第63話
「――うっ……?」
ぼんやりとした意識と視界の中、誰かの顔が複数見える。これは、夢か……?
「「「じー……」」」
「ちょっ……!?」
まもなく、シフォン、マジェリア、平野迅華の三人が興味深そうに俺の顔を間近で見ているのがわかった。
【異次元ボックス】内で自分はいつの間にか眠っていたようだが、まさかみんなに寝顔を覗き込まれていたとは。照れ臭いとかいうレベルじゃないって。
「こんっ♪ おはようです、トール様。寝顔もとっても素敵でしたよ~」
「旦那様の寝顔、超渋かったぁ~」
「ふふっ……。浦間透の寝顔、この目にしっかり焼き付けてやったんだからねっ!」
「…………」
俺は苦みの強い笑みを浮かべるしかなかった。色々と突っ込みどころが満載なわけだが、平野の発言は特に意味不明だ。そういや、レインだけいないと思ったら俺の隣でお休み中だった。二人で一緒に遅くまで頑張ったからなあ。
スマホを取り出して現在の時刻を確認すると、午前9時を回ったところなのがわかる。なるほど、昨晩遅くまで夜の運動会を開催したこともあって、いつもより深めに眠ってたみたいだな……。
「……そうだ。俺が寝てる間、時空の番人の声は?」
俺の質問に対し、みんなが首を横に振ってみせる。まああれが聞こえてきたらさすがに目が覚めるか。それくらい直接脳内に響く感じだからな。
「あ、トール様。レインから昨晩のことは聞きましたよ~」
「うんうん。夜の運動会について聞いたよぉ。わたしも参加したかったあ~」
「それ、あたしも聞いた! そのふざけた男をこの手で叩きのめしてやりたかったわ。起こしてくれたらよかったのに……」
「そうか、レインから聞いたんだな。まあそのときはみんなぐっすり寝てたんだからしょうがない」
「「「うー……」」」
鬼畜な後輩の処刑を見られなかったってことで、みんな凄く残念そうだ。すっかり、元殺し屋の俺の従魔っぽくなってるな……。
って、そういやトンカツとかいう名前のオークを倒したわけだが、レベルはどうなってるんだろうと思って調べることに。すると、レベルが21から2も上がって23になっていた。
レベルは確認してなかったが、あの雑魚オークがバルーンスライムより強いとは到底思えないし、やはり経験値を操作されている可能性が高そうだ。となると、操作している側の想定外の行動を取ったほうがレベルは上がりそうだ。例えば誰かの従魔を倒すとか、自分が入れないはずのマップで狩りをするとか。
モンスターの経験値をなくす、または黒騎士を差し向ける等、いずれはなんらかの対応をされてしまいそうだからリスクはあるものの、黙って従うよりはずっといいし、レインが起きたら遅めの朝食を取ったのち、早速後者の方法を試してみるとしようか。
イニシャル連中にこだわらず、誰かがマップに入ったであろうタイミングですかさずレインに『空間穿孔』を使用してもらい、お邪魔すればいいんだ。もちろん時空の番人に目をつけられないよう、ひっそりと狩りをすれば問題ないだろう。
「みんな、とりあえず飯でも食いに行こうか」
「「「賛成っ!」」」
自分たちが食堂へ着く頃には、食べ物の匂いにつられてレインも目を覚ますだろう。
そういうわけで、俺はシフォンらとともに【異次元ボックス】を出て歩き始める。それにしても、オリジナルの浦間をいじめるようにとイニシャル連中に指示を出していた小塚が忽然といなくなったみたいだが、一体どこへ行ったのやら。
「はっ……」
俺はそこでふと、トイレの個室で無惨に殺害されていたあの男子生徒のことを思い出したわけだが、もしかしてやつがその失踪した小塚じゃ? まさか……。
「ちょっとトイレ」
「「「はーい」」」
俺はもしやと思い、例のトイレに駆け込むとともに個室を【覗き】で確認したところ、死体は既になくなっていた。誰かに片付けられたあとだったか……。
「…………」
なんとも不気味な臭いが俺の鼻腔を刺激する。
この先、何が起きるかなんてまったくわからないが、現時点でもはっきりしていることが一つだけある。それは何かっていうと、俺たちの真の戦いはまさにこれから始まる……すなわち、ますます本格化していくってことだ……。
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※後書
ここまでこの作品を評価してくださった方々へ。本当にありがとうございます。これにて第一部完として連載は一旦終了となります。
ほんの僅かでもこの作品が面白かった、あるいはお話の続きを読んでみたいと思った方は★★★を押して頂けるとありがたいです。反響が大きければ再開する可能性はあるかもしれません。
異次元に閉じ込められた学校にて、スマホで得たスキル【飛躍】が凄すぎた 名無し @nanasi774
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