恐怖!! 古くからの友人達が、次々と陰謀論脳になりました!!

@HasumiChouji

恐怖!! 古くからの友人達が、次々と陰謀論脳になりました!!

「あの……先生が調書の中で言われてる陰謀論って良く聞きますけど……そもそも、どんなモノなんですか?」

 その弁護士は容疑者である元大学教授にそう聞いた。

「ですので……現実は極めて複雑ですが、人間は、ある程度、物事に白黒を付けないとマトモな生活がおくれない訳ですよね?」

「ええ……」

「で、正気の人間なら、判らない事は判断保留して、人生の中に灰色の白黒付けられない余地を残して生きてくしかない事を判っている。でも……」


 事の起りは1年ほど前だった。

「ああ、どうも……久し振り」

「あっ……」

 学会で、たまたま、再会した古い知人は、戸惑ったような顔をしていた。

「そう言えば、最近、一般向けの擬似科学商品批判の講演会に、俺を呼んでくれて……」

「え……えっと、あのその……」

「どうしたの?」

「すいません、他の講演者から先生と一緒は嫌だって話が……」

「はぁ?」

「い……いや……あの……」


 どうなってんだ?

 そう思って、調べてみると……。

 あれ?

 最近の講演者のSNSアカウントを見ても表示され……ん?

 おい。

 俺、いつ、この人をブロックしたんだ?

 一応、ブロック解除し……。

 ん? うわあああああッッッ⁉


 うそだ?

 何がどうなってる?

 なぜ、あんなヤツが疑似科学批判者を装っている?

 なぜ、あんなヤツが疑似科学批判の講演会に呼ばえれている?

 ヤツは野党第一党……正式な名前は忘れたが、通称「反対党」の支持者だったのだ。

 正式名称は……ああ、くそ、家で新聞取らなくなって、TVも故障してから修理に出してないし……あれ、国会での議席数は野党第三党ぐらいだったっけ?

 しまった、政治関係のニュースは、もう、SNSで流れてくるヤツしか見てない。

 まぁ、いいや、ともかく、反対ばかりしてるから反対党でいい筈だ。

 SNSでは、みんなそう言ってる。

 しかも、反対党の支持者達は……『与党第一党が八〇年代〜九〇年代に霊感商法で問題視されたカルト宗教と繋りが有る』と云う陰謀論を信じてる奴ばかりだ。

 そんな奴に科学的な思考が出来る筈が無い。


 しかし、それから数ヶ月……気持ちの整理がようやく付いてきた頃に、とんでもない事が起きた。

 SNSを眺めてると、あの反対党支持者のニセニセ科学批判者が書き込みが表示され……あ……ブロック解除を解除するのを忘れ……え?

 俺がフォローしてた誰かがお気に入りに追加したんで表示された……いや、待て……何で?

 俺がフォローしてるのは理性的で現実的な人達ばかり……ああああああッ⁉ お気に入りに追加したのは……かよッ⁉


 俺が自分の娘の教育に失敗した事を思い知ってから数ヶ月。

 俺は完璧な計画を立てていた。

 何とか……娘を再教育しなければならない。

 そして、年末、就職した娘が帰省していた。

 夜中の3時……。

「ちょっとトイレ……」

 わざと、そう言って俺は起き上がり、寝室を出た後、トイレではなく娘が寝ている部屋に忍び込み……。

 しかたないんだ……。

 わかってくれ……。

 お前をわからせるには、こうするしかないんだ……。

 娘のスマホを見付けるまで一〇分近く……。

 そして……あ……ロックがかかってる……。

 駄目だ……。

 娘がSNSでフォローしてる危険人物は既にリストアップしている。

 娘のアカウントでSNSにログインして、危険人物を片っ端からブロックする筈が……最初で躓いた。

 何故だ?

 完璧な計画の筈だったのに……。

 何でロック解除を誕生日にしてない?

 やっぱり娘の教育を間違い……。

 ゴオンッ‼

 次の瞬間、頭に衝撃……。


「ただいま……」

 そうは言ってはみたものの……職場から帰って来ても、家には誰も居ない。

 妻は家を出て行った。

 一人娘は……どうやら、俺の携帯電話の番号を着信拒否にしているらしい。

 郵便ポストには、郵便物が溢れている。

 だが……見る気にもなれない。

 きっと妻から離婚届も届いているだろう。

 クソ……。

 俺は、書斎に入り、コンビニで買ったカップ麺を食べながら……。

 あの反対党支持者のニセニセ科学批判者をフォローしてるヤツをリストアップし……恐しい事に、精神汚染は俺の数十年来の知人達にさえ広がっていた。

 家族に見捨てられて数ヶ月。

 俺の専門は物理……それもコンピューター・シミュレーションだ。

 SNSのフォロー関係から、全ての元凶である人物を見付けるアルゴリズムを一から開発し……それを自宅のPCで走らせ……。

 完了していた……。

 誰を殺せば……俺から全てを奪った陰謀団を壊滅させる事が出来るか……それが判明したのだ。

 ん?

 何か変だ?

 何で、こんな奴なんだ?

 しかし……俺は俺を信じる。俺が作り出したアルゴリズムを信じる。


「お……お前が……遠藤瑠花隠るかいんだな……?」

「い……いや……ですから……」

 大型書店のイベントコーナーで椅子に座っていた、その女は上を指差した。

 そこには……「遠藤瑠花隠るかいん先生『直撃‼ グラビア・アイドル地獄拳‼』4巻・発売記念サイン会」と書かれた垂幕が有った。

「問答無用。死ね」

 俺は鞄から出刃包丁を取り出し……。


 約三十分、俺は留置所に居た。

 容疑は殺人未遂の現行犯だった。


「ああ、なるほど……じゃあ、ちょっと伺いますが……?」

「何でしょうか?」

「陰謀論が『現実の複雑な物事に、きっちり白黒付けたい』って欲求から生まれるモノだとするなら……」

「……はぁ……」

「先生が『陰謀論にハマる人とそうでない人はキッチリ白黒に分けられる』『陰謀論とそうでないモノはキッチリ白黒付けられる』と思いはった時点で、もう陰謀論にハマりかけてたんと違いますやろか?」

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