと勢いで書き始めた作品ですが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです!

今後のモチベーションになるので、面白かったという方は、ポチっと「お星さま」を下さると嬉しいです、お読みいただきありがとうございました!

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「オタクはキモいから近寄らないで」とこっぴどく幼馴染に振られましたが、なぜか学園の聖女様と付き合うことになりました~僕の発明品が魔術学会で革命を起こしているからヨリを戻したいと言われても、お断りです~ アトハ @atowaito

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