十六話 救済措置!?

目覚めた新田は自分が四天王の間の直前にある小部屋にて復活を遂げた事を知り、パニックに陥っていた。


これであの◇型石像の効果は判明したのだ。よりにもよって一番勝てる気のしない相手、ノルフェスのいる間へと続く小部屋と言う最悪の場所で。


そこで仕方なく新田は一度外へ出ようとしたのだが、扉は内開きになっていたらしく、更にこちら側には取っ手すら付けられていなかったので開ける事は出来なかった。


となれば後はノルフェスにもう一度倒され、教会に帰還すると言う手段しか残されていない。


しかし、一度石像を発光させてしまったので彼に倒されたとしても再びここに戻って来てしまう可能性がある。それに新田は先程ノルフェスに醜態を晒してしまった事を大変恥ずかしく思っており、会うにしてももう少し時間を置きたいのであった。


これはいわゆる、『詰んだ』と言う状況に近いだろう。皆さんもボスの手前にあるセーブポイントを使用する際は充分注意して欲しい。


「どうしよう……どうしたらいいんだろ……」


新田は頭を抱え、部屋中を歩き回る事しか出来ないでいた。


「ねえ」


すると、普段は抱き起こした時にしか喋らないはずの、いつもの男性が話しかけてきた。


「あ……な、なんですか?」


「キミ、四天王全員に負けちゃったの?」


「まあ、そうです……」


いつもとは違う男性の少し図々しいような口調に新田は戸惑う。最近は完全に無視していたのではっきりと言えるわけではないが、彼はこのような話し方はしていなかったはずだ。


「じゃあ、救済措置、使う?」


男性は間髪を入れずにそう言った。救済措置とは一体どんなものなのだろう?今の新田と同じような状態になってしまった者への救済、と言う意味で合っているのだろうか。


「そんなのがあるんですか?あるならまあ、使いたいですけど……」


何だか妙な胸騒ぎがするが、もしもこの八方塞がりな状況から本当に抜け出せるのであればこれ程有難い事は無い。新田は男性の申し出を受ける事にした。


「分かった。ついて来て」


そう言うと男性は倒れていたのが演技であったかのように素早く立ち上がり、階段脇の壁を手でまさぐり始めた。


数秒後、不意にがりがりと何かが動かされるような音が聞こえたかと思うと、男性の前にあった壁には穴が空いていた。それを見て驚く新田に男性は一度だけ目をくれ、穴の中に消える。


新田は少し逡巡した後、宙に舞う埃を手で払いながら男性の後に続いた。






両目を光に射抜かれた新田は強く瞳を閉じる。どうやら穴を抜けたようだ。


目が慣れるのを待ち、恐る恐る瞼を開けてみると……そこは四天王の間と似たような空間だった。唯一相違している部分があるとすれば、それは中央に置かれた豪勢な椅子くらいであろうか。


「ここって、どこなんですか?出口……ではなさそうですけど」


新田は今もなお歩みを進めている男性へと問いかける。


男性は中央まで進んでその椅子に腰掛けたかと思うと、ゆっくりと話し始めた。


「ここは魔王の間。本当は四天王を全て倒してから来る場所なんだけど、全員に挑戦して一人も倒せなかった人は僕が特別に通してるんだ。ボソボソ(まあ、四天王に勝てた人なんて誰もいないんだけどね)」


「え゛っ」


新田の判断は凶と出た。ここは出口ではなく、魔王城の本丸……最悪だ。救済措置とは戦闘意欲の旺盛な者へ向けた措置だったらしい。


こうなってしまっては仕方がない。さっさと魔王に殺してもらうとしよう。四天王があれ程強いのであれば、どうせ魔王になど手も足も出せまい。


そう思った新田は、きょろきょろと周囲を見回した……


魔王がいない。


何故だろう?トイレでも行っているのだろうか?いや、超大型の、それも猫用だったとは言えマガンの室内にはトイレがあったはず。四天王の間にあって魔王城の最も重要な場所に設置されていないワケがない。


「あの、それで魔王は……?」


新田が男性へと問いかけると、男性はくすくすと笑った後にこう言った。


「キミの前にいるよ」

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