第2話
春のそよ風がまだ肌寒い4月上旬。
着慣れない固めの制服を身にまといこれから3年間通うであろう高校の門をくぐる。
しかし、なにやら学校全体が騒がしかった。
校舎の1階に人だかりができていた。
そりゃこれから1年生がクラス分けの張り紙を見て各々自分の教室に向かうので多少混雑は予想できるだろう。
だが、その面々には一年生だけでなく2年生や3年生の姿も見える。
「なんだ?この人だかり...」
そのわけは教室に向かう途中で分かった。
1年5組の教室のあらゆるところに紙が貼りつけられていた。
白い紙に黒のマジックペンで何か書いてある。
律儀にも床や黒板後ろのロッカーに隙間なく張られており、極めつけは天井にまで貼っているという奇々怪々ぶりである。
一体だれがこんなことを...??
真っ先にこの疑問を誰かにぶつけてやりたいが、まだ顔も名前も知らないクラスメートに気軽に話しかけるほどのコミュニケーション能力と度胸をまだ持ち合わせていないため呆然と立ち尽くしていたところ、腕を組んでなにやら不敵な笑みを浮かべながら隣でつぶやいてる男がいた。
「いやはや、これはまた派手にやってくれましたね。彼女の存在がそれほど、これほど拒まれるとは予想外でしたね。あなたもそう思うでしょ?」
「・・・は?何言ってんだ。」
「おっとこれは失礼。またいつもの私の癖であなたに話しかけてしまった。
私は荒島心次郎。これから3年間よろしくお願いいたします。」
「なんだ、なにもかもお見通しみたいな口ぶりだな。この惨状になにか心当たりでもあるのか?」
「ここで説明してもいいのですが、いずれ分かることなのでまたの機会にお話しできればと思います。あなたにできることはここにある紙だらけの教室を一枚一枚剝がすことだと思いますがどういたします?普通に考えてこのままでは授業はおろかまとも教室が使えません。」
「至極全うなこと言ってくれるが、その口ぶりはやめたほうがいいぜ。無駄敵を作るだけだ。」
「ふふ、よく言われます。この口調は幼いころからの癖でして、あなたの推察通りこれまでたくさんの人に目をつけられてきました。ですが、僕はあなたとは気が合いそうだ。まずこんなに僕の話を聞いてくれるだけでも随分珍しいほうです。」
「俺のほうは全くそう思わないけどな。」
ずっと不敵な笑みを浮かべた初対面の男子生徒をよそに俺は真っ白な紙に敷き詰められた教室をクラスメートたちと一緒に一枚一枚剥がしていった。
普通の白い紙だ。
教室の窓や机、いすにもついてる。
犯人は何をトチ狂ってこんなことをしたのか見当もつかない。
いたずらにしては律儀すぎるし、悪さを企んだとしたら地味すぎる。
犯行に使われた物品は紙とテープ。
「白い紙でよかったね。これが赤い紙だったら身の毛もよだつよ。なにかのホラーゲームみたいにさ。」
おかしなベクトルで話かけてきたおかしな頭の女が話かけているのが他でもない俺であることに気づくのにコンマ5秒かかった。
「え?ああ(??)・・・、まあなんにせよ入学初日にこんな事態巻き込まれるなんて迷惑極まりない。えっと・・・君は」
「私は鈴木栞よ。あなたのことだから鈴木さんと呼ぶのかしら。」
「俺じゃなくても君のことはみんなそう呼ぶんじゃないかな。」
「真面目ねえ、ちょっとしたジョークよ。心にゆとりを持ちなさい。常に余裕を持ってることが問題解決には不可欠なのよ。」
その女はロングヘアーで頭頂部付近を6か所ほどちょんまげのようにゴムでくくっており、一見しおれたウニような姿をしていた。
周りを見回してもそんな奇抜な髪型をしてる女生徒は一人もおらず、周囲の人間などじゃがいも程度にしか思っていないのだろう。
「君のその髪型変わってて面白いね。」
「私もそう思うわ。」
皮肉は通じないらしい。
「そんなことより、私あなたを知ってるわ。ここらへんではちょっとした有名人さんでしょ。」
「・・・有名かどうかは。」
「まあ、いいわあなたもまた面白い人だし、私、この学校が好きになれそう。」
俺の少し曇った表情を察知したのか鈴木栞はそこで話を切り上げた。
変なところに空気を読めるやつだ。
世界の間 ミカン箱 @asitaarata
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