第62話


「おい、的場。お前まさか、友達だからって小塚ってやつを庇ってるんじゃないだろうな?」


「そ、それは違うっす! せ、先輩ぃ、おいら本当に知らねーんすからぁ……。嘘だと思うんなら、小塚がいた2-Bの教室を中心に探し回ればいいっすぅ……」


「…………」


 そうだな。こういういかにもな小物は、自分の命のためなら友達なんて平気で売り渡すだろうし、おそらく本当に知らないんだろう。


 それにしても、まさか小塚が行方不明になるだなんてな……。


 これは想定外の事態になってしまった。こんなことになるなら、こっちから接触するべく早めに動くべきだったんだろうか。ただ、俺が小塚に近付いた時点で気取られてなんらかの策を取られた可能性もあるが……。


「……あ、そ、そういやあいつ、最近様子が変だったっす……」


「様子が変だった……?」


「そ、そうっす。学校が異次元に閉じ込められてから、なんか異様に怯えてるっていうか、常に周囲を警戒してるみたいに周りをキョロキョロしてることが多くなって……」


「……それについて、小塚は何か言ってたのか?」


「い、いや、なんも言ってくれなくて。てか、あいつは黒竜団っていうヤベー不良グループの手先だってのは知ってたから、恐ろしくてそれ以上は詮索し辛かったっす……」


「…………」


 小塚が何故そこまで怯えていたのか、それはわからずじまいってことか。現時点でわかっているのは、学校が異次元に閉じ込められてからやつの様子がおかしくなったということ。


 まさか、自分が紹介したイニシャル連中の死体でも見つけたか? いや、違うな。もしそうならこの的場ってやつにも注意を呼び掛けたはずだし、こいつのオリジナルの浦間に対する舐めっぷりを見ても、俺がやったことだと結びつけるにはかなりの時間を要するだろう。


 ってことは、やはり黒竜団の身内から口封じのために消されたんだろうか? 非常に気になる話だったが、これ以上考えてもわかりそうにないし、そろそろ拷問は終わりにして始末してやるか。


「よくわかった。もうお前は用済みだ」


「へ……? よ、用済みって、も、も、もしかして、お、おいらを殺す気っすか……?」


「当たり前だ。お前が俺をしっかり鍛えてくれた結果こうなったんだから誇りに思えよ」


「……そ、そんなぁ……。い、いくらなんでも、ただのいじめられっ子から変わりすぎっすよぉ……」


「それもそうだな。それなら猶予をやろう」


「へ……?」


「俺が今から念動弓ってのを構えるから、その間に逃げ切れたら見逃し――」


「――あひいいいいいぃぃっ……!」


「…………」


 俺が喋り終わるのを待たずして走り出す臆病な後輩。


「ご主人様、例のスキルで弓矢に色をつけるべきかと」


「お、レイン。そりゃいいアイディアだな。見世物になるし、それだけ恐怖感も増す」


 レインの提案もあり、俺は【改竄】スキルで目立つように念矢を青白くしてから、弱虫後輩の背中へ向けて放ってみせた。


「ひっ……!? ひぎゃあああぁぁぁっ!」


 振り返って目を見開いた的場が、何度も転びながらも走っていく様はなんとも滑稽で愉快な光景だった。あいつのせいで追い詰められた生徒は、オリジナルの浦間も含めて何人もいるみたいだし、いじめられっ子たちの怨霊のようにも見えて恐怖感はさらに増すだろうさ。


 当然、俺は念矢をすぐ命中させずに遊ばせつつ、じっくりと甚振るが如く獲物を追いかけてやった。


「……た、たしゅけてええええぇぇっ……!」


 お、的場が校舎のほうに逃げていった。あの辺には出入り口も窓もないが、おそらくやつの所持スキル【壁抜け】を使って逃げ切ろうって腹積もりなんだろう。


「――うっぎゃああああああっ!」


 少し間を置いたあと、後輩の断末魔の悲鳴がこだました。計画通り、ホッと安心させたあとで念矢を叩き込んでやった格好だ。なんせ【覗き】で壁の向こうは丸見えだし、念矢も障害物を容易く貫通できるわけだしな。


 もう少し泳がせてやつの所持マップの《呪われた湿原》に逃げ込ませ、処刑するついでにレベリングでもしようかと思ったが、それはまた今度でもいい。


 さすがに眠くなってきたので、俺はここで【異次元ボックス】を使って寝ることにした。朝起きたら、みんな周囲の景色を見てなんでグラウンドの中心にいるんだってびっくりするかもしれないなあ……。

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