第10話. レッスン1
巨大生物って奴ぁよう、必ず限界がある。
生物の体重ってぇのは体積に比例し、その筋肉は断面積に比例する。
単純に考えりゃ、身長が2倍なら、体重は8倍、力は4倍ってなるんだ。
だから何だって?
つまりよぉ、体が大きくなればなるほど、体重の増加が力の増加を追い抜いちまう。具体的にゃ、自らの力で立ち上がれなくなるって事なんだ。
だから生物の体の大きさには限界がある……筈だぜ?
ところがここの生き物ときたら、あのアリといいサシガメの化け物といい、体がデカ過ぎる。みんなが知ってる小っぽけなアリが単純に巨大化しただけなら、ソイツは自重を足で支えられ無ぇ筈だ。
呼吸だって無理がある。
昆虫ってぇのは気門って穴から空気を取り入れる。
“吸う”んじゃ無ぇ、ただ開くだけなんだ。
小っちぇえから空気の拡散だけで事足りちまう。
だがあの大きさともなれば、“吸い込む”仕組みが必要だぜ。
オイラ達の常識じゃあ通じない何か、それがここ第Ⅱ層の生き物だ。
これから
及びもし無ぇ能力や特性を持っているに違ぇ無ぇ。
アイツは、寄り道するなと標の匂いを残したが、オイラにゃ回り道こそ得策に思えるぜ。
ここの“神秘”を少しでも解き明かす為にな。
◇
「なぁラディ。オマエの“超再生”だって十分常識外れなんだが、この第Ⅱ層の環境とか関係あんのか? あの回復速度はチート級だよ?」
「判ら無ぇ。何せこの能力自体使う機会がまだ少無ぇんだ。再生能力の高さを自覚したのは一か八か、キンエニガエルの光を喰らった時が初めてだったしな」
「おまっ! あの光を浴びたって~?! 無茶すんじゃねーよ! 限界試してみたいってーならアタシが幾らでも協力してやるから!」
「……いや、遠慮しとく。完治するっつっても痛みはあるわけだしな。毎度我慢は堪えるぜ」
「ソレなら、良い考えある。この蜜、舐める。痛み、忘れる」
「ファッ?! そいつぁ、化け物サシガメの腹から分泌されてた蜜じゃねーか! 痛みだけで済むんだろーな?」
「多分、“自分”忘れる」
「ファァッッ!?」
「ハハ、けどコイツの“超再生”で効果は帳消しされちまうかもしれねーけどな! 試してみよっか?」
「冗談じゃねーぞ! 止めてくれ!!」
そん時、みんな気付いた様だぜ。
巨大な影がオイラ達を囲んでいる事に。
臭覚も半端無ぇな、コイツら。
「おぉー凄い効き目だねー。そんじゃま一つ、レッスン1だぜラディ! アタシとの模擬戦の成果を見せてみな!」
ライリーは戦斧を手にし、目つきが変わった。
エルも震える手を抑えるようにし、金色に輝く手を影に向け構えている。
あの少女は相変わらず笑顔で影の主たちには興味無さそうだ。
「あ、そだ。あのアリの腹の中、クリームある。それ塗る、襲われなくなるね」
成る程、そういう絡繰りか。知能までは強化されて無ぇみてぇだな。
だが今のオイラにゃ、ハンデ無しが丁度いい。
そこの“ひよっこエル”だって覚悟決めてんだ、負けられ無ぇ!
「成果の出無ぇ努力は、努力じゃ無ぇからな」
「手厳しいねー。ま、成果が無くてもそれが判れば収穫だ!」
「さ、流石教官。緊張が解れました!」
「キン、オマエもこれがレッスン1だ。常識を捨てろ! そして、てめぇの命はてめぇで守るんだ!」
「ひ、ひえぇぇっ!」
常識に囚われると、命取りになる。
どうやらそれが、この第Ⅱ層で生き抜く鉄則みたいだぜ。
さあて……オイラもこの戦いで一皮剥けてみせるぜ!
(続く)
半獣人物語 赤髪のLaëtitia @laetitiacramoisi
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