第10話. レッスン1

 巨大生物って奴ぁよう、必ず限界がある。

 

 生物の体重ってぇのは体積に比例し、その筋肉は断面積に比例する。

 単純に考えりゃ、身長が2倍なら、体重は8倍、力は4倍ってなるんだ。


 だから何だって?


 つまりよぉ、、体重の増加が力の増加を追い抜いちまう。具体的にゃ、って事なんだ。

 

 だから生物の体の大きさには限界がある……筈だぜ?


 ところがここの生き物ときたら、あのアリといいサシガメの化け物といい、体がデカ過ぎる。みんなが知ってる小っぽけなアリが単純に巨大化しただけなら、ソイツは自重を足で支えられ無ぇ筈だ。

 

 呼吸だって無理がある。


 昆虫ってぇのは気門って穴から空気を取り入れる。

 “吸う”んじゃ無ぇ、ただ開くだけなんだ。

 小っちぇえから空気の拡散だけで事足りちまう。

 だがあの大きさともなれば、“吸い込む”仕組みが必要だぜ。


 オイラ達の常識じゃあ通じない何か、それがここ第Ⅱ層の生き物だ。


 これからる『九頭竜』とやらもきっと、

 及びもし無ぇ能力や特性を持っているに違ぇ無ぇ。


 アイツは、寄り道するなとの匂いを残したが、オイラにゃ回り道こそ得策に思えるぜ。


 ここの“神秘”を少しでも解き明かす為にな。



「なぁラディ。オマエの“超再生”だって十分常識外れなんだが、この第Ⅱ層の環境とか関係あんのか? あの回復速度はチート級だよ?」


「判ら無ぇ。何せこの能力自体使う機会がまだ少無ぇんだ。再生能力の高さを自覚したのは一か八か、キンエニガエルの光を喰らった時が初めてだったしな」


「おまっ! あの光を浴びたって~?! 無茶すんじゃねーよ! 限界試してみたいってーならアタシが幾らでも協力してやるから!」


「……いや、遠慮しとく。完治するっつっても痛みはあるわけだしな。毎度我慢は堪えるぜ」


「ソレなら、良い考えある。この蜜、舐める。痛み、忘れる」


「ファッ?! そいつぁ、化け物サシガメの腹から分泌されてた蜜じゃねーか! 痛みだけで済むんだろーな?」


「多分、“自分”忘れる」

「ファァッッ!?」


「ハハ、けどコイツの“超再生”で効果は帳消しされちまうかもしれねーけどな! 試してみよっか?」


「冗談じゃねーぞ! 止めてくれ!!」


 そん時、みんな気付いた様だぜ。

 巨大な影がオイラ達を囲んでいる事に。


 臭覚も半端無ぇな、コイツら。


「おぉー凄い効き目だねー。そんじゃま一つ、レッスン1だぜラディ! アタシとの模擬戦の成果を見せてみな!」

 

 ライリーは戦斧を手にし、目つきが変わった。

 エルも震える手を抑えるようにし、金色に輝く手を影に向け構えている。

 あの少女は相変わらず笑顔で影の主たちには興味無さそうだ。


「あ、そだ。あのアリの腹の中、クリームある。それ塗る、襲われなくなるね」

 

 成る程、そういう絡繰りか。知能までは強化されて無ぇみてぇだな。

 だが今のオイラにゃ、ハンデ無しが丁度いい。

 そこの“ひよっこエル”だって覚悟決めてんだ、負けられ無ぇ!


「成果の出無ぇ努力は、努力じゃ無ぇからな」

「手厳しいねー。ま、成果が無くてもそれが判れば収穫だ!」

「さ、流石教官。緊張が解れました!」


「キン、オマエもこれがレッスン1だ。常識を捨てろ! そして、てめぇの命はてめぇで守るんだ!」


「ひ、ひえぇぇっ!」


 常識に囚われると、命取りになる。

 どうやらそれが、この第Ⅱ層で生き抜く鉄則みたいだぜ。


 さあて……オイラもこの戦いで一皮剥けてみせるぜ!



(続く)

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半獣人物語 赤髪のLaëtitia @laetitiacramoisi

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