たゆたう蝶

佐藤菜のは

たゆたう蝶

あの子に贈るため

蝶を捕らえはねを千切る


雨の日にしか逢えない

真っ赤な傘をさした女の子


いつも雨空だから

蝶を見たことがないって


あの子に見せてあげよう

蝶の翅をいっぱい


小匣にぎっしり詰めた

色とりどりの死布かけぎぬ


あの子は傘もスカートも赤い

そして流れる血も


どうしていつも脚を怪我しているの?

――これは怪我じゃないの


雫のむこうで少女が微笑んだ

どろりと糸が一筋こぼれ落ちる


あの子の脚を伝う深い紅は

雨に溶けて地を這う河となる


――ちょうちょはいいね

――だって飽いたら次の花を見つければいいもの


そう言って少女は俯き

爪先で千切れた蝶を踏みつけた









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たゆたう蝶 佐藤菜のは @nanoha_

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