十七話 VS……魔王!?
「え……?」
魔王城の階段に横たわり最早風景の一つと化していた男性は、新田を前にして自らが魔王だと告白した。
「えいっ!」
理解の追いつかない新田を置き去りに、男性は突然椅子から飛び降りる。すると、みるみるうちに彼の姿が変わり始めた。
目にかからない程の長さである黒髪はきっちりと切り揃えられ、黒色に染められた瞳はくりくりとしていて可愛らしい。服はノルフェスと同じく黒一色であったが、こちらは学生服に似ていた。
小柄で細身な彼にはとても良く似合っている。まるで本物の中学生、どんなに贔屓目で見ても高校1年生のようであった……と言うか、こんな少年が本当に魔王なのだろうか?
「……え」
見た者を震え上がらせるようなオーラを放つ屈強な怪物、もしくは悪魔の如き大男。魔王と言えばそんな男だろうとばかり想像していた新田は拍子抜けしてしまった。
「初めまして!僕はつい最近襲名し、七代目魔王となったマオと申します!本日はよろしくお願いしますね!」
マオと名乗った少年は、ぽかんとしたままの新田にそう言い、満面の笑みを向けた。
「……キミが本当に魔王なんだとしたら、何でわざわざ敵である俺をここに?」
新田は当然浮かぶであろう疑問を魔王へと問う。救済措置……まではギリギリ分かるが、転生者に同行する役目を何故魔王自身がやらなければならないのかが全く理解出来ない。
「そう言う仕様なので……それに、どうせ戦うんですから僕が連れて来た方が早いですし」
「そ、そっか」
『仕様』だと強調した少年の返答に、新田はひとまず返事をした。今の説明で事情はなんとなく分かったが……今一つ解せないと思う自分もいた。
「じゃあ早速ですけど、戦います?」
「あ〜、うん」
「了解です!」
こうして視界はいつものように暗転し、新田は戦いの場(と言っても同じ場所なのだが)に進むため漆黒へと身を委ねる。
しかし最後の戦いとなるこの時を、驚きの連続のせいで戸惑いながら挑む事になるとは思ってもいなかった新田であった。
目の前にはやはりあの少年がいる。ターン制バトルが始まると言う事は彼は間違いなくボスであり実力者、そして話していた内容が事実であれば姿形はどうであれ彼こそが魔王なのだ。
第一、戦闘はもう始まってしまったのだ。新田は未だ状況を把握し切れていない事に戸惑う自分に喝を入れ、自らが戦いに集中するよう努めた。
そんな状態の新田であったが、精神は安定していた。その証拠に彼は今、落ち着いた様子でマオとの会話内容を思い出し、それを反芻している。
先程マオはつい最近襲名したばかりだと言っていた……しかも見た目から分かる通り彼はまだ若く、戦闘経験が浅いと思われる……
……そう、新田が心に平穏を感じているのは『もしかするとこの戦い、勝てるんじゃないか?』と愚かな事を考えているからなのだ。
「あの……動かないんですか?」
不意に目の前にいるマオが困り顔で新田に問いかけてきた。割に長い時間考え込んでいたのだろう。
確かに頭上を見ればそこには『新田のターン!』と表示されている。敵とは言え彼には申し訳ない事をしてしまった。早く行動し、彼に順番を回してやらねばならない。
「……って、俺が先行!?」
「そうですよ。でもなかなか動かないので心配しちゃいました」
驚いた、四天王は行動すらさせない工夫や作戦ばかりで一度も攻撃出来なかったと言うのに、まさかそれよりも強いはずの魔王が新田に攻撃を許すとは……
しかし、これはチャンスだ。転生者の攻撃力ならば一撃でマオを倒せるかもしれない。
少年に暴力を振るうと言うのは少し気が引けたが、相手は魔物だ。魔王なのだ。新田は胸の内でそう繰り返しつつ、ターン制バトルで初となる攻撃を全力で行った。
その攻撃はマオへと直撃し、『188』と言う数字が中空に表示された。
「いたた……そんな装備なのに強いんですね、びっくりしちゃいました。」
マオはよろめく事もせず、さも当たり前のように直立を続け、そう言った。
「嘘だろ……」
おかしい。自分はチート並の能力を持っているのではなかったのか?不安に覆われ、新田は再び戸惑いの表情を見せる。
「では、今度はこっちの番ですね。まずは小手調べです。炎技……ファイアーボール!」
マオはそう言い、掌から火球を放出した。
新田の身体は言う事を聞かなかった。回避するのは不可能らしい。
まあ落ち着け、一撃で倒せなかったとしても相手は魔王だ。まだ納得出来る。だから慌てずに攻撃を加え続けるのだ。そうすればいつか倒す事は出来るはず。新田の攻撃はマオの賞賛を受ける程の物だったのだから……
そう、自身にチート並の能力は間違いなく備わっているのだ。ならば攻撃力だけでなく防御力も人並外れたものであるはずだ。大丈夫、この攻撃は耐えられる。とにかく今は落ち着こう。
そう自分に言い聞かせながら、新田は平静を装い火球と、その先にいるマオを射抜くように見つめた。
その時、火球が少し大きくなった。ような気がした……いや、気のせいではなかった。
火球は新田に近付くにつれ大きさを増し、周囲はその熱気によって揺らいでいる。それはまるで、この世の終わりのような光景だった。
(これを、耐えられるのか?)
新田がそう考えている間にも火球は接近し、それがとうとう身体に触れたかと思うと……
「うわぁああああぁああ!」
その肉体は欠片すらも残さずに、消え去った。
……どうやら新田が弱かったのではなく、マオが強過ぎたようだ。
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