第9話. 実戦模擬訓練

 ポテンシャル高い半獣人には、皆、共通点がある。


 “奢り”と“自惚れ”――命のやり取りを常に見る生物界で、その眼鏡を外しちまった人間の悪癖。


 つまり訓練程度で納得し、実戦を舐めてるって点だ。


 エルだけじゃない。ラディ、オマエもその一人。

 何せ最初の探索がC斑レベルじゃ、戦闘はほぼ未経験だろうしな。


 まぁ何はともあれ……まずは一発、か。


 アタシは腰を屈め脇を締め、アームブロックで完璧な防御姿勢を取った。


 ガードを外して打って来れば、まず及第点だが……。


「然と喰らいやがれっ、ライリー!」

「フゥ……」


 ドゴォォォン


「何っ!手応えが無ぇ。アイツまさか……」


 はい失格。

 でも、まぁ絡繰りには気付いたみてーだな。


 アタシはラディ渾身の一撃を喰らいながら、受けた姿勢で踏み留まった。 

 だいぶ後ろまでぶっ飛んだが、ま、こんなもんだろ。


 あれはアタシが秘境で訓練してた時の事だ。


 アタシの膂力を以ってすれば、鈍らの斧だって大抵はぶった斬れた。

 けど、意外と苦労したものもある。


 風に揺れるヘビヤナギの枝、落ちてくる木の葉、それに水の中のゴムクラゲ。

 共通してるのは、刃が当たった瞬間の反動が少ない事。

 つまり力を受け流している。


 アタシはただ打撃インパクトの瞬間、“脱力”しただけ。

 ま、溜息ついたのも確かだが。


「ラディ、アンタの一撃が凄いことは認める。とてもミーアラビットの“血”で出せる力じゃあない。けれど分かったろ? アンタの攻撃に必要なのは何か」


「……」


「もし今の攻撃、“拳”じゃあなく、剣や斧だったなら、アタシの腕はぶった斬れてたろうな」


「だったら……だったらこの“拳”で壊せるところを狙えば良いって訳か」

「正解」


 コイツの凄い所は、学習能力の高さだろう。

 それはあのDDの高速移動を、で修得しちまう事からも判る。

 だからこそ、り甲斐がある!


 アタシはダッシュでラディに近づき、ボクシングの構えを取った。

 お手並み拝見と見舞ったジャブは、軽くいなされた。

 

 やっぱりポテンシャルは高い。

 じゃあ、こいつはどうかな?


 脱力させた腕を、鞭の様に撓らせて放つジャブ――“フリッカー”だ。

 しかもアタシの腕は

 そのパンチの軌道は人間の可動域を遥かに超える。

 

「くっ! なんだ?! このパンチは!」


 軌道が読めないから焦る、故に距離を取る。

 教科書通りだな。


 アタシはその隙を逃さない。

 間合いを取らさず渾身のストレート!……と見せかけて、


ドゴォォッ!!


「かはぁぁ……」


 アタシの放った前蹴りは、狙い通りラディの鳩尾をジャストミートした。

 コイツはアタシがボクシングで攻撃すると勝手に錯覚した、だからこうなる。

 この手応えなら、暫く動く事はおろか、呼吸すら困難だろう。

 

「少し休憩したら、アドバイス……って何っ!?」

「うらぁあっ!」


 予想に反して、ラディは反撃のミドルキックを放っていた。

 だが、アタシは反射的に動いちまった。


グシャ……


 マズイ!!


 アタシはラディの軸足の膝を、最短にして最速に、踵でピンポイントに蹴り込んでいた。訓練なのに壊しちまった!


「ラディ済まないっ! 訓練は止めだっ早く治療しないと……」

「まだまだぁっっ!」

 

 アタシには、目の前の状況が理解出来なかった。

 ラディの奴、で飛び膝蹴りをかましてきたんだ。

 

 不測の事態にも、即、対応出来る様心掛けていたつもりが、今回はアタシがラディに教えられたみたいだ。


ドガッッ!!


 ラディの膝が突き刺さる。


「グゥッ……一本…有りだ。認めるよ。だが、その膝は?」

「あぁこれなら平気だ。即効で治したかんな」

「はぁ?」

「オイラの能力さ、“超再生”ってやつだ」

 


(続く)

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