十五話 VS毒王ノルフェス!

新田は……まーた魔王城にいた。負けず嫌いな性格なのであろうが、ここまでくると狂気を感じてしまう。


彼は今、四つの扉の中では最後となる『毒』と書かれたものを開いてその内部へと入り込んだ所だ。


実は先程までどの扉にしようかと新田は悩んでいたのだが……テロップス、シャズ・レクドには勝てる気がせず、マガンにはすっかりトラウマを植え付けられてしまったので彼の間に続く扉の前に立つ事すら出来なかった。今日新田がこの扉を開けるのは必然だったのかもしれない。


そのまま男性をスルーして四天王の元へ進もうとしていた新田だったが、今日は珍しく彼の前で足を止めた。


しかし、その視線は男性ではなく……◇型の石像に向けられていた。


そして新田は吸い寄せられるかのように、石像へと近付いていった。


これはどう言う風の吹き回しだろう?そう思うかもしれないが、彼の行動には理由があるのだ。


新田は教会の常連と化した事でアルマと話す機会が増え、最近少しずつだが彼と友好的な関係を築き始めている。


そしてその時に聞いたのだ、『教会は転生者の冒険を記録する役目も担っている』のだと。


それは某有名RPGでも全く同じ仕様なのですぐに理解出来た。しかし、それを聞いてしまった今、考えずにはいられないだろう。


『教会がセーブポイントの役割を既に果たしているのならば、この石像は一体何のためにあるのだ?』と。


左の♡型の石像はいかにも体力が回復しそうなのでそこまで気にはならないが、右側のこれは……何の目的で配置されたのだ?起動させるとどのような効果があるのだろうか?


そう言った好奇心が彼を石像の前へと進ませたのだ。


新田は恐る恐る石像へと手を触れた。すると……




……全く反応は無かった。


もしかするとこれはただの飾りなのだろうか?それとも何か、起動のさせ方があるのだろうか?


その後暫くの間、石像に手を這わせていたが結局何も起こる事はなく、少々イラッとした彼はそれに蹴りを入れ、階段を登った。


数秒後、石像はその身を発光させる事により新田への反応を示した。しかし、彼の姿はもうそこには無かった。






毒の間で新田を待ち受けていたのは、魔物と呼ぶには美し過ぎる程端正な顔立ちをした男性だった。


男性の髪は紫色に染まっていて、目は赤色をしている。細身だが筋肉は有しているであろう肉体を覆う服はトレンチコートとスラックスのようなものを着用し、配色は黒で統一されていた。


冷酷そうな男だ。だがそれ以上に威厳に満ち溢れており、恐れと言うよりは〝畏れ〟を感じる。例え彼が魔王だったとしても全く違和感を覚える事はないはずだ。


「よく来た、転生者よ。俺の名はノルフェス。『毒王』ノルフェスだ!」


男は新田に笑いかけながら、自らをノルフェスと名乗った。


「ノルフェスか……俺は新田だ」


新田はここにきて初めて自分が自己紹介をした事に気付き、そうしなければいけないような重々しい雰囲気を醸し出すノルフェスに脅威までもを感じたが、内心ではそれを喜んでいる自分がいた。


無根拠ではある。しかし、彼ならば正々堂々と戦ってくれそうな気がしたからだ。


実力者である事は間違いなく、正面から戦ったとしても苦戦は必至……最悪普通に負けてしまうかもしれない。だが理不尽に殺され続けている新田には、『普通に戦えて、普通に負ける』のならば寧ろその方が良いとすら思えたのだ。


「アラタ……他の奴らから存在は話に聞いていたが、それが君の名前か。」


そう言うと、ノルフェスはこちらへと歩みを進める。他の奴らと言うのは他三名の四天王の事だろう。


「大変だったろう?あいつらは狡賢い戦法をとるからな。でも許してやってくれ、彼等は彼等なりにああして自らの居場所を、愛する者達を守っているんだ」


新田はノルフェスの言葉を聞き、そこまでの考えに至らなかった自分を恥じる。彼の言う通りだ。魔物にも生活があるのだ。


そんな彼等を簡単に、それも大量に屠る転生者などあそこまでの対策を講じられるのは至極当然だとも言えるだろう。彼らにとっての敵は我々なのだ。


「確かに、何かを守るためなら仕方ない……ですよね」


新田はそう返した。いつの間にか彼に対して敬語になっていたが、それを直す事はしなかった。


「魔物の立場で考え、それを理解してくれるとは……君らはこの世界の道理を知らぬが故にこちらにとって脅威となる事も多いが、それによって偏った見解もしないのだな。敵として会いたくはなかったよ」


ノルフェスは新田の発言に少し驚いたような様子でそう話した。


「でも、だからと言って僕がそちら側に付くのは……」


「ああ、この世界の道理に反している。だから君と俺が今から戦う事に変わりはない……あまり話していると情が移ってしまいそうだ。そろそろ始めねばな」


ノルフェスがそう言い終えると、両者の間に空気で出来た透明な壁……が現れたような気がした。何とも表現し難いが、二人が戦う覚悟を決めたのだけは間違いない。


「フフ、しかしその装備で我らに挑むとは君もなかなかだな……失礼。良ければそれ、少し見せてはくれないか?」


※構えた新田を見て、ノルフェスは気が抜けてしまったようだ。どうやらこの武具が彼をそうさせたらしい。


※(ターン制バトルが始まる時、構え以外の姿勢であろうとどの道いつもの状態にさせられるのは彼が最も理解しているのだが、その時に生じる肉体の違和感が新田は嫌いなのだ。と言うわけで視界が暗転する前から、彼は既に戦闘態勢を取っているのである)


「あ……アハハ、良いですよ」


そう言って新田が木材を手渡すと、ノルフェスはそれをまじまじと眺め始めた。


こうなると分かっていればどうにかしてでももう少しまともな装備を見繕って来たものを……新田は今更ながらにただの木材で身を固めていた自分が恥ずかしくなった。


「ふむ……魔力の反応も無ければ、特段強力な素材で出来ているわけでもないか。ありがとう、すまなかったな」


ノルフェスは満足したらしく、新田に木材を返した。


すると突然、新田の身体に激痛が走った。


「うっ……!うわぁあああぁあああ!」


「はっ……しまった!すまないアラタ!今解毒薬を持ってきてやるからな!アラタ……?アラタ!?」



……最後の発言から推測すると、毒王ノルフェスは『毒を用いて戦う』のではなく、『身の内に転生者すらも昏倒させてしまう程の猛毒を蓄えている』魔物だったのだろう。それも彼が手を置いた場所等に少し触っただけで生命の危険があるような猛毒をだ。


まあ、気付いた所でもう遅いのだが。

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