第8話. 記憶と自己
アタシは一体、“誰”なんだ?
アタシは<ライリー=ライドバルド>。
5人姉妹弟の長女。
家はとても貧しかったけど、両親はとても優しく家庭は幸せに包まれていた。
……オレの名は<レヴァイ>。
“記憶の仕組み”なんて判りゃしないし、考えた事も無い。
けど“アタシの記憶”は、アタシだけのものだろう?
“誰かの記憶”がいつの間にかアタシの頭の中にある、だなんてあり得ない。
……あぁ飢えた。
……もっと強い奴は居ないか。
けどアタシには、その誰かの記憶ってやつがある。
◇
「なぁライリー。オメェいつの間に“蛇語”なんて学んだんだ?」
「はぁ? そんなもんあるなんて知らなかったし、気付いたら使えてたんだ。獣化で得た能力じゃない?」
「うぅむ、言語は先天的に使えるもんじゃ無ぇからな。学習しなきゃ覚え無ぇぜ」
「わたし、マスターから少しだけ教わった。だからあなたたち、言葉、判る」
「そうだ。しかも獣化は体の作りに作用する。記憶が移る事も無ぇ」
「……」
アタシは横にゴロンとなって目を瞑った。
じゃああの記憶は一体……。
アタシの中に居る、オマエは誰だ?
記憶の先を辿ろうとした。けど、出来なかった。
怖かったんだ。
「そうだ、ライリー。ちいと訓練の相手してくんねーか? 今度の相手は
「……」
「どうした? 具合悪いのか?」
「いや……今は気が乗らない」
「なんだって!? この間はオメェの“生き甲斐”だなんて言ってたじゃ無ぇかよ!」
「なぁラディ……アタシがアタシであるなんて当たり前だよな?」
「何?」
この手も、顔も、声も、
性格だって、心だって、みーんなひっくるめてアタシなんだ。
だからこの“生き甲斐”だって……きっとアタシのもの。
「実はさ、アタシ人間の頃は病気で、走る事すら控えてた。手術を受けてすっかり元気になって、それどころか力が有り余ってさー。だから今のアタシはその反動でこうなったって思ってる」
「まるでそうだった様には見え無ぇな。因みに何の病気だ?」
「確か、心臓だったかな」
「フーム……まさかとは思うけどよぉ、“記憶転移”って聞いた事あるか?」
するとラディは信じられない話をした。
臓器移植において、ドナーの記憶が患者に移る事もあるらしい。
「オメェは心臓に毛の生えた様な奴だが、本当に生えてるのかもしれ無ぇな!」
「アタシのどこが恥知らずなんだよっ!」
「キンタマジャクシとかキンタマガエルって言ってたのはどの口だ?」
「てんめぇ、喧嘩売ってんな? 上等だ、表出なっ! お望み通り相手してやんぜ」
アタシはテントの外に出た。
荷物になるのにわざわざラディが持ってきたんだ。
「ふんっ!アタシ達ならテントなんか無くても雨露凌げりゃ十分なのにさ!」
ラディも出て来て言った。
「だ~から、オメェはデリカシーが無ぇってんだ。新しく仲間も出来たんだ。丁度良いじゃ無ぇか」
「へ~え、アタシがエルでアンタはあの娘とかい? 随分用意周到だなー!このエロウサギ!」
ビキビキ!
だいぶ、おつむに来たみたいだね。
面白れぇ!
「言葉が過ぎるぜ、ライリーよぉ」
「本気で来いよ。じゃねぇとシラケて寝ちまうぞ?」
「上等っ!!」
大地を足で蹴り上げて、
彼我の間合いを瞬時に詰めた影体が、
アタシの眼前にぶっ飛んできた!
良~い感じだ。
ちいと試してやるか。
(続く)
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