7.《幼馴染視点》後悔しても・・・

《エリシア視点》


 その日も私――エリシアは、あのオタクを追いかけていた。

 

「ストーカー?」

「エリシア、まさか実はあいつに気があったの?」


 友達は、からかい半分にそんなことを聞かれたけれど……。


(冗談じゃない!)

(ただ、あいつがデビルシードの創業者じゃないって証拠を掴むだけよ!)

(証拠を掴んで、オリビアちゃんに突きつけて――それで……、それで…………?)


 なぜこんなにも執着しているのかは分からないけれど、私は今日もカインとオリビアの後を付けていた。



「放課後にこんなに遠出して――どこに向かってるのよ?」


 ある日の放課後、カインとオリビアは隣町に繰り出していった。


(まさか街中デート!?)

(あいつら、いつの間にそんな関係に――!?)


 キーッと唇を噛む。

 幸せそうな空気が許せなかった。


 そうして後を付けていき……、



「あははっ、カインも見栄を張り過ぎたわね! 墓穴じゃない!」


 思わず笑ってしまう。

 彼らはあろうことか、デビルシードの本店に足を運んだのだ。



(門前払いされて終わりよ。良いざまだわ!)

(せいぜい惨めな姿を晒したところを、思いっきり笑ってやるんだから!)


 私もひっそりと後を付け、建物の中に入り込む。

 入り口はオープンスペースなので、客のフリをして潜り込むことに成功したのだ。


 ――そこで私は、予想だにしない衝撃の言葉を聞くことになる。



「お久しぶりです、カイン様」


 執事風の男が、あの冴えないオタクに恭しく頭を下げていた。

 

「ご苦労さまです、セバス。留守中は変わりなかった?」

「はい。工房もいつでも利用可能です」


 更にはあのオタクが、当たり前のように親しげに執事と言葉を交わしたのだ。

 そして当たり前のように、関係者以外は立ち入れない「開発室」に入っていくではないか。

 それの意味するところは――考えるまでもなかった。



(まさか……)

(まさか、まさか――!?)


 青ざめる。

 私が大好きなブランド『デビルシード』の創業者にして開発者である男は、実は私がさんざん馬鹿にしてきて振った――



(そんな筈ないわ!)

(そんなこと、ありえる訳がないわ!!)


 私は、半ば意地になっていた。


「すいません。先ほど訪れた二人組なのですが――」

「ああ。カイン様と――隣の子は、彼女かしら? カイン様が平日に訪れるのは本当に珍しくて。良いものを見た気分です」


「それじゃあ、まさかあいつが本当にデビルシード創業者の……」

「ああ。あの若さで、次々と革新的な技法で魔道具を生み出し、技師の中に革命を起こした新進気鋭の発明家――我々は誰もがカイン様に憧れて、デビルシードに入社したんだ」


 私が尋ねると、従業員は鼻息粗くそう答えるのだった。



(カイン様。たしかに……、そう言った)

(新進気鋭の発明家……。それじゃあ、本当に、あいつは――)


「うそ。嘘よ」


 私は逃げるように、デビルシードの建物の外に出る。


 私が好きで好きでたまらなかったデビルシードの魔道具たち。

 その原型を生み出していたのが、これまで散々バカにしていたあのオタクだったなんて――信じたくなかった。

 信じたくなかったが、デビルシードの従業員に確認まで取ったのだ。

 もはや覆しようがなかった。



「そんな。私はなんてことを――」


 革新的な魔道具を次々と生み出してきたあいつに、私はなんと言ったのか。



「その魔道具を弄る趣味――いい加減やめた方が良いわよ。気持ち悪いもの」 


 ああ、そんなことを言ってしまった。

 ――私は、あまりに無知だったのだ。



 あそこで告白を受け入れてさえいれば、今頃あいつの隣に立っていたのは私だったのだろうか。


 絶望した。悲しみの涙は流れなかった。

 そう、どれだけ後悔しても、もう遅いのだ。

 ――すでにカインの隣には、学園の聖女様がべったり張り付いている

 ――毎日を楽しく過ごしており、すでにわがまま幼馴染のことなど眼中にないのだから

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