歳をほぼ取らない状態で長期間昏睡していた男性の、その目覚めの直後の物語。
どこか思考実験的な読み味の作品で、とにかく読み応えがありました。
長期の昏睡などにより、精神的成長や人生経験が何年も前の状態で止まったまま、というのは現実にも起こりうると思いますが、もしそれが肉体にも同様に起こったら? というお話。
歳を取らない、老化しない、と捉えたなら確かに奇跡的とも言える現象。
しかし現実的に考えたらあれやこれやと困ったことが山積みという、その辺をかなり堅実に詰めているところが魅力的。
本作においては「偶然生じただけの原因不明の症状」であるものの、例えば(拙い例ですけど)コールドスリープ的なものなどを想像したなら、少し先の未来には普通に生じている出来事かもしれない、というのも楽しいところです。
つまり、ある種のSF的な読み味の魅力があって、でもその上で「作品を通じて描かれていること」そのものは、どこまでも登場人物個人のドラマである、という点がもう本当に好き。
舞台装置や状況の生み出す面白み以上に、人物の行動や考えがしっかり真ん中に座ってくれるお話です。
ある種の「もしも」を描いた物語として、とても濃厚かつ骨太な読み応えをくれる作品でした。