最終話 新田の冒険は、まだまだ続く!

新田が目を覚ました場所は教会でも小部屋でもなかった。辺り一面白色であり、何も無いまっさらな空間だ。この場所には見覚えがあるような……


『新田新太。まさか貴方が肉体ごと消滅し、本当の意味での『死』を迎えるとは思いませんでした。魔王とでも戦ったのですか?』


不意に声をかけられ、振り返った新田はその人物を見た瞬間に思い出した。


声の主、それはイムだった。ならばここは新田が異世界へと物理的に送り出される前にいた空間なのであろう。どうやらマオの技を喰らい、とうとう復活も出来ずに死んでしまったようだ。


「あ……はい、魔王と戦いましたね」


『何とまあ、あそこへ送り出してからそこまで日も経たぬと言うのに……それで、どうしますか?』


「どうする……とは?」


『どうせもう一度転生者としてあの世界へ戻るのですよね?最近の流行りなのか、死んだ者は皆そうするので分かりますよ。それで、次はどんな職業、能力が良いのかと聞いているのです』


イムはさも当たり前のようにそう言った。それを聞いた新田は少し考えた後、こう返した。


「あの、もういいです。もう行きたくないんですが」


これは本心だった。戻った所で敵側があのように猛者揃いではまたやられてしまうのがオチだ。


『これはまた、何と珍しい。ですが貴方は……おや、もう大丈夫なようですね。では天国に行かれますか?』


イムは少し驚いたような表情をした後、こう言った。天国……それも良い、と言うかそれが本来自分の行くべき場所だったのだ、多分。何を拒む必要があるだろうか。


「はい、それでお願いします」


『分かりました。それでは使いの者を呼んできますね、少し待っていて下さい』


そう言って去ってゆくイムの後ろ姿を見届けた後、新田はその場にごろりと寝転がった。


目覚めた直後だと言うのに何だか疲れが溜まっているような気がする。あの世界で戦いにばかり明け暮れていたからだろうか。


だが、そんな日々とも今日でおさらばだ。これからは安寧の地で安らかに過ごせるのだろう……これ程良い事は無いはずなのに、少し寂しいような気もする。


新田はそのような事を思い、自らの心に感傷がある理由をあれこれと考えていると、イムが戻って来た。


それを見た新田は驚愕した。何故なら……イムが連れて来た使いの者。それがあの時のトラックだったからだ。


「お待たせしました……ん?どこかで見た事があるような……?」


「いやいやいやいや!初対面です!早く!早く天国に行きましょう!イムさんありがとうございました!じゃあ行きましょう!」


トラックがそう言ったのを聞いて、新田は慌てて彼の言葉を遮った。


『ええ。それでは頼みましたよ』


「はいイム様、分かりました。ところでお客様、見受けた所お急ぎのご様子ですが……よろしければ速達に致しましょうか?」


「え、あハイ!それで、それでお願いします!」


幸いトラックはまだ思い出してはいないようだ。それに速達で送ってもらえるらしい。こうなればそれを活用し、彼と一秒でも早く別れなければならない。


「かしこまりました。それでは動かないで下さいね」


「え?」


そう言うとトラックは新田から少し離れた場所に移動し……


〝荷台ンパクト〟


「ぎゃああああぁああああ!」


あの時と同じように荷台を振り回す事によって、新田を天へと叩き飛ばした。






『して鈴木よ。地獄の監査はどうでしたか?』


「はっ、特にこれと言った問題はありませんでしたが……一面ボスの作業を肩代わりしていた時に罪人、もとい『転生者』の中にイキり散らかしている者を何名か発見致しました。苦情も数件寄せられております。イム様、この際もっと転生者に過酷な世界にしてみてはどうでしょうか?」


『ふむ……そうでしたか。なら、またマオに相談しなくてはいけませんね。ひとまず鈴木、ご苦労でしたね』


「滅相もありません。お心遣い感謝致します」


『ただし、作業を肩代わりすると言う名目で転生者に復讐するのはほどほどにしておきなさい』


「……かしこまりました」


以上はイムと、トラックの『鈴木』との会話である。



それはさておき、前世にてトラック運転手の人生を滅茶苦茶にした〝罪〟への償いを全うした新田は、無事に天国へと旅立ったのであった……




〜完〜

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Cough of the world おーるぼん @orbonbon

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