BLUE
えすの人
第1話 BLUE
校舎の三階にある私の教室。青い空は手が届きそうな程近く、白い雲は大きく遠い。夏休みはどこに行こうかなんて友達と胸を弾ませていたのは昨日の話。現実はそう甘くはなかった。机の上に置かれているのは、青い空に浮かぶ雲と同じ、真っ白な解答用紙。なんと煩わしいことか。これを何とかしなければ、私の夏休みはブルーに変わる。窓辺に映るこの大空のように。
そんな八月一日、補習そっちのけで窓の外を眺めていたらこんな夢を見た。
何もかもを投げ出して窓から外へ飛び出した。自然落下が待っていると思いきや、その予感に反して、私の体は宙に浮いた。このふわふわした感覚はどこか覚えがある。身を翻して下界を見下ろしてみと、そこには水が張られたプールがあった。なるほど、この心地よい感覚はプールに浮かぶものであったか。キラキラ煌めくプールの水は私を纏ってさらに魅力を増していった。
再び背を地に翻す。太陽が近い。その割に全然暑くない。どういうわけか、頬に冷たさを感じる。愛しい感覚に手を添えると、そこには異様な形をした丸いガラスがあった。見覚えがある。夏に飲めば涼しいもの、ラムネの瓶だ。中は液体で満ち満ちていて、溢さぬようにと思わず口をつける。甘く、冷たく、美味しい。
涼しい風波に揺られて揺蕩う感覚。
私は今ほど幸せという言葉が当てはまるものを他に知らない。ずっとこの時間が続けばいい。そう思い、私は宙で瞼を閉じて眠りについた。
「………………cent」
嫌な夢を見た。
空が遠くなり、日が翳る。私の夏が終わりを迎える。
「…………parcent」
私はうなされ、浮力を失って地へ落ちた。
「……century」
チャイムの音で目が覚めた。
先生の発音で現実を思い出した。
英語の解答用紙がよだれに溺れている。
恥ずかしい解答用紙の空白はそこそこ埋まったまま、私は夏休みを迎えた。夏休みは海に行きたいな。友達とそう話しながら、昼下がりの帰路についた。
BLUE えすの人 @snohito
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