第8話. 記憶と自己

 アタシは一体、“誰”なんだ?


 アタシは<ライリー=ライドバルド>。

 5人姉妹弟の長女。

 家はとても貧しかったけど、両親はとても優しく家庭は幸せに包まれていた。


 ……オレの名は<レヴァイ>。


 “記憶の仕組み”なんて判りゃしないし、考えた事も無い。

 けど“アタシの記憶”は、のものだろう?


 “誰かの記憶”がいつの間にかアタシの頭の中にある、だなんてあり得ない。


 ……あぁ飢えた。

 ……もっと強い奴は居ないか。


 けどアタシには、そのってやつがある。



「なぁライリー。オメェいつの間に“蛇語”なんて学んだんだ?」


「はぁ? そんなもんあるなんて知らなかったし、気付いたら使えてたんだ。獣化で得た能力じゃない?」


「うぅむ、言語は先天的に使えるもんじゃ無ぇからな。学習しなきゃ覚え無ぇぜ」

「わたし、マスターから少しだけ教わった。だからあなたたち、言葉、判る」

「そうだ。しかも獣化は体の作りに作用する。記憶が移る事も無ぇ」

「……」


 アタシは横にゴロンとなって目を瞑った。

 じゃああの記憶は一体……。

 

 アタシの中に居る、オマエは誰だ?


 記憶の先を辿ろうとした。けど、出来なかった。

 怖かったんだ。


「そうだ、ライリー。ちいと訓練の相手してくんねーか? 今度の相手はすこぶる手強そうだからな」


「……」

「どうした? 具合悪いのか?」

「いや……今は気が乗らない」

「なんだって!? この間はオメェの“生き甲斐”だなんて言ってたじゃ無ぇかよ!」

「なぁラディ……アタシがアタシであるなんて当たり前だよな?」

「何?」

 

 この手も、顔も、声も、

 性格だって、心だって、みーんなひっくるめてなんだ。


 だからこの“生き甲斐”だって……きっとアタシのもの。


「実はさ、アタシ人間の頃は病気で、走る事すら控えてた。手術を受けてすっかり元気になって、それどころか力が有り余ってさー。だから今のアタシはその反動でこうなったって思ってる」


「まるでそうだった様には見え無ぇな。因みに何の病気だ?」

「確か、心臓だったかな」

「フーム……まさかとは思うけどよぉ、“記憶転移”って聞いた事あるか?」


 するとラディは信じられない話をした。

 臓器移植において、ドナーの記憶が患者に移る事もあるらしい。


「オメェは心臓に毛の生えた様な奴だが、本当に生えてるのかもしれ無ぇな!」

「アタシのどこが恥知らずなんだよっ!」

ジャクシとかガエルって言ってたのはどの口だ?」

「てんめぇ、喧嘩売ってんな? 上等だ、表出なっ! お望み通り相手してやんぜ」


 アタシはテントの外に出た。

 荷物になるのにわざわざラディが持ってきたんだ。


「ふんっ!アタシ達ならテントなんか無くても雨露凌げりゃ十分なのにさ!」


 ラディも出て来て言った。


「だ~から、オメェはデリカシーが無ぇってんだ。新しく仲間も出来たんだ。丁度良いじゃ無ぇか」


「へ~え、アタシがエルでアンタはあの娘とかい? 随分用意周到だなー!このエロウサギ!」


 ビキビキ!


 だいぶ、おつむに来たみたいだね。

 面白れぇ!


「言葉が過ぎるぜ、ライリーよぉ」

「本気で来いよ。じゃねぇとシラケて寝ちまうぞ?」

「上等っ!!」


 大地を足で蹴り上げて、

 彼我の間合いを瞬時に詰めた影体が、

 アタシの眼前にぶっ飛んできた!


 良~い感じだ。

 ちいと試してやるか。



(続く)

 



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