コントレール

どるふぃん

第1話 はじまり

 私は国語が苦手だった。

 昔から勉強は嫌いではなかった。どちらかというと得意な方だったし、テストの成績はいつも上位だった。頑張って成績を上げると、親や先生、親戚、友達、みんなが褒めてくれた。私はあまり表情には出さないけれど、素直にそれが嬉しかった。だから勉強自体は嫌いではなかった。

 しかしながら、国語はどうしても好きになれなかった。というより、好きになる努力をしてこなかったのかもしれない。

 特に小説には苦労した。「このときの登場人物の心情を五十字以内で答えよ」といった類の問題は、見るだけで嫌気がさした。そんなの人それぞれ感じ方は自由だろ、と心の中には常に反抗的な思いを吐露する自分がいた。そういう私は、文章読解力もさることながら、作文が大の苦手だった。何となく言いたいことは頭に思い浮かぶのだが、それをうまく整理し、文章として出力する能力が絶望的に欠けていた。それを補う語彙力もまた然りだった。言葉にしたい思いは、常にお空に浮かぶ雲のような姿でただそこに居るだけであった。頭の中で必死にそれを造形しようとしても、できあがる作品はいつも歪で、お世辞にも美しいといえるものではなかった。

 さてそんな私が、なぜエッセイの執筆に手を出すことになったのか。もっとも、苦手とする国語力を磨くためであることは、ここまでの記述から容易に想像できそうではあるが、実は一番の理由はそこではない。

 私は齢三十を手前にして、自分という人間は一体どういう人間なのかを改めて知りたいと思うようになった。

 私は自分が苦手だった。

 つい最近、星野源さんの「いのちの車窓から」というエッセイ本を読んだ。私は星野源さんが好きで、その人となりも好きだった。この本を読んだとき、もちろんエピソードも大好きなのだが、源さんが紡ぐ素直な言葉からその人間性だったり、心の姿が垣間見え、ますます源さんが好きになった。そしてふと、私も心のうちを素直に文章にしたためてみたら、私という人間が見えてくるのではないかと思った。

 前々から、自分はどういう考えを持った人間なのかということに興味はあった。私は私なりにいろんな考えを持って生活をしているはずだった。仕事の中で理不尽な要求を突き付けられたとき、好きなラジオ番組のトークに心動かされたとき、テレビのワイドショーで下世話なニュースを恥ずかしげもなく討論するコメンテーターを見たとき、自分心の奥深いところにいる“俺”は自分はいつもいろんなことを考え、そして主張していた。

 私は今まで心の中の“俺”に真面目に向き合うことをしてこなかった。私は自分が苦手だった。自分の言動を俯瞰してみたとき、なんとも形容しがたい、恥ずかしい気持ちに襲われた。なんであのときこんな発言をしたんだろう。どうしてこんな態度をとってしまったのだろう。後々振り返った時にそう思うことが多々あった。だから自分を表に出すのはいつだって勇気のいることだった。

 ところが、源さんに出会ってから少し考えが変わった。ラジオやテレビで映る源さんを見ていると、源さんはいつも素直に自分と向き合っている気がした。自分の恥ずかしい部分も(すべてではないとは思うが)見事にさらけ出していた。しかもそれをとても楽しんでいるようにもみえた。その思いを具象化して表現する術ももっていた。私はそんな源さんがとても素敵に思えた。そして、私もこういう生き方をしたいと思うようになった。

 そんな中、先の「いのちの車窓から」を読んだ。その中の一つのエピソードに、私は背中を押された。それは、源さんが文章を書くきっかけとなった大きな理由が「メールが下手だったから」というものである。ここで多くは語るまいが、源さんも元々文章を書くのが苦手で、それを克服するために敢えて仕事にしたという。うまく文章にできたときに頭の中が整理されたような気がして気持ちいがいい、と。私は、まさにこれだ、これがやりたかった、と心の底から思った。

 かくして私も苦手な文章に取り組むことにしたのだが、果たしてどこまで続けられるのだろうか。ここ最近は、いろんなことが三日坊主になりがちな自分である。それでも、第1回をここまで書き上げたのだから、まずは自分を褒めてやりたいと思う。今後は、どうせやるなら語りたいことはとことん語らせてもらおう。もしご興味をお持ちであられたら、国語力に乏しい一般人の戯言でも構わなければ、しばらくの間お付き合いいただけたらと思う。

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コントレール どるふぃん @my_wrightman

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